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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第一の魔王討伐
79/82

79. アダムとイブ ②


 水面に写る、僕の姿は醜かった。

 膨れ上がった顔は不気味で、腕や胴体は皮膚が張り裂けて、そこからピンク色の肉が飛び出している。

 醜く、大きく、強くなった。



「…………あーちゃん………?」



 イブが恐る恐る様子を伺ってくる。

 この姿になってから、イブは僕を怖がってしまい、二人の間に距離が出来ていた。

 僕が近づけばイブが怖がって逃げてしまうため、僕が先を歩き、イブがトボトボとついてくるのを確認しながら、村を散策する。

 村には、色々な食料が備蓄してあり、しばらくは生活できそうだった。

 村人はあれから帰ってこない。

 


「イブ、ショクジ……」

 


 僕がそう言うと、イブは自分の分の食べ物を取って、食べ始めた。

 僕はお腹が空いてないので、食事は控える。


 それにしても、僕はどうなったんだろう。

 この体、人間じゃない……。

 僕は生まれたときから化け物だったのか?

 お父さんが殴ったり蹴ったりしたのも、僕がお父さんの子どもじゃなかったから?


 変な考えが頭に浮かぶ。

 頭の働きは良いのに、それが全て嫌な事を考える為に使われている。

 ダメだ。今日は寝よう。

 

 イブを村人のいなくなった家で休ませ、僕は家の外で寝転がって目を閉じた。



 翌朝、イブが朝食を終えると、イブを村に残し、アダムは何処かへ行ってしまった。

 イブはアダムの『すぐに帰ってくるから、待ってて』という言葉を信じて、村で退屈に過ごしていた。

 村にはやはり誰もおらず、困った様子の家畜を観察して暇を潰す。



「あーちゃん、おっきくなった。

 いーちゃんのこと、………じゃま?」



 アダムに置いていかれる恐怖が心に巣食う。

 イブは自分も変わらないといけないと思った。

 アダムはイブを守る為に大きくなったのだから、イブもアダムを守る為に――――――



「ねぇ、君、ここの子?」



 突如、誰もいないはずの村で少年に声をかけられた。



「えぇぇ? …………」


 

 イブは緊張で上手く答えられない。



「ま、いいや。それよりもさ、『バケモノ』知らない?」


「バ、バケモノ?」


「そう。おっきくて、怖そうなやつ」


「えっ!! ……………えっ、えぇぇっと………」



 アダムの事だとすぐに分かった。

 でも、教えたくない。

 教えない方がいい気がする。

 イブの返答を求めて、『それで? 知ってるの?』と、少年は聞いてくる。

 気まずい沈黙がしばらく続いた。

 


「ん? 何の音?」



 少年は耳を澄ませているようだった。

 イブも真似して耳を澄ますと、ドスンッドスンッと重たい足音が聞こえる。


 アダムが帰ってきたんだ!!


 オロオロするイブを放置して、少年は音の方に向かった。

 そこでアダムと少年は対面した。

 大きく醜いアダムを見ても、少年は怖がらない。

 それどころか、意気揚々と、



「お前が村の人を襲ったバケモノかッ!!

 勇者『ミキリ』が、お前を倒しに来たぞッ!!」



 と、名乗りを上げた。

 アダムはその少年を見下ろして、『幼い子どもの戯言』と判断した。


 コイツを殺すのは簡単だけど、イブの友達だったら殺すのはマズイ。

 イブの目を見ると、心配そうにこちらを見返してくる。

 友達なのかな?

 別に言ってくれれば、傷つけたりしないよ。

 こんな見た目だけど、この少年と仲良くなれるかな?


 そう考え、アダムは屈んで目線を下げながら挨拶した。



「ミキリ、イブト仲良クシテクレタンダ。アリガ――――」



 突然、ミキリと名乗った少年は背中から二対の剣を引き抜いた。

 そして、アダムが手を引っ込めるよりも早く斬りつける。

 若干の痛みに、後退ったときには、



「キエタ…?」



 姿は消えていた。

 押し寄せてくる悪寒に立ち上がった瞬間、体中から血が吹き出した。



「ゥワァァァァッッッ!?ナニガッッッオコッタ!?」



 視界の端で、影が飛び交う。

 その直後に体が切り刻まれていった。


 凄い速さで切られてる!?

 コイツ何なんだッ!!


 驚いて飛び退くと、ようやく攻撃は止んだ。

 ミキリはフワリと着地すると、迷わずアダムへと接近する。

 

 殺される!!


