76. 報酬
「ごちそうさまでした」
バベルの広間にて、豪勢な朝食を食べ終えた。
食事はクロノさんが『絶対勝利』の応用で、完璧な調理をして作っているらしい。
便利な能力。
このまま帰ることが出来たら満足だけど、そうもいかない。
クロノさんは私に第一の魔王討伐に協力することを期待している。
でも、私はそろそろ自分の人生を歩みたい…。
「あの、クロノさん……」
「『断りたい』ですか?」
「えぇ」
「ですが、まだ私の話は終わっていません」
「無理しなくても、『俺』でいいですよ」
「お気になさらず。『私』の方が話しやすいので」
クロノさんの記憶を見たことで、どんな人か分かった。
クロノさんは『絶対勝利』という強力な固有魔法を持っている。
でも、それが原因で色々な事を背負わなければいけなくなった。
リーダーとして転生者を導き、元帥として国を治め、貴族を抑え込んでもいる。
そして、クロノさんは自分の為にも、他の人の為にも、死んでいった人の為にも、第一の魔王を討とうとしている。
普通とは呼べないような人だけど、それは強さ故に背負ってしまった役割。
クロノさんはその重すぎる役割を全うするために自分を偽っている。
敬語で話すのは弱い自分でなくなる為。
そんな人が私に助けを求めている……。
「ユニさんに記憶を見せたのはこちらの状況を理解してもらうため。
でも、それが私の一方的なお願いであることは理解しています。
なので、『報酬』の話をしましょう」
「報酬?」
こう見えても私は勇者として第五の魔王を倒している。
そのときにけっこうな額のお金を手に入れたし、稼ごうと思えば、第五の勇者であることが役に立つ。
これ以上欲しいものなんて特にない。
「お恥ずかしながら最近知ったのですが、『悪魔の死骸』がユニさんの通っていた学校に埋まっているそうですね。
それが原因で学校を立て直すのが難しく、第五の魔王が現れた際にも、呼応するかのように魔素体が発生した。
結果として現在、学校は校舎の修繕と魔素体が再発生する可能性を考慮して休校中」
悪魔とは、普通の魔獣より強く、大量の魔力を持つものの、魔王ほどではないと判断された魔獣。
その死骸にナティ先生とあの学校は長らく苦しんできた。
「そうです。それが理由で私もナティ先生のお手伝いをしてました」
「ユニさんの報酬として、元帥が『悪魔の死骸』の処理に協力し、また金銭的な支援もさせてもらう。
ということで、どうでしょう?」
「素晴らしい提案ですね。
悪魔の死骸を処理する上で、死骸の埋まっている場所はヒメカさんの『全能視』で、発生した魔素体の対処はクロノさんの『絶対勝利』で対応できますね」
「金銭的な支援やそれ以外での協力もできる限りしようと思っています」
「一つ聞いてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「なんで今までしなかったんですか?
知らなかったって言っても、王都で魔素体が発生しているのは知ってたんじゃないですか?
それに、ナティ先生はレーナさんの……」
「それについては、もちろん説明します」
クロノさんは私の言葉を遮って言う。
「まず、ナティさんとリーナさんに出自は伝えていません。
もし転生者と血縁があると分かれば、普通に生きることは難しくなるでしょう。
また、元帥から特別な支援をすることは関係性を疑われることに繋がります。
元帥を敵視する人も多いです。
それと転生者が特殊な能力を持っているのも事実。
転生者の子どもが特殊な能力を受け継いでいると考える人は多いでしょう。
転生者の持つ特殊な能力の価値はかなり高い。
どんな手を使ってでも手に入れようと動く人もいます。
実際に子どもが受け継ぐのは、強靭な肉体や高い魔法適正までのようですが」
「『貴族』ですか?クロノさんが警戒しているのは」
「……………………………」
クロノさんは私の質問に答えない。
「次に、王都には様々な利権が存在します。
元帥も多くの利権を持っており、他人の利権に関わり過ぎれば、かなりの反発が予想されます。
学校といえども、出資しているのは国だけではありません。
ナティさんに好意的な出資者によって、あの学校は支えられているのです」
ナティ先生に好意的な人と言えば、『ダグラ=イスタ』さん。
ダグラ商会のトップであり、商売の実力で貴族にまでなった人。
「もちろん、教会からも出資はしていますが、些細なものです。
それなのに、悪魔の死骸の処理で元帥が大きな恩をナティさんに作れば、他の出資者が出資するのをやめてしまい、これからの学校経営に大きな影響が出るかもしれない。
ですが、ナティさんに恩を作るのがユニさんならどうでしょう?」
ダグラ=イスタさんは私にも好意的だった。
高価な剣を条件付きとはいえ無料でくれて、その後もダグラ商会にはお世話になっている。
私がナティ先生に大きな恩を作っても、利権で問題にはならない。
私が間に入ることで丸く収まる。
「どうでしょう。この報酬では満足頂けませんか?
