最凶との出会い
―第七話最凶との出会い―
商業都市セブルその巨大な正門に驚いているなか
レインは慣れた様子で通行許可を取りに行っていた
「こんにちはハリスさん、今日は正門の警備のお仕事
ですか?」
「こんにちはレインちゃん、最近はあまり事件がないから正門の警備の仕事くらいしかないんだ、まぁ事件がないことは良いことだけどね」
レインは知り合いらしい正門警備の衛兵ハリスと軽い短話をしていた。
「ところでそちらの子は?あまり見ない顔だけど…」
衛兵ハリスがこちら視線をやる。
「この子はシェル、私たちの牧場で新しく働くことになった子です。」
「シェルちゃんか、はじめまして僕はハリスまた顔を合わせることがあるだろうから、今後ともよろしく」
衛兵ハリスがこちら軽く敬礼をする
俺も反射的にお辞儀をした
「ハリスさん私とシェルの通行許可お願いします」
そういうとハリスは二枚の紙を取り出し印を押して
「はい、通行許可証だよ。今日はゆっくり街を見て回るといい、今日はこの都市の創立記念日だからたくさん出店が出回っているはずだからね」
ハリスから通行許可証を受け取り、俺とレインはセブルの正門を通過した。
ハリスの言う通り街は大賑わいだった
煉瓦作りの建物が並ぶこの街には陽気な音楽が流れ、たくさんの人が歌い踊っている。
出店にはりんごあめのようなお菓子があり王様のような格好をした人が子供に風船を配っている。
きっとこの世界のピエロのようなものなのだろう。
「凄いですよね、この街は記念日とは関係のない日もこんな感じなんですよ」
レインがこちらを向いてそう言った
「この街には旅をしてきた冒険者さんがたくさんいるんです。その方たちが持ってきた技術や伝統が、長い時間をかけて集まって、そしてこの街はできたんです」
「だからなのか、様々な種族の冒険者いるのは…」
見える範囲にはエルフやドワーフ、魔人族などの様々な種類の冒険者が一緒に酒を酌み交わしている。
すると数人の冒険者達がこちらに視線を向けた。
「よぉ!レインちゃん!今日はいつものを売りにきたのか?」
声をかけてきたのは髪をオールバック風に流した魔人族の冒険者だった。
「こんにちはクレイドさん、今日はクレイドさんの好きな燻製チーズがありますよ」
そう言うとレインは布を被せていた積荷をあっという間に小さな出店にした。
「じゃあそのチーズを貰おう!ちょうど酒のつまみが欲しかったんだよな〜」
「はい、どうぞこちら700ユルになります」
「おう!700ユルだな、今日は特別だ!つりはいらねぇよ!」
そう言い銀貨のをレインに渡す
「お買い上げありがとうございます!」
クレイドがこちらに目をやり
「今日は祭りだ!そこの可愛い嬢ちゃんも楽しめよ!」
そう言い残し飲み仲間のところへ戻っていった。
「シェル、私はしばらくここにいるので街を見て回っ ていいですよ。街にどんな店があるのか気になってるんですよね?」
確かにこの街を見て回りたいと思っていた。リルもいつの間にか居なくなっているし。
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
街を見て回り始めて30分ほど、この街の人に色々な事を聞いてある程度この街の地理については分かってきた。
この街は主に三つの子爵家がこの街の政治や経済の中心らしい。
政治の実権を握っているのはシュトラウス子爵家
司法を行なっているのがラジェイル子爵家
防衛警備を行なっているのがアメトラル子爵家
このようにわけられているらしい。
この街についての情報を牧場から持ってきたメモ帳に
書きながら歩いていると。
「参ったな…」
何やら困っているのか、頭を悩ませているおじいさんがいた。
「どうしたんだ?」
声をかけてみると、おじいさんがこちらに顔を向けた
「アメトラル子爵家にこの鎧と盾を届けなきゃならないんだが荷馬車の車輪が壊れてしまったんだ…」
どうやら荷馬車の車輪の金具が破損してしまっているようだった。
「この金具は交換しないと修理できない、だがこの金具は希少な金属で作られて替えがないんだ…どうしたもんか…」
その金具に目をやる
長年使われていたのか金具は錆びついてしまったいた
「ちょっとその金具貸してくれないか?」
おじいさんが訝しげな表情で金具を貸してくれた
「安心しろ、ちょっと戻すだけだから」
「我が名はシェル、万物の時を戻し再びこの世に創世せよ」
柱を直した時と同じように詠唱を唱え金具を再生した
「よし、と次は車輪に取り付ければ…」
車輪に金具を取り付ける
「よし!直った!これで走れるだろ?」
おじいさんに目をやると、何やら拝むようなしぐさをしていた。
「あなた様は神が使わせた使徒様ですか?」
神が使わせた、といえば間違いではない気がするが…
「いや、違うけど…」
ありがたや〜ありがたや〜っと目の前で俺を拝むおじいさん。
周りがこちらをめちゃくちゃ見ている。
俺はおじいさんに「だから、使徒じゃないって!」と
必死に言い聞かせた。
「ではシェル様、私はこれからこれを届けてまいりますのでこれで…」
シェル様ってまだ勘違いしてやがる…
ひとまずおじいさんを見送りホッとする。
「よし、また街を見て回るか…」
そしてまた街を見て回ろうとすると
「ちょっとそこのお嬢さん?」
後ろから声をかけられた、声からして若い青年だということは分かった。
振り向くとそこには三人の貴族のような服装の青年立っていた。
「え〜とあんたら誰?」
すると三人の貴族は、それを待っていた!というような決めポーズをした。
「僕はシュトラウス子爵家の長男!エミウル・フォン・シュトラウス!」
「私は次男!ヘミウル・フォン・シュトラウス!」
「俺は三男!レミウル・フォン・シュトラウス!