 アダムの脳内で恐怖が沸き起こった。

 逃げようと思ったが、イブがいる。

 イブは油汗を流しており、普通の状態には見えないが、幸い怪我はない。


 イブと僕は仲間だと思われてないんだ。


 それが分かると同時に、ミキリの猛攻が再開された。

 またもや、切られた瞬間に姿が消えて、高速で刻まれる。

 しかし、イブが大丈夫と分かった今、僕は自分の心配をする必要があった。

 この体になってから痛みに鈍くなったと思っていたが、切られれば切られる程に痛みが増している。

 その痛みが"死"という本物の恐怖を呼び起こす。

 堪らず、逃げ出した。

 しかし、先程と違い、猛攻は止まない。



「逃がすと思った? もう、お前は逃げられないよ!!」



 全力で山を駆け上がり、大地を踏みつけながら無我夢中で走った。

 イブのいた村から離れたので、巻き込む心配はなくなった。

 しかし、それだけの距離を移動したのに、ミキリの猛攻は続く。

 段々と体の肉が削ぎ落とされていく。

 切られた箇所はすぐに治るが、それ以上に切られるのが速い。

 削ぎ落とされて、足の肉が薄くなったことで、足はアダムの巨体を支え切れずにボキリと折れてしまった。



「ゥッッッ!!ウガァァアアアアアアッッッ!!」



 激痛が走り、派手に転んだ。

 痛む足は修復を始めたが、修復した箇所から削ぎ落とされていく。

 もう一度立ち上がることは叶わず、怯えてうずくまるアダムの体をミキリは淡々と解体していった。

 手足が切り落とされ、手足が再生する間に胴体が切り開かれていく。

 目も耳も聞こえなくなったと思ったら、くぐもった音がする。


 

「何の音?」



 次の瞬間、光が差し込んだ。

 巨体の心臓部分にあった、アダムの本当の体が日の光を浴びる。

 ピタッとミキリの猛攻が止んだ。



「へー、本体はそんな感じなんだ」



 興味なさそうにそう言うと、ミキリの剣がアダムの心臓を貫いた。



「うぐゥゥゥッッッッ!! ……ゴハッッ!!」



 心臓を貫いた剣はそのまま体内を切り裂き、もう一方の剣は喉から肺にかけてを切り裂く。

 声すら出せず、熱が体内から出ていくのを感じる。

 ………冷たい。

 ……………………。



「四天王ってところかな?」



 剣に付いた血肉を拭いつつ、ミキリは殺した相手の事を考えていた。

 中に人っぽいのいたけど………。



「そうゆう攻略方法なのかな?

 レベルアップしなかったのも、本体は雑魚ってパターンか。

 しょっぱい経験値だし、二度とやんない!!」



 流石に疲労が溜まった為に足元がおぼつかないが、帰るだけだから、大丈夫!!

 そう思った瞬間には、コテンッと転んでいた。



「あいたたた!! やっぱり『戦闘狂』は車酔いみたいになるなぁ。

 ちょっと休んでいくか!!」



 地面に腰掛けて休もうとするも、今度は座っていることすらままならない。



「さすがに、おかしいよね!?

 なるほど地面が動いてるんだ!!納得!!」



 座っていた地面から現れた謎のバケモノに剣を突き立て、弱点っぽい箇所を切り刻む。

 バケモノはあっさりと息絶えた。



「もう何なんだよ!!連戦は疲れるっていうのにさ。

 ドンドン敵、湧いてくるじゃん!!」



 周りを見渡せば、モゾモゾと動く怪し気な生物が多数。

 しかも、どれもこれも、向かってくる。

 よく観察すると、それら全てが巨体のバケモノの肉片から生まれているようだった。

 地面や草木に引っ付いた肉片が、それらを異形のバケモノに変えて、ミキリを襲う。



「仕留め損ねたかな? いや、そんな訳ないか……」



 後ろを振り向けば、巨体のバケモノの死体がある。

 中にいた本体も変化なし。どう見ても死体だ。



「これ放っといたら、村の女の子ヤバイよね?

 全部倒さないとダメかぁ。

 って、途中でけっこう肉を切り落としたから、全部がバケモノになってたら凄い数になっちゃう!! やっば!!」



 納めたばかりの二対の剣を引き抜くと、ミキリは残党狩りに走った。



  *  *  *  *  *  



「…………………………」



 そこには何もなかった。

 死んだばかりのアダムは、まだ世界に存在していた。

 魂が残っているのかもしれないが、何も感じられない。

 真っ暗闇に吸い込まれて、自分という存在が消えそうになった瞬間、細い糸のような物に引っ張られた。



「何? 誰?」



 グイグイと引っ張られて、数十分、ようやく落ち着いた。

 しかし、今度は痛みが全身を襲う。



「痛いぃッッッッ!! もう死んだはずなのに、こんな痛み何処から……」



 グチュグチュと気持ちの悪い音が続き、段々と視界を認識出来るようになった。

 音も感触もある。

 体の変化が終わると、そこは村だった。

 いつもよりも大泣きしているイブが抱きついてくる。



「痛ッ!! 痛いッ痛いッ痛いッ!!

 抱きつかないで!! イブッ!!」



 僕の訴えを聞いて離れたイブは開口一番、



「馬鹿ッッ!!置いてかないでよッッ!!」



 と、叫んだ。

 僕の魂はイブに引っ張られて、村に戻ってきたようだった。

 僕とイブは不思議な力で繋がっているのかもしれない。



「あれっ? イブ、なんか大人っぽくなった?」


「んんん? …………………そう?」



 自覚は薄いようだが、明らかにイブは変わった。

 見た目に変化はないけれど、前みたいな泣き方じゃなくなった。

 誰かにあやされなくても、自分で泣き止むようになっている。

 僕みたいに急激に変化している。



「アイツが戻ってくるから、その前に逃げよう」


「うん!!」



 元通りに小さくなった僕とイブは手を繋いで、元気に駆け出した。


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