魔王討伐で私たち元帥だけでなく、ユニさんも死ぬ可能性があるため、報酬は先に支払うつもりです」
自分の為に、自分の人生を歩みたい、と思っていた。
しかし、これまでお世話になったナティ先生のためなら、私は頑張れる。
いや、私じゃないと出来ないんだから、私がやらないといけない。
「わかりました。第一の魔王討伐に私も参加します」
私の返事を聞いて、クロノさんは微笑んだ。
翌日、王都第一魔法学校で大きな工事が始まった。
クロノさんは準備をしていたようで、必要な人材は既に揃っていた。
その後はヒメカさんが悪魔の死骸の位置を細かく伝え、発生した魔素体をクロノさんが難なく撃破していく。
作業はスムーズに進み、悪魔の死骸はその日の内に掘り起こされた。
「クロノ元帥に聞いた。ユニが私の為に動いてくれたそうだな」
ナティ先生は悪魔の死骸があっさりと掘り起こされた場所を眺め、呟いた。
「ナティ先生のためだけじゃないです。
あの学校には同級生もいましたし、これから学ぶ生徒のことも考えると当然のことをしただけです」
「ユニ、クロノ元帥と話して、私も第一の魔王討伐に参加することにした」
「はい?」
一瞬、頭の中が疑問符で一杯になった。
「悪魔の死骸がなくなれば、ナティ先生はようやく落ち着いて学校を再建できるのに、なんで……」
「私がこの学校で校長をしていた理由は恩師の願いを全うする為なんだ。
その願いとは、あの悪魔の死骸をどうにかすること。
アレが埋まっている内は校長の座を誰かに任せる訳にはいかなかった。
あまりにも責任が重すぎるからな。
私が複雑な魔法を得意としないのに、魔法学校の校長を続けていたのもその為だ。
アレが処理されたなら、安心して校長の座を譲れる」
「で、でも、わざわざ第一の魔王討伐に参加しなくても」
「ユニは私含め、多くの人の為に命をかけているんだろ?
その道に進ませたのは私でもある。
それなのに、私が安全なところで寛いでいる訳にはいかない」
「私は、私はナティ先生に幸せになって欲しいだけなんです!!
これまで色んな苦労をしてきたのは知ってます!!
だから、ナティ先生のために……」
「私もだよ」
「?」
「私もユニに幸せになって欲しいんだ。
誰かの為に命を使い続けるユニの助けになりたいと思うのはダメかな?」
「ナティ先生……」
クロノさんに後で問い詰める必要がありますね。
クロノさんが許可しなければ、ナティ先生が危険な目にあうこともないのに。
最悪の場合、ナティ先生はお母さんのレーナさんみたいに……。
「そんな顔をするな。
聞いた話によると、私は白い魔王を相手するらしい。
ユニの相手する黒い魔王の方が強敵と聞いたぞ?」
「そ、そうですけど」
クロノさんは白い魔王の相手をナティ先生にやらせて、黒い魔王を私とクロノさんで倒すつもりですね。
それなら、私よりはナティ先生の方が安全?
でも、不測の事態がある可能性も。
「私は守られるほど弱くはない。
むしろ、私はユニの方が心配だ」
「でも、」
「だから、二人とも生き残ろう。
互いに万全の仕事をすれば問題ない。
最悪、両方死ぬだけだ」
「ダメじゃないですかッ!!死んだら!!」
「私だって、ユニが死ねば悲しい。
二人とも死ぬか、二人とも生きるか。
これなら悲しむ人もいない。問題なし」
「問題ですよッ!!」
ナティ先生はもはや完全に行くつもりのようで、今更説得しようとしても無意味のようだった。
こうなってしまっては第一の魔王を倒して、生きて帰るしかない。
私の気遣いが、ナティ先生を巻き込むことになるなんて。




