ある食堂の店員のはなし
はいお待たせ、ご注文のお料理でーす。
……はい?
あぁうん、ヒマよ。
この時間はランチにもディナーにも半端だからね。
お客さんは一人旅?
あー、待ち合わせ。
旅仲間さんと。
うんうん。
一日自由行動して、また明日からよろしく、って感じね。
仲がいいとか悪いとかじゃなくて、たまには一人の時間ほしいよね。わかるわかる。
そう言えばこないだ来たお客さんもそうだったよ。
どこから来たって言ってたかな、変わったローブを着た魔導師だった。
ううん、まだ若かったよ。ハタチもいってないんじゃない?
えっとね。
その人もお客さんと同じでさ、仲間と離れて自由時間してたんだって。
買い物したり、ぼぉっと路上芝居を見たり、まぁ一通り満喫したのね。
待ち合わせにも時間があったからさ、先に約束のカフェに入ったんだって。
広いわりにお客がいるのは2、3席で、ほぼ貸し切り状態だった。
混むような時間じゃなかったし、まあ、そういうもんかな、って思って席に座ったんだよ。
なんてことない、窓辺のテーブル席。
うん、そりゃ混んでれば遠慮しただろうけどね。店はガラガラだし、そのうち旅仲間も来るわけじゃない。
そんなこと思いながらメニューを開こうとした。
「小僧。そこは×××××様の指定席だ」
急に声かけられたわけ。
びっくりだよね。近くの席には誰もいなかったはずなのに。
当然その魔導師もびっくりしてね、振り向いたわけ。
すぐ後ろに身なりのいい男が一人立ってた。
何て言うのかな、執事? 使用人? そういう感じの身なりのよさね。
ただその男、目が妙にぎらぎらしててね、ボディーガードみたいな雰囲気のほうが強かったんだって。
一瞬魔導師が思ったのは、妙な言いがかりつけて何かするつもりなんじゃないか、ってことだった。
なんかね、よくあるんだって。わざとぶつかって絡んでくるちんぴらみたいな?
だって店の人はそんなこと一言も言わなかったし、『予約席』なんてプレートもない。
常連がお気に入りの席をそう呼ぶことはあるけど、男の身なりはこんな安い店に来る格好じゃなかった。
で、どうするか。
「……そりゃ悪かったな」
うん。
すぐ立ち上がって譲ったんだって。
不自然にならない範囲で男に背中を見せないようにしつつ、その魔導師はすぐ店を出た。
あれ、おかえりですか、って店員が声かけてきたけど、ほぼ無視して通りを突っ走ったんだって。
やっぱりさ、気味が悪いじゃん。それに男の言ったことが本当なら、いずれそのナントカ様が店にやって来ることになる。
……単にヘタレなだけ?
かもね。
ところでさ、そこの壁と天井、新しいでしょ。
その魔導師がケンカしてぶち抜いたんだよ。
酔った武道家だかごろつきだかがお尻触ったらしくてさぁ、二言三言言い争ってどかーん! って。
旅人同士のケンカなんて珍しくないけど、せいぜい椅子を焦がすくらいだよね。
ま、そいつらにはあたしも絡まれてたから、ザマーミロって思ってたけど。
何の話だっけ?
あ、そう、その魔導師も結構いい性格って話。
気が短いっていうか、一方的に命令? されて黙ってるタイプじゃないんだろうね。
ただその時は『ナントカ様』とはちあわせしちゃいけないって、いや、そんなはっきりしたもんじゃないか、とにかくヤバげだって思ったらしい。
その後、仲間をあの店に行かせちゃだめだと思ったのか、単に一人が不安だったのか、魔導師は人混みの中から旅仲間を探しだしてとっ捕まえた。
その直後だったのよ。
さっきまでいたカフェが火事だ、って聞こえたのは。
平屋の店からは空に届くぐらいの火と煙が上がってた。
店は全焼、店員どころか周りで買い物してた人たちも巻き込まれて、役所総出の大騒ぎだって。
魔導師の顔見てきょとんとしてた仲間も固まる固まる。
ま、結果的に事故を避けられたんだからラッキーじゃない?
って言ったら、本人もとりあえずは納得したみたい。
「……にしても、もしあの時席を譲ってなかったら、どうなってたんだろうな?」
なんて、こっちに聞かれてもねえ?




