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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第一の魔王討伐
73/82

73. クロノの記憶 ⑤


 二人の転生者が待つ広間へ着くと、眼鏡をかけた白衣の男がいた。



「初めまして、クロノです。教会と元帥のトップをやらせてもらってます。

 あなたは?」


「私はエノミヤだ。見ての通り、医者だ。よろしく」



 互いに頭を下げる。

 話の通じそうな人で良かった。



「あの、もう一人いると聞いたのですが?」


「アケミなら、しびれを切らして何処かに行った。

 そうゆうやつだ。放っておけ。

 それで?私に話があるらしいが」


「えぇ、あなたが医者と聞いたので、治療してほしい人がいまして」



 俺はミキリさんの状態について話した。

 ミキリさんが手足を負傷したのは、数十年前。

 普通の医者なら今更治せるはずもない。

 普通の医者なら。



「分かった。その患者、請け負うとしよう」


「ありがとうございます!!」



 ミキリさんの状態を聞いて、考える間もなく返答が来た。

 自分の能力に相当の自信があるのだろう。

 王都に呼び寄せる前は地方の村で医者をしていたと聞く。

 そのときに能力の使い方を身につけた可能性が高い。



「ただし、わざわざここまで呼ばれて、そちらの願いを聞くだけというのは不公平に思う」


「報酬ならできる限りのことをします」


「それなら、優秀な弟子を探してくれ。探求意欲に満ち満ちた若者を」


「弟子、ですか…」


「私の能力は一人に集中的に治療を行う。

 一人であれば、どんな傷も病気も治せる自信がある。

 しかし、私の能力で複数を救うことは難しい。

 そこで医療を広めようと思っている」


「わかりました。優秀な若者を探します」


「やる気が溢れ出ているようなやつが好ましい。

 それでは頼んだ」



 一人目の転生者エノミヤさんとの会話はスムーズに進んだ。

 これでミキリさんという戦闘員が復活するのも時間の問題だ。

 後は出来るだけ多くの戦闘員が欲しい。

 もう一人の転生者はどうだろう?



「やだよ。何で私が危険な目に合ってまで戦わないといけないの」



 もう一人の転生者、アケミさんには即答で断られた。

 どうやら戦闘に特化した能力らしいので、是非とも協力してもらいたいが、魔王の討伐が危険なのは間違いない。

 無理に説得するのは逆効果だ。

 一旦引いて、交渉の機会を伺おう。


 数日後、エノミヤさんは約束通り、ミキリさんを治療した。

 ミキリさんの手足は元通りになり、魔王をぶっ殺してやる!!っと息巻いている。

 戦闘を嫌がるかもしれないと思ったが、その心配は必要なかったようだ。



「弟子はどうだ?」



 エノミヤさんが眼鏡をクイッと上げながら聞いてきた。

 エノミヤさんは100点の仕事をしてくれた。

 だから、こちらも全力で恩返しをしたいのだが、



「私!!ユリハって言いますッ!!」



 弟子候補ナンバー1の少女ユリハは勢いよく挨拶をした。

 教会から意欲のある子供を集め、ヒメカの能力で適正を測ったから優秀なのは間違いない。

 ただ、



「人の内蔵とか興味ありますッ!!」



 医者…だよな?



「他にも弟子の候補はいますけど、どうします?」


「この子で」



 まさかの即決だった。

 大人しそうな子とか真面目そうな子とかいたのに。

 まぁ、エノミヤさんが良いと言うなら良いんだろう。

 早速おそろいの白衣を着せて、帰っていった。

 そのうち名医として重宝する人材になることを期待しよう。


 そして、次。



「うるせーッ!!私とやる気かッ!?おらッ!!」



 アケミさんはトラブルを起こしまくっていた。

 お金やら男関係やら、揉め事が多い。

 その後始末を元帥として俺やヒメカが処理することも多かった。

 結局、その辺りの始末を請け負い、生活資金から遊ぶためのお金まで、けっこうな額を負担する代わりに魔王討伐に協力してもらうことになった。


 

「このメンバーで大丈夫か……」



 ミキリさんのモチベーションは素晴らしいが、流石に転生者だけでは人手が足りない。

 教会で人手を募ったとしても、向かうのは魔界。

 食料を運ぶ人、調理する人、更に汚れた服をどうするか。

 それらの問題は山積していた。


 そうして困っていたところに、あの発明品が現れた。



「あの……クロノさん……」


「ホンダか、どうした?」


「………これ」



 ホンダはこれまでも、ひっそりと謎の発明品を開発していることが多かった。

 『ミニチュア・シェルター』なんかがその例で、他の戦闘向きでない能力の人と協力して、日々便利道具を開発している。



「これは、小さな扉?」



 渡されたのは手のひらサイズの扉。

 ミニチュア・シェルターのように大きくなるのだろう。

 しかし、扉?

