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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
序章
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9. リーナ魔法研究所 1


 王都の端の方にあるリーナ多目的魔法研究所の内部。

 大理石で出来た壁や床、しんと静まり薄暗い廊下を俺は歩いていた。


 時折、分厚いコートを着てフードを目深に被った魔法使いとすれ違う。

 道を尋ねるときに相手の声を聞くことで、初めてその性別を知ることが出来る。


 そうして変化に乏しい道がついに壁を迎えることで終わった。

 どう見ても大理石の壁。

 扉などを見つけられないそこをまじまじと見つめる。



「あれっ?道に……迷ったのか?一本道だったのに?」



 壁を触ると何かを感じる。

 魔法が働いているようだ。

 攻撃するとどうなるか分からないので、大声で周りに呼び掛ける。


 行き止まりの壁が左右に動き、中から性別の判らない魔法使いが出てきた。



「この奥でリーナ様がお待ちです」


「おお、助かる」



 しゃがれた声をしている。

 この魔法使いは老人のようだ。

 そのまま奥に向かっていると扉が開き、美女が出てきた。


 今まで分厚いコートに身を包んだ人ばかりだったが、この女性は下着にしか見えない服を着て、マントをふわりと身につけていた。


 露出の多さがグラマラスな体と大きな胸を際立たせている。

 そんな一見裸にも見える女性が、待ちきれないといった様子でユーゴの胸に飛び込んでくる。



「ユーゴ~!!ユーゴ~!!久し振りだね。

 何で会いに来てくれなかったの?」



 押し付けられている豊満な胸を意識しないようにする。

 落ち着け落ち着くんだ、俺ッ。



「お前も知ってると思うが、樹海にいたんだ」


「それは知ってるけどぉ。寂しかったんだよ~」



 俺の胸に頬擦りしているこの女性リーナは、共に第四の魔王グリスの討伐に加わったことがある。

 そんな彼女は出会ったときから、ありとあらゆる魔法を使いこなす天才だった。


 ただ天才過ぎるあまり周囲からは仲間外れにされていたことがあり、そのせいか子供っぽいところがある。

 特に俺に甘えてくることが多い。


 リーナは大きな胸を俺に押し付けながら、上目遣いで言う。



「ねぇ、突然で悪いんだけどさぁ。

 実験に付き合ってくれない?」



 いつものやつだ。

 こうして胸を密着させてくるときは、決まって実験とかのお願い事をしてくる。


 以前、実験と称して超位魔法の試し撃ちで死にかけてからは全て断ってきたが、今回はこちらにもお願いしたいことがある。

 さすがに断りづらい。


「ねぇねぇ聞いてる?

 ずっと前のことは謝るからさぁ、お願い‼」


「分かったよ。やるよ」


「えっ‼本当‼わーいわーい」



 ご機嫌なリーナに手を引かれてついていく。



「弱くなってる今の俺でも出来ることにしてくれよ」


「もちろん。分かってるって」



 リーナに連れていかれた部屋はそれまでの大理石とは明らかに違う材質で壁には隙間がなく、初めて見る不思議な空間だった。

 暗めの部屋で明かりはないものの、壁や床に何重にも張り巡らされた防御魔法がうっすらと光を放っていた。

 俺が部屋に入るとすぐに壁が動き、部屋から出入り口がなくなって結界が完成する。


 薄暗い部屋の中には俺と黒く大きな人形をした何かだけ。

 壁からリーナの声が反響して聞こえる。



「あー、あー、聞こえてる?

 聞こえてるみたいだね。

 じゃあ、今回の実験の説明をするよ~。

 今回の実験では私が研究中の魔獣兵と戦ってもらいます。

 ユーゴなら倒せると思うから頑張ってね。

 はい、説明は終了、準備はいいかな~」



 おざなりな説明の中に気になる単語があった。


 <魔獣兵> 


 魔獣を兵士にするつもりなのは察しが付く。

 しかし、一体どうやって魔界にいる魔獣を連れてきたのか、それとも魔獣を作り出したのか。


 前者のような大がかりなことをすればさすがに俺の耳にも届くはず。

 後者だと思うが、実際に魔獣を作り出したのなら、やっていることは最早魔王と変わらない。

 魔獣を統率して襲ってくる魔王に、魔獣を操って対抗する人類……。

 …あまり考えたくないな。


 そんな未来が来ないようにするためにも、ここはサクッと勝たないとな。



「準備は出来てる。いつでもいいぞ」



 黒々とした大きな人型が首をもたげて、体を起こした。

 真っ黒だった顔に赤い目が現れ、俺を睨んでいる。

 一軒家ぐらいの大きな体、異様に太い腕。

 どう見ても近接型だ。

 一発でもあの太い腕の攻撃をもらうと、それだけで命取りだ。


 黒々とした巨体はこちらを見つめたまま動かない。

 魔法の起動中なのかもしれないが、悠長に待ってやる義理はない。

 かといって、近づいてから動き出されても面倒だ。


 全身の魔力を背中から引き抜いた剣に込める。

 光を帯びた剣を正面に振り降ろし、その切っ先が魔獣兵の方向を差したときに、一気に魔力を開放する。

 剣先から縦に細長い光が放たれ、巨体を真っ二つに切り裂き、通り抜けた光は結界にぶつかって散った。



  <亜空切断>



 この技は通常届くはずのない遠距離を攻撃できる反面、魔力を込めた剣が光るため警戒されて避けられることが多く、魔力消費も激しい。

 そのため、今の俺には使う機会が著しく限られた大技だ。


 それをまだ動き出してすらいない相手に撃ち込んで勝つというのは、何とも言えない気分だ。


 ただよく見ると、真っ二つになった体の真ん中で球体が左右に分かれた体をくっつけていた。

 すぐに魔獣兵の体は元通りになり、復活して跳躍した。

 天井ぎりぎりまで飛び上がり、俺に向かって落ちてくる。


 飛び上がったことで空いた正面の空間に俺は飛び退いた。

 床を大きく揺らして着地した魔獣兵は、驚くほど俊敏に体を動かし、太い腕で殴りかかってくる。


 距離があるから大丈夫と思っていた俺の前に、魔獣兵の太い腕が近づき、避けることができずに攻撃を受けた。

 勢いよく壁に叩きつけられる。

 強い衝撃が走り、背骨が軋んだ。


 息ができなくなり朦朧とする意識の中、強引に体を起き上がらせて、次の攻撃に備える。


 今のはなんだよッ‼

 攻撃が当たる直前、腕が二倍に伸びたッ‼

 直前で身体能力向上(ブースト)していなかったら最悪死んでた。

 体を変形させるのには注意しないとな。

 それと、いつのまにか魔獣兵の体に艶がある。

 亜空切断に対抗するため体を硬化させているのだろう。


 俺には目立った傷はなかったが、音が遠くなり、夢を見ているような感覚になっていた。



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