メガネはいらない
ある日ある時ある街でのこと。
ソルたちは大通りで人波に揉まれていた。
街に着いた時間が悪かったのか、通りはどこも人でごった返している。
「えーと、このあたりに宿があるはずだけど」
「あれじゃねえか?」
ウィザが道の向こうを指差した。数十メートル彼方の軒先に米粒ほどの看板がぶら下がっている。
「あんなに遠くの字が見えるのかい!?」
「ふふん」
ウィザが誇らしげに背筋を伸ばした。
かくしてソルたちは無事に宿に着いた。
三人部屋へのチェックアウトを済ませ、めいめいにくつろぐ。
「だからさ、この簡易術式でも結界呪文は発動するはずなんだけど」
「何か抜けてねえか? この辺りが妙に手薄っつうか、しっくり来ねえ」
ソルは荷物の整理を終えて顔を上げた。
ウィザが片手で頭を押さえ、イストのメモと睨みあっている。
書かれているのは呪文を構成するための計算式……らしい。
魔力を持たないソルからすれば何を言っているのか分からないが、二人の会話が通じていることはわかる。
どれほど剣の振り方を説明しても、イストが首をかしげるのと近い感覚なのだろう。
ウィザが深く息を吐いて立ち上がった。
「待ってろ、何か口に入れるもん頼んでくる」
ドアが閉まる。
と、イストが深刻な顔でソルを見ていた。
「あのさ、ソル」
「うん?」
「…………ウィザがものすごい顔でメモを見てたんだけど、彼、もしかして遠視」
「ガチで考えてんだよ」




