77. 第一の魔王討伐
「それじゃあ、行きましょうか」
魔界の奥にいる巨大な遺跡の魔獣。
その体内で準備を終えたクロノは、第一の魔王が待つ玉座への扉に手をかける。
「いつでも行けますよ」
ユニとナティが構えると、クロノは扉を開け放った。
前回と同じように黒い魔王と白い魔王が二つの玉座に腰掛けて待っている。
クロノ、ヒメカ、ナティ、ユニと他数名が入ると同時、扉は勝手に閉まり、壁と化した。
道中で遺跡の魔獣の攻撃はなく、楽だった。
その代わりに、この二体の魔王が待つ部屋は強化魔法が何重にもかけられ、脱出不可能な結界になっている。
黒い魔王は遺跡の魔獣の魔力を全て結界に注ぎ込ませるつもりのようだった。
前回のような脱出は難しい。
やるか、やられるか。
どちらにせよ、今回で終わる。
「ナティさん、行ってください。
ユニさん、合わせるので好きに動いてください」
白い魔王を担当するナティさんとそのサポートの為に連れてきた捨てごまの数名が走る。
黒い魔王は床を力強く蹴り、物凄い速さでこちらへと突っ込んでくる。
黒い魔王はナティさんを狙うように見えたが、次の瞬間には高速でナティさんとすれ違った。
「ユニさんッ!!狙いはこっちですッ!!」
衝撃波と共に黒い巨体が突っ込んでくる。
最初、ユニさんへと魔王の手が伸びた。
大きな手のひらにユニさんが吸い込まれ、握りつぶされる瞬間。
ユニさんは弾かれるように、手のひらから飛び出す。
「偽装加護を舐めすぎです」
すれ違い様に風の刃で反撃するが、黒い魔王の体表はその攻撃をあっさりと弾く。
白い魔王の支援魔法で黒い魔王は硬く強化されている。
ナティさんがまだ白い魔王の元にたどり着いていない。
次に、黒い魔王の蹴りが俺に迫った。
一秒後には、直撃する。
当たれば、俺の絶対勝利は無効化されて死ぬかもしれない。
それなのに、視界にはゆっくりとハッキリと魔王の動きが写っていた。
「シネェ………ッッッ!!」
何か聞こえた。
特に気にも止めず、右に回避。
すると見せかけて、魔道具を使って進行方向に風を噴射し、反対方向に回避した。
黒い魔王はフェイントに引っかかり、悔しそうに睨みつけてくる。
「『死ね』って言いましたね。喋れたのですか」
「……ウルサイ…………シネ」
戦闘時間はほんの少しだけだが、直感的に分かった。
コイツは弱い。
正確には、『今は』弱いだ。
あの体の持つポテンシャルは凄まじい。
直線的な動きだけ突出して速いが、それ以外の動きは逆に遅く感じる。
間違いない。
この黒い魔王は戦闘経験が浅い。
いや、あの巨体の動かし方すらも微妙。
だが、よく考えてみたら弱いのも当然だ。
黒い魔王が魔獣を操っているなら、魔界に黒い魔王の敵はいない。
戦闘経験は元帥と戦ったぐらい。
その元帥との戦闘でも、能力を無効化する能力で一気に形勢を傾かせて勝っている。
黒い魔王がまだ戦闘に慣れていない今がチャンスなのか。
「ユニさん、素早く終わらせましょう」
「???………は、はい」
視界の端で、白い魔王とナティさんの戦闘が始まった。
捨てごまも元気なようで、ナティさんのサポートをしっかりとしている。
ヒメカの全能視で集めた捨てごまなのだが、思いの外、捨てごまのわりに優秀なようだった。
黒い魔王への支援魔法はすぐに打ち切られる。
そうでなければ、白い魔王がすぐに倒されるだけ。
どちらにせよ、支援魔法がなくなり、攻撃が通るようになる。
「キエウセロォォォッ!!」
また何か聞こえた。
消え失せるのはお前だ。
直接攻撃すれば、能力を無効化される。
だが、その対策ぐらい簡単に出来た。
直接触れずに攻撃出来る魔道具を使うこと。
それだけで。
「ウグオォ!?グォォォォッ!?」
これまで魔獣にやってきたように、あっさりと切り刻むことが出来る。
ユニさんを真似て、圧縮して撃ち出した風の刃で黒い魔王の右腕を落とした。
すかさずユニさんが風の刃で追撃を加え、体中に深い傷をつけた。
黒い魔王は元が転生者、つまりは人間なので、核もそれぐらいの大きさだろう。
おそらく心臓の辺りに核はあるが、すぐには狙わない。
体の端から安全に刻み、端に核がないことを確認。
最後に黒い魔王が怯んで動けないスキをついて、心臓の部分を魔力を込めた刃で切り裂いた。
「コンナトコロ……デ」
黒い魔王の体の細部から魔力が抜けていく。
残った魔力は体の中心に留まった。
直後、魔王のお腹が膨れ上がり、破裂した。
中からはとても小さな、子どもの大きさの魔王が飛び出した。
一直線に俺に向かってくる。
ポテンシャルを活かしたらしく、想像を超える速さで黒い魔王が迫る。
剣で防御すると同時、絶対勝利が解除された。
衝撃波が体を強く打ち、剣を握る手が震える。
強化されていない生身に戻った俺には、小さくなっていても魔王の攻撃を受け止めることは出来なかった。
強化されていない剣は砕け、両手が折れ曲がり、内蔵を掻き出された。
宙を飛ぶ俺の体はボロボロで、走馬灯のような物が見える。
何時だったか、あれはヒメカに言われたことだった。
「クロノの能力は、体を最適に動かせるだけじゃないと思うよ」
「どうゆうこと?」
ヒメカには全能視があるが、それを持ってしても、能力の大まかな効果しかわからないらしい。
「今までクロノの戦闘を見て来たけど、おかしいんだよね。
戦い方が綺麗過ぎる。
倒し方も完璧。気持ち悪いぐらいに。
それだけクロノの動きが良いのかと思ったけど、最近クロノが政治とかやり始めたのを見て、やっと分かった」
「政治?戦闘とどう関係がある?」
「クロノの能力は、クロノの体だけじゃなくて、周囲の敵と味方の動きも操ってる。
クロノにとって都合の良い動きが多すぎるの。
敵の動きは凄く悪くなり、反対にクロノや味方の動きが凄く良くなる。
クロノはね。
自分の勝ちに向かって、全員を操ってるんだよ」
らしい。
俺にはその自覚がない。
今あっさりとやられて、宙を舞っていると、ヒメカの言葉は間違いだったんじゃないかって気がする。
でも、違う。
俺の勝ちに向かっているのであって、俺が自力で勝たなくてもいいんだ。
黒い魔王は俺を攻撃した後、そのままの勢いでヒメカの方に向かった。
そこに立ち塞がるように降り立つユニさん。
黒い魔王は二人まとめて殺せると思ったのだろう。
しかし、ユニさんは、
「言いましたよ。偽装加護を、私のことを舐め過ぎって」
ユニさんの偽装加護<風>は第五の魔王との戦闘で開花した。
どれだけ速い攻撃であっても、ユニさんには通じない。
その速さの分ユニさんは風に弾かれて速くなり、鋭い反撃を返されるだけ。
黒い魔王の目にも止まらぬあまりにも速すぎる攻撃は、黒い魔王が認識することも出来ない程の速さで返された。
驚愕する黒い魔王の体がバラバラに切り裂かれ、魔王が体を修復するよりも早く、押し寄せた風の刃によって、黒い魔王の体は塵に変わった。
ほぼ同時に、白い魔王の体も塵と化した。




