ようやく訪れた平穏
ー第四話ようやく訪れた平穏ー
俺は目の前の少女に、あいつと瓜二つの少女に
思わず聞いていた
「…久音?」
少女は首を横に振った、そして俺の突然の問いに
優しい笑顔で答えてくれた。
「いえ、私はクオンという名前ではありませんよ?」
すると頭の上にちょこんと座っているリルが少女に
聞こえないほどの小さい声で、俺の疑問の答えを
教えてくれた
「この世界には現実世界、シーちゃんがいた世界と鏡
のようになっている部分があるの、だからこの子は
シーちゃんが知っている子とは瓜二つだけど、この
女の子はこの世界の住人なんだよ」
なるほど、だからこんなにも似ているのか…
久音と同じ紺色の髪と紅い瞳、顔もまったく同じ、
もう一度少女に目を向けると何やら少女もこちらに
聞きたい事があるのか、何やらもじもじしている
「何か聞きたい事があるのか?」
「はい、え〜と、先程このあたりで叫んでいたのは
あなたですか?」
ゲッ!まさかあの時近くにいたの!?
それだったらまぁまぁ恥ずかしい!
「あ〜あれは、何というかストレス発散というか…」
ハハハ…と引きつった薄笑いを浮かべる
少女はキョトンとした表情で聞いている、リルは
頭の上でニヤけている、気まずい…
「安心しました、何か事件が起きたかと思ったので」
「悪かったな、無駄な心配させちまって…」
すると少女は姿勢を正し
「自己紹介が遅れました、私この近くの牧場で働いて
いる、レイン・ステイションと申します。」
「あぁ俺も自己紹介が遅れた、頭の上にいるフクロウ
はリル、俺の名前はシェル…」
そういえば、名前は決めたがまだフルネームは決めていなかった、なら今ここで決めよう
「俺の名前はシェル・インカネートだ、よろしくな」
「シェルさんお腹は空いてしませんか?よかったら
私の家に来てください、丁度お昼にしようと思って
いたので」
グゥ〜
反射的にお腹をおさえる
考えてみれば、現実世界でも何も食べていなかった
転生するのに空腹までついてくるとは思わなかった…
「ふふ、お腹は正直ですね」
レインが静かに笑う、せっかくの誘い断るわけには
いかないな…
「じゃあ、お言葉に甘えてごちそうになります」
――――――――――――――――――――――――
森林を歩いていた10分程経つが様々な発見があった
まず驚いたのは湖から繋がっている川だ
ずっと都会に住んでいた俺には大自然に流れる川が
とても神秘的に見えた、そんな川の音を聞いていると、心が洗われるような感覚がした。
しかもこの川には所々にエメラルドやサファイアの
ような石が転がっている。
レインが何も気にしていないあたり、こちらの世界
ではごく普通の石ころと同じなのだろう。
動物もたくさんいる、特に印象的だったのは耳の大
きな白いキツネだ。
その白いキツネはとてつもなく動きが早かったのだ
姿が見えたかと思うと一瞬にして50m程離れた場所
に移動したのだ。こんな現実世界ではなかったもの
を続けて見ると本当に異世界だと改めて実際する。
そんなことを考えていると…
「…着きましたよ」
そうレインが言うと同時に森林を抜けた…
そこには一軒の大きなログハウスの様な家とたくさん
の羊や牛が放牧されていた
「これが…レインの住む牧場?」
「はい、ここは私の叔父と叔母が営んでいて住み込み
ながら働いているんです」
なるほど、レインの家兼職場か…
するとレインの叔母らしき女性がこちらに歩いてきた
「おかえりなさいレイン、遅かったわね」
そして俺に視線を向ける
「こちらの子は?」
「この子はシェル、さっき森で出会ったんです。一緒
にお昼を食べようと招待したんですが…」
「ダメ、でしょうか…?」
上目遣いでお願いするレイン、おまけに涙目までして
なんだ!?お願いのプロか!?と思えるほどにレベル
が高い
「えぇ、もちろん良いわよ。食事は皆んなでの方が
楽しいものね、さぁシェルちゃんもこっちにおい
で」
ここに来てようやく平穏を手にした、そんな気がした
――――――――――――――――――――――――
ログハウスに入ると、レインの叔父が二階から降りて
来た
「おや?君は?」
「俺は…」
さすがに「俺」と言ったらなんか変だよな、仮にも今俺の見た目は女の子なんだし…
