Don't touch !!
この世には触れてはいけない部分、というものがある。
文字通り体の一部であったり、なんらかの機密であったり、個人のコンプレックスであったり。
ある日ある町、夜も更け始めた酒場の一角で、イストは気持ちよく酔っていた。
序盤から付き合っていたウィザは、思い出話が三周目に入った時点で部屋に帰っている。
イストは何杯目かのグラスを空け、向かいに座るソルの両手をとった。
「だからね、オレはキミたちと旅ができてすごくよかっらとおもっれるよ!!」
「あーハイハイそーな。……ちょっと外の空気吸ってくる」
ソルが席を離れた。
隣のテーブルの客がそっと苦笑する。
「神官さま。戦士や剣士の利き手には触らないのが礼儀だぜ」
明けて翌朝。ソルとイストは二人で朝食をつついていた。
ウィザが起きてくるのはもうしばらくあとだろう。
「ソル、キミ左利きかい?」
「そーだよ。なんで?」
「昨日はごめんね。次から気をつけるよ」
「あ、あ~~…………や、いいよ」
ソルは首を傾けて天井をあおいだ。
誰が言い出したのかわからないマナーや暗黙の了解は面倒だ。
多くの旅人が行き来する世界で漠然と根付いたものは多い。
職業による先入観もその一つだろう。例えば魔導師は知的で冷静な性格だとか、神官なら穏やかで無害だろうとか。
『だってあいつら細っこいのばっかりだぜ。殴り合いなんてしたことないだろ。呪文なしで何かやれるならやってみろってんだよ』
いつかの酒場でそうのたまった武闘家くずれは、即、ウィザによって椅子ごと蹴り飛ばされていた。
『あぁ悪ィな、武闘家ならこのくらいかわすと思ってた』
そこから始まった乱闘については語らない。
当たり前だが、職業の前に個人の性格がある。思い込みで警戒を怠るのはただの油断だ。
ましてやそれを口に出して、なんの面倒も起こるわけがないと見くびるのは不用心すぎるだろう。
例え目の前の神官がいい奴で、穏やかで人畜無害で、やっぱり非力だったとしても。
「ほ、他の奴が何て言うかは知らねーけど。えーとな、もうなんか……お前が近いのは慣れた、っつーか」
「ソル……! オレを信頼してくれてるんだね!」
「…………あ、そうそう、そういう感じ」
「違うの!?」
世の中には触れてはいけない部分がある。




