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よくあるこぼれ話  作者: 鈴乃


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ゾッとした話


 ある日ある夜、ある街の酒場で。


 その店は『酒場』という雑多な名前でくくるにはいささか上品な立地にあった。

 決して広くはない店内に間接照明が控えめな灯りを落としている。不自由はないが、輪郭(りんかく)がおぼろになる程度のあいまいな明かり。

 それらが生み出す雰囲気のせいか、酔った客たちの会話は和やかなものだった。

 めいめいにグラスを傾け、誰ともなしに旅の思い出を語り始める。

「ねえ、次はそこの神官さま、話してよ」

 若い神官が微笑(ほほえ)んだ。

「旅の思い出か……そうだね」


■□■□

 

 みなさんのパーティーに『リーダー』はいるかな。

 一人旅ならともかく、複数人で旅をしてれば責任者役が必要になるよね。仕事の契約で代表として名前を書いたり、色んな理由でメンバーのお金を預かったり。

 あと、単独行動するときはその人に行き先を伝えておいたり。

 オレ? いや、オレは旅自体が初めてで、驚くことがたくさんだよ。


 さっきまでここにいた戦士。ソル、っていうんだけど。

 うちでは今言ったようなことは彼がやってるんだ。

 リーダーシップってタイプではないけどそれなりにマジメでね。三人で待ち合わせをしてオレだけが来たりすると、『ウィザは?』って聞くんだ。


 ある日、三人で遺跡の探索に行った日のことだった。

 魔物はそんなに多くなかったけど道が入り組んでてね。オレはいつの間にか一人ぼっちで迷子になっていた。

 そうしたら後ろから、イスト、って名前を呼ばれたんだ。

 振り向くと仲間の魔導師が立ってた。オレはほっとして、(うなが)されるまま彼のあとをついて行った。

 しばらく歩いて、魔導師がふと通路の先を指差した。

『ほら、ソルがいたぜ』

 オレは感激して通路の先へ走った。見知った仲間の背中にかけより、名前を呼ぶ。

 振り向いたソルはちょっと驚いた顔をしてた。そして言った。


『ウィザは?』


 ご想像通り、オレの後ろには誰もいなかった。

 しかもオレが通って来たはずの通路は、(はる)か昔に崩落(ほうらく)して通れなくなった道だって。

 オレは誰に、どこを案内されたんだろうね?


■□■□


 神官は呟くように話を締めくくった。

 さざなみのような沈黙が店内に広がる。

「そういう話なら俺もあるぜ」

 と、向かいに座る魔導師がグラスを置いた。


■□■□


 仲間と連れだって遺跡の探索に行った日のことだ。魔物は多くなかったんだが、やたら入り組んだ遺跡でな。

 依頼されたマッピングを済ませて、さぁ帰るか、っつって外に出た瞬間だった。

 前を歩いていた連れが急に立ち止まった。

 なんだよ、って俺の文句を無視して、ゆっくり、ゆっくりと振り返る。

 スカした割に顔に出る野郎なんだが、あの日だけは凍りついたような真顔だった。



『…………………イストは?』



■□■□


 神官は勢いよく席から立ち上がった。

「忘れて帰るところだったのかい!?」

「お前が仲間になってすぐだったんだよ!」

「だとしてもだよ!!」

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