「私はシェル・インカーネートと申します。森で迷っ
ていたときにレインと出会って食事に招待されまし
て…」
レインの叔父はニコリと笑い
「そうか!そうか!上がって行きなさい、お昼はもう
用意してある」
そしてレインの叔父達との昼食の席に着いた。
レイン達との食事は本当に楽しかった、テーブルの上
にはハ○ジに出てきそうな巨大なチーズが真ん中に置かれていた。
この牧場で作ったという自家製チーズを半分に切り、切った断面を軽く溶かしてパンにかけて食べる。
それがこの世のものとは思えないほど美味かった。
そしてレインの叔父、ネハンさんの武勇伝がとても
面白かった。
ネハンさんは若い頃この世界の中心の都市ハーバルで
衛兵長を務めていて、その都市にある巨大な悪の組織を一人で壊滅させたという話だ。
その時につけられた傷があると背中にある傷見せてくれた。
その後レイン叔母、アマラさんと出会い衛兵長を辞め
ここに移り住んだという。
「ところでシェルちゃんはどこに住んでいるんだ い?」
ネハンさんが俺に質問してきた
「え〜と、家は…」
俺は転生したばかり家などまだない、どう答えたら良いのか分からなかった
そんな俺を見ていたアマラさんが察したのか
「住む場所が無いのかい…?」
すると何かを決めたようにネハンさんが
「ならここに住むといい、住む場所ができるまで、
レインもお前さんと一緒に居たいみたいだしな」
ネハンさんがレインに視線を向ける
「…いいのか?」
首を大きく縦に振って
「うん!」
「いやぁ〜よかったね!シーちゃん!住む場所が見つ
かって!」
うわぁ!?
黙ってると思ったらいきなり大声出しやがって!
ネハンさんもアマラさんもレインも唐突に喋りだしたリルをガン見している
「フッ、フクロウが喋って…!」
ネハンさんが腰をぬかす
「いきなり大声出すなバカ!ビックリするだろ!?
てか、なんでいきなり喋りだした!?」
「さっきまで寝てて、起きたら住む所が見つかってたからつい嬉しくって!」
「すいません!驚かせるつもりはなかったんです!」
このバカリルがぁ、せっかく良くしてもらっていたのにこれじゃあ恩を仇で返しているものじゃないか!
「シェルちゃんはお話ができるフクロウちゃんと友達
なのかい?すごいわねぇ」
「儂も初めて喋るフクロウを見たわい」
「やっぱりフクロウちゃんは喋れたんですね!」
やっぱり?
「レイン、やっぱりって?」
「あれ言ってませんでしたっけ?シェルとフクロウち
ゃんが二人で会話しているところ、私見てたんです
よ?」
知ってたのか、ネハンさんもアマラさんも驚いているだけで怒っているわけではないな
むしろリルに興味津々な様だ。
「はぁ〜焦ったぁ〜!」
リルのせいで住めなくなるかと思ったが…
無事牧場の手伝いをしながら住むことができるようになった。
午後からは、この牧場の手伝いした。
リルはネハンさんと相当話が合うのかネハンさんの頭の上に居座り仕事をしているネハンとずっと話しをしていた。
俺はレインと一緒に羊と牛の乳搾りを手伝った
レインは手際良く乳搾りをしているが俺はまったくできなかったが、レインに教わりながらやると搾れるようになった。
アマラさんはお風呂の準備をするといい、家でお風呂の掃除をしていた。
そして夜夕食を済ませた後、リルとネハンさんは何やらトランプのようなものをしている。
食事が終わり、少しウトウトしていると
「シェルちゃん、今日は疲れたでしょう?お風呂の
準備ができているから入ってくるといいわ」
たとえ体が変わっても中身は日本人風呂には入りたい
「そうですね、入らせていただきます」
カポンッ
お風呂は思っている以上に広かった、湯気で全体は見えないが銭湯ほどの広さはある。
「ふぅ〜いい湯だなぁ〜」
体の疲れが取れていくのが分かった、転生して半日で色々なことがあり体も疲労で限界だった
「ん〜んん〜んんん〜」
鼻歌を歌っていると
「シェル?なんだお風呂にいたんですね」
レイン!?
今の俺は見た目は女の子でも中身は男刺激が強すぎる
「ちょっと待ってー!!」
どうする俺!?
今回の話は長くなりましたが、シェルはこれからレイン達と共に暮らします。その中で起きるシェルには刺激が強すぎるハプニングの数が次回から次々起こります!次話も是非見てください、