衛兵長のお仕事
―第八話衛兵長のお仕事―
「なるほど、白い女神という噂を流したのはロウイおじさんだったんだね」
俺は灰色の髪に灰色の瞳を持つ少女、リッカに事の発端を話していた。
俺が手助けをしたおじいさん、ロウイというらしい。
街でもすぐに噂を広げると有名らしい。
「ロウイおじさんが君に迷惑をかけたようだね、衛兵長としてこの街の市民が君に迷惑をかけたことに謝罪したい」
リッカが俺に深く頭を下げる
「いいって別に!ほら頭を上げて!」
「それよりアメトラルって言ったけどリッカも子爵家なのか?」
「そうだよ、エミウル達とは違って私もこの街を守る衛兵として兄と働いているんだ」
エミウル達に目をやりながら話すリッカ、エミウル達は大人しくしているがリッカに不満そうな視線を向けている。
「へぇ〜リッカの兄貴か、街で衛兵を結構見たけどその中にいたのか?」
「今日兄さんは正門の警備をしているはずだから会っていると思うけど?」
ん?正門の警備?
ハリスともう一人の衛兵のどっちかなのか?
「もしかしてリッカの兄貴の名前…ハリスか?」
リッカが頭を縦に振る。
「ハリス・アメトラル副衛兵長、私と全然似てなかったでしょ?」
「本当に似てないな…」
まず髪の色が違った、リッカは灰色の髪だがハリスは茶髪だった。顔も全然似ていないリッカは吊り目ハリスは垂れ目だし。
「私はお母さん似で兄さんはお父さんに似てるんだ」
「いつまで僕達を無視している!僕達も話に混ぜたまえ!」
エミウルが突然大声を上げた、どうやら俺とリッカに無視されていることが不満だったらしい。
「エミウルはそこで静かに反省すること!君達はいつも、この街に来る女の子にすぐ手を出そうとするんだから!」
「愛らしい者に声をかけているだけではないか!?」
いや、声をかけているだけのレベルじゃないだろ、勝手に俺を自分の嫁にしていたじゃねぇか。
「毎回どの女の子にも嫁になれって言ってる気がするけど?」
リッカがジト目でエミウル達三兄弟を見る。
ぐっ、と言ってエミウル達は黙り込んだ。
「そろそろ私は仕事に戻るけど、ついでに一緒に街を回るかい?エミウル達に追いかけられてまだ見れてない場所もあるだろうし」
確かにまだ見れてない場所がたくさんある、衛兵長のリッカが案内してくれるなら安心して街を見て回れるな。
「一緒に街を見て回ろうかな、まだ時間はあるし」
セブルの街を見て回りながら、俺はリッカの仕事も見ることができた。
リッカは主な仕事は冒険者達のトラブルの解決だった
この街の冒険者がいくら友好的だと言っても気性の荒い冒険者もたくさんいる。
だが、そこで女の子であるリッカがなぜ衛兵長の座に就いているのかを見ることができた。
街を見て回るついでにある酒場に入った時だった。
「さっきから俺達をバカにしやがって!!殺すぞ耳長野郎!!」
酒場に入った瞬間、魔人族の冒険者が怒号を上げた。
「ハハハ、そうやってすぐに怒る、君達魔人は僕達エルフのように落ち着いた心は持たないのか?」
どうやら魔人族の冒険者とエルフの冒険者が揉めているようだった。
「ハッ!そうやってエルフはいつも自分達は高貴な存在のように言うな!ただ耳が長げぇだけで能力も全て俺達に劣っているだろうがよ!」
「僕達が劣っているだって?」
どうやら魔人に劣っていると言われたのが気にくわないらしい、エルフに怒りが見え始めた。
いつ、本当に殺し合いが起きてもおかしくない雰囲気だった。
そこへ、リッカが歩み寄った。
「何を揉めているんですか?」
エルフと魔人が同時にリッカに視線を向ける
「ガキはすっこんでろ!俺は今この劣等種に用があるんだ!」
「劣等種だと?この世に存在する価値のない魔人族風情が!!」
魔人族の冒険者がナイフを取り出し
「ぶっ殺すッ!!」
エルフも腰から剣を抜いた
同時に剣とナイフを振り下ろす、お互いの命を奪おうとした次の瞬間
ドンッッ!!
一瞬にして魔人とエルフがリッカに抑え込まれていた
「ガッハッ!!」
「クッ!!」
完全に抑え込むとリッカはゆっくりした口調で
「私は言ったはずです、ナゼ、揉めているのか、と」
さらにリッカは力を込めて抑え込む
「もしこれ以上続けるのなら、私はあなた方の腕を折ります、そう簡単に命を奪おうとしないでください」
するとリッカの気迫に怖気付いたのか魔人とエルフはナイフと剣を離した。
それを見たリッカは二人を解放した。
「…イテテ」
「……」
「ちゃんと仲直りして!これからは仲良くしてくださいね!」
さっきまでとはまるで別人のような笑顔で魔人とエルフに向き直るリッカ。
それを見た魔人とエルフはお互いを見て
「…悪かった」
「こちらこそ、すまない」
ちゃんと仲直りできたようだった。
見ているこっちまで心からホッとした。
「本当はみんな優しいんだ、ただ意見の違いがあっただけで…」
魔人とエルフに温かい眼差し向けるリッカ。
なるほどだからリッカが衛兵長になったわけだ…
「…すごいな、リッカは」
心底そう思った。
そして街を全て見終え、レインのいる場所へと戻って来た。レインの横にハリスもいる。
「おかえりなさいシェル、今ハリスさんとお喋りしていたところなんです」
「こんにちはまた会ったねシェルちゃん、あれ?」
リッカに視線を向けるハリス
「リッカと一緒に居たんだね、どう?この街は楽しかったかい?」
この街では色々な人に出会った、噂を広げると有名なロウイさんや女癖の悪いシュトラウス三兄弟、そしてこの街を守る衛兵長のリッカと副衛兵長のハリス。
色々な事があったが…
「とても楽しかった、近いうちにまた来るよ」
リッカとハリスに別れを告げ、レインと牧場への帰路に入る。
「それじゃあシェル、帰りましょうか叔父さんと叔母さんが待ってます」
「あぁ、帰ろう」
そして商業都市セブルでの波乱の一日が終わった。
今回はリッカとシェルがメインの物語でした!
リッカは強くて優しい理想の衛兵長でしたね!
これからもセブルで出会った人達は物語の中にもっと登場していきます!次話をお楽しみに!