「三人揃って!シュトラウス三兄弟!」
いきなりの自己紹介に俺は呆然としていた
「ところでなんだかお嬢さん、僕の嫁にならないか?」
「はぁ!?」
何言ってんだこいつ!?
「何を言っている彼女は私の嫁だ!」
「いいや兄者、彼女は俺の嫁になるんだ」
いきなり声をかけてきて、目の前で勝手に嫁争奪戦を始めたシュトラウス三兄弟
「お嬢さん!誰が君の夫だ!?」
「いや!何言ってんだあんたら!?人を勝手に結婚させようとすんな!」
てか中身は男だし!男に興味ないし!
「誰がいい!?」
聞いてないし!?
こうなったら…
振り返るり全力で走った!こういう時は逃げるが勝ちだ!
「あっ!待ってくれ!お嬢さぁぁぁん!!」
やっぱり追ってくるよな、だがこっちには転移がある
ある程度どこに何があるのかは把握している。
「西地区の酒場へ!」
ガキンッ
「ここまですぐには来れないだろ…」
シュトラウスって言ってたなあいつらがこの街の政治の実権を握っている子爵家の奴らか…
「よし、気を取り直して…」
カタカタカタカタカタッ!
マンホールのようなものが音を震えていた
おい…嘘だろ…?
「見〜つ〜け〜た〜!!!」
ガンッ!!
三兄弟が飛び出して来た!身体中汚物まみれになって
「ハハハ!この街で僕達から逃げられると思わない方がいい!」
それにしても早すぎだろ!?
俺はここに移動するまで一秒もかかってないぞ!?
「うわぁぁぁぁ!!」
また走りだす!振り向いたら追いつかれる!
街の中を駆け巡る。
足の速さでは勝っている、だがシュトラウス三兄弟の方がこの街には詳しい。近道でもされたらすぐに追いつかれる
「…ハァハァ、しつこすぎだろ…」
タッタッタッ!
こちらに足音が近づいてくる
もう走る体力はない
「やはり、ここにいたのか!さぁ!このエミウルとしっぽりと一夜を明かそうではないか!シェル!」
「ハァ…なんで…俺の名前を…!?」
俺は名前をまだ教えていないはず…
「街で噂になっているぞ?不思議な術を使う白い女神が来ていて名前はシェルというらしいと」
あの、おじいさんか!?
「さあ!しっぽりと一夜を!」
ドカッ!
こちら歩いてくるエミウルの顔が歪む
一人の少女がエミウルの顔目掛けて飛び蹴りをした
「最凶の女たらし三兄弟全員確保!!」
彼女の足元にはヘミウルとレミウルが気絶していた
「なっ!何をするんだ!?リッカ!?」
どうやらエミウルとリッカという少女は知り合いらしい
「また君達がバカなことをしているから、捕まえに来たんだよ」
とりあえず助かったのか?
「君、大丈夫?」
心配そうにこちらを見てくるリッカ
「あぁ、助けてくれてありがとう」
リッカが俺の顔をじっ、と見ている
「君が、今街で噂のシェル?」
どうやら本当に街中に噂が広がっているらしい
それにしても本当に恐ろしいほど情報が伝わるのが早いな。
「あぁ、俺の名前はシェル・インカネート君は?」
名前を聞かれたリッカは、ビシッと敬礼をして
「私はリッカ・アメトラル、衛兵長をしています!」
彼女との出会いでようやく小さな火種で始まった波乱が終わった
今回は新しいキャラ!最凶の女たらしシュトラウス三兄弟にシェルは大苦戦していましたね!
しかし彼らもこれからも様々なところで登場します!そして最後に現れたリッカはどんな人物なのかは次話に分かります!次話をお楽しみに!