ゾッとした話
ある日ある夜、ある街の酒場で。
その店は『酒場』という雑多な名前でくくるにはいささか上品な立地にあった。
決して広くはない店内に間接照明が控えめな灯りを落としている。不自由はないが、輪郭がおぼろになる程度のあいまいな明かり。
それらが生み出す雰囲気のせいか、酔った客たちの会話は和やかなものだった。
めいめいにグラスを傾け、誰ともなしに旅の思い出を語り始める。
「ねえ、次はそこの神官さま、話してよ」
若い神官が微笑んだ。
「旅の思い出か……そうだね」
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みなさんのパーティーに『リーダー』はいるかな。
一人旅ならともかく、複数人で旅をしてれば責任者役が必要になるよね。仕事の契約で代表として名前を書いたり、色んな理由でメンバーのお金を預かったり。
あと、単独行動するときはその人に行き先を伝えておいたり。
オレ? いや、オレは旅自体が初めてで、驚くことがたくさんだよ。
さっきまでここにいた戦士。ソル、っていうんだけど。
うちでは今言ったようなことは彼がやってるんだ。
リーダーシップってタイプではないけどそれなりにマジメでね。三人で待ち合わせをしてオレだけが来たりすると、『ウィザは?』って聞くんだ。
ある日、三人で遺跡の探索に行った日のことだった。
魔物はそんなに多くなかったけど道が入り組んでてね。オレはいつの間にか一人ぼっちで迷子になっていた。
そうしたら後ろから、イスト、って名前を呼ばれたんだ。
振り向くと仲間の魔導師が立ってた。オレはほっとして、促されるまま彼のあとをついて行った。
しばらく歩いて、魔導師がふと通路の先を指差した。
『ほら、ソルがいたぜ』
オレは感激して通路の先へ走った。見知った仲間の背中にかけより、名前を呼ぶ。
振り向いたソルはちょっと驚いた顔をしてた。そして言った。
『ウィザは?』
ご想像通り、オレの後ろには誰もいなかった。
しかもオレが通って来たはずの通路は、遥か昔に崩落して通れなくなった道だって。
オレは誰に、どこを案内されたんだろうね?
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神官は呟くように話を締めくくった。
さざなみのような沈黙が店内に広がる。
「そういう話なら俺もあるぜ」
と、向かいに座る魔導師がグラスを置いた。
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仲間と連れだって遺跡の探索に行った日のことだ。魔物は多くなかったんだが、やたら入り組んだ遺跡でな。
依頼されたマッピングを済ませて、さぁ帰るか、っつって外に出た瞬間だった。
前を歩いていた連れが急に立ち止まった。
なんだよ、って俺の文句を無視して、ゆっくり、ゆっくりと振り返る。
スカした割に顔に出る野郎なんだが、あの日だけは凍りついたような真顔だった。
『…………………イストは?』
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神官は勢いよく席から立ち上がった。
「忘れて帰るところだったのかい!?」
「お前が仲間になってすぐだったんだよ!」
「だとしてもだよ!!」




