75. クロノの記憶 ⑦
「俺たちと同じ『転生者』か」
魔王との戦闘で得た唯一の戦果。
それはヒメカの『全能視』で得た、魔王の情報だ。
そして分かったこと、それが、あの魔王も転生者ということだった。
魔王の攻撃はレーナの絶対防御を簡単に打ち破り、俺の絶対勝利ですら回避が出来なかった。
「魔王は能力を無効化する『能力』を持つ」
「たぶん、そうね。それと魔王じゃなくて」
ヒメカが注意する前に俺は言った。
「『アダム』だろ?わかってる」
ヒメカが得た情報の中には、あの魔王の名前『アダム』があった。
気になるのは、
「転生者なんだよな?それなのに、『アダム』って」
日本にいた頃の俺の記憶は断片的だが、自分の名字が『クロノ』という読みだったのは覚えている。
ヒメカも下の名前がそんな感じらしい。
転生者のほとんどが日本人的な名前を持っている。
「レーナは全然日本人っぽい名前じゃないし、外国の人なんじゃない?『アダム』も」
「…そうだな」
「ちなみに、白い方の魔王の名前は『イブ』よ」
「『アダム』と『イブ』か」
気になる名前だが、名前については深く考えるようなことじゃない。
「それよりも、能力を無効化する能力だ。発動条件は…」
「『触れる』。直接的でも間接的でも発動するみたいね」
「レーナは盾にしか攻撃を食らってなかったのに、能力を無効化されたからな。
間に物を挟む対処法は無意味、と」
「クロノの場合は魔王の攻撃を避けてカウンターで攻撃したときに、逆に能力を無効化されたみたい」
「剣で攻撃した際の接触でも発動するのか。厄介だ」
しかし、ミキリさんもレーナも一撃目でやられた訳じゃなかった。
二人ともやられる前に一度、魔王に触れているが能力を無効化された様子はなかった。
意識的に無効化の能力を使っているのか?
それに、魔王は複数の能力を使える。
あの黒い体と魔獣を操る能力。
隠しているだけで他の能力もあるかもしれない。
「しかし、現実的に魔王討伐は不可能になった」
「戦えるのがクロノだけじゃねぇ。白い方の魔王と戦う人も必要だし」
「でも、そんなやつはいない。死んだからな」
「どうするの?これから」
考えるべきは、これからのこと。
すぐにでも魔王を倒したいが、俺だけで倒せるとは思えない。
戦える仲間が必要だが、数十年かけて出会えた戦闘向きの能力を持った仲間はアケミさんだけ。
明らかに少な過ぎる。
期待するだけ無駄。
「どうするの?戦える人を勧誘する?貴族から」
「貴族は面倒だ」
俺たちが魔王と戦っている影で、貴族は優秀な戦闘員を集めているらしい。
俺たち『元帥』に対しても好意的でないものを感じる。
貴族の中には、元帥から政治権力を奪おうとしている者もいるようだ。
第二の魔王以降、そういった貴族の反乱が起ころうとしている。
次の魔王、第三の魔王が来るようなことがあれば、貴族はドサクサに紛れて、覇権を取ろうと動くかもしれない。
敵は魔王だけじゃない。
「貴族に協力を取り付けるのは難しそうだし、仲間が減った事を気取られたくない」
「私も貴族との共闘は難しいと思う。
転生者も何人かは貴族寄りだし、ミキリとレーナとアケミがいなくなったのがバレたら、魔王どころじゃなくなる」
「魔王討伐はしばらく諦めるしかない。
敵が魔王だけなら楽なのにな」
第一の魔王との二回目の戦闘は俺たちの完敗で終わった。
共に長い時間を生きた仲間が死んでも悲しむ余裕はない。
第一の魔王の動きは気になるし、貴族の動きにも注意が必要。
どちらかの対処を誤れば、元帥は本当に全滅するかもしれない。
「しばらくは休養を取りながら、様子を伺おう」
* * * * *
第三の魔王が襲来したが、こっちの世界の一般人に任せて俺たちは貴族の警戒をした。
ヒメカの能力で見たところ、魔王と言えども第一の魔王よりは格段に弱いらしい。
これぐらいはこっちの世界の一般人が倒すべきだろう。
転生者の数が少ない分は、頑張ってもらうしかない。
最前線は当然突破されたが、王都に到達する前に第三の魔王を討伐したらしい。
クローテスという中年の男が俺の政治に色々と文句を言ってきたが、それなりに信用していいと判断した俺はクローテスに政治を任せることにした。
他に人材がいなかったから元帥として政治をやっていたが、俺に政治は向いてない。
クローテスの方がよっぽどマシな政策を作るだろう。
それから、第四の魔王が現れ、討伐され、その間も俺たちは身動きの取れない時期を過ごした。
それからしばらくして、
「あれ?今日、ナティさんが来るんじゃなかった?」
ある日、バベルで読書をしていた俺にヒメカがそう尋ねてきた。
「そう言えば、そうだな。
あれ?ホンダにバベルのギミックを解除するように言ったっけ?」
「私は言ってないけど……」
「「……………………………」」
「俺はホンダを探してくる。ヒメカはワープゲートでナティさんを連れてきてくれ」
「しょうがないなぁ…」
時間感覚が完全に狂ってしまったせいで、ナティさんの訪問を忘れていた。
適当な人物なら雑な対応でも許されるだろうけど、『ナティ』さんにそんな事をするのは申し訳ない。
レーナが生きていたら腹にパンチを食らうだろう。
「おや、生徒さんですか」
何とかナティさんは談話室にたどり着いた。
ナティさんは複数の生徒を連れてきているらしく、ナティさんの横に男の子が座っている。
更に二人の少女もいるらしい。
ワープゲートで空間が歪むとニヤニヤしたヒメカが出てきた。
何笑ってるんだ?
二人の少女は安心して、先に着いた少年と会話を始めた。
こんな光景は久しぶりだ。
長い間ナティさんとしか会っていない。
「クロノ、あの子。ユニって子」
「ん?あの子がどうした?」
小さな銀色の髪の少女。
腰に剣をさげている。
あんな小さな子も戦えるのか。
ん?体が…。
足が勝手に動き、少女に近づく。
敵か?
いや、俺の体に戦う素振りはない。
むしろ警戒させないようにしている。
この少女が何か重要なのか?
何かって……俺たちにとって大事な事なんて決まってる。
ヒメカの方を見ると、頷くだけで何も言わない。
ヒメカは能力で少女の中に何かの可能性を見たのだろう。
でも、対応は俺にさせるのか。
俺の能力じゃ、口達者にはならないのに、それでもこの子が鍵だとしたら下手な対応は出来ない。
ヤバいな。緊張してきた。
面接じゃないんだから固くなるな。
元帥なんだから声が震えてたりしたらみっともない。
とりあえず、
「さあさあ、そちらのお嬢さん方も席についてお昼の食事にしましょう」
……………………意識が揺れ動く。
俺は………私は…。
目を開くとベッドの中にいた。
ナルミシアの胸を枕代わりに眠っていたようだ。
「柔らかい……って、そんな場合じゃない!!」
「あっ、ユニちゃん起きたの?」
「ナルミシア!!私、どうなったんですか?」
「ユニちゃん、倒れちゃったんだよ。
記憶を見ると処理する情報が多過ぎて疲れるんだ、ってクロノさんが言ってた。
今日はバベルで休んでいくといいってさ」
「そうですか」
寝ていた時間は定かではないが、まだ頭痛が残っている。
クロノさんの言葉に甘えて、休ませてもらうことにした。
「ユニちゃんはこれからどうするの?」
ゴロンと転がっているナルミシアが心配そうに言う。
クロノさんが私に求めていることは分かった。
そして、それがとても大事なことなのも。
でも、
「私が協力する理由は特にないんですよね」
「ユニちゃんがまた危ないことに巻き込まれるのは嫌だよ?」
私にとって第一の魔王討伐は悲願ではない。
私の悲願ではなく、クロノさんの悲願。
私の記憶じゃなくて、クロノさんの記憶。
記憶を見せられたからって、そんな簡単に命をかけられない。
記憶で見たアケミさんやレーナさんみたいに、私も潰されてしまうかもしれない。
「明日、朝になったら断ります」
ナルミシアが安心したように抱きついてくるのに身を任せ、私はまた眠りについた。