 


「『転移門』展開!!」



 そう言うと、ホンダの持っていた小さな扉が予想通り大きくなり、地面に扉が設置された。



「扉だけ?」


「クロノさんも……展開……」



 俺の持っている小さな扉を、地面にポイッと投げて展開。

 二つの扉が設置された。



「この扉は……他の扉と繋がるんです………どれだけ離れていても」



 試しに扉を開けてみると、その先にホンダがいた。

 横を見ると、そこにもホンダが。

 扉に入ると、もう一方の扉から出た。

 


「便利だな。長距離の移動に使えれば、楽になる。

 どのくらいの距離、繋がる?」


「だから……どれだけ離れていても………繋がります」


「『どれだけでも』って、魔界と王都の間でも?」


「そうです……」



 信じがたい内容だ。

 おそらく他の人の能力を何かしらの形で使っている。

 しかし、本当に何処までも繋がるのか?



「この扉、借りてもいい?」


「……もちろん……です」



 実際の効果を確かめるべく、俺は復活したミキリさんを誘い旅に出た。

 転移門を一つ、バベル内の俺の部屋に設置した。

 もう一つの転移門を持って移動し、夜になったら転移門を使って、そこから帰る作戦だ。

 朝になれば、前日までの場所に戻って、進む。

 これなら、食料や他のことについて悩む必要がない。

 安心して休むことも出来る。

 

 ミキリさんがリハビリがてら適当に魔獣を倒し、俺はサポートに入る形で進んだ。

 しばらくして、人界と魔界の狭間にやってきた。

 最前線と呼ばれる場所で、教会からも多くの支援をしている。



「最前線までは転移門、繋がりますね」


「これイイ!!」



 ミキリさんも気に入ったらしい。

 本当にこのまま魔王の元まで繋がるなら、かなり楽ができる。

 全員のコンディションを整えてから魔王との戦闘に挑めるのも良い。

 


「魔界を二人で進むのは大変ですし、もう一人参加させますか」


「いや、別に二人で良くない?」


「力量を確かめたい人がいるのでお願いします」



 次の日、俺はアケミさんを連れてきた。

 ミキリさんはちょっと嫌そうな顔をしている。

 二人ともあまり仲が良さそうじゃないけど、アケミさんは数少ない戦闘系の能力者……のはず。

 本人がそう言ってただけだが、ここで能力を使ってもらえれば分かることだ。



「アケミさん、魔獣が来ましたよ」



 出たがりのミキリさんを捕まえておいて、アケミさんを前に押しやる。

 お手並み拝見だ。



「ハァ…めんどくさッ………死ね」



 アケミさんが手をかざした瞬間、視界が真っ白に染まった。

 爆発音と衝撃波が体に響く。

 視界が戻って来ると、魔獣どころか草木も山もなくなっていた。



「私の能力は『爆発』。見ての通り。

 疲れたから帰っていい?」



 ちょっとイラついているアケミさん。

 だが、まだ帰す訳にはいかない。



「しばらくしたら、また魔獣は来ますよ。

 その能力、使えるだけ使ってもらいます」


「ハァ!?疲れたって言ってるじゃん!!」


「何回その爆発を使えるかを知っておく必要があります。

 他の人も能力を何度も使うことで、その能力の性質や制限を調べてきました」


「私にもやれっての?」


「はい、あなたを含めた全員の安全の為に」


「………………チッ」



 舌打ちをされたが、何とか協力してもらえた。

 アケミさんの爆発の威力は凄まじい。

 どの程度が限界なのかは知っておきたい。

 あの威力なら魔王への切り札になるかもしれない。


 その後、アケミさんは早々に限界を宣言して、帰っていった。

 威力の大きな爆発を数発撃っただけで限界になるようだ。

 やはり切り札として運用するのが良さそうだ。



「クロノさん、俺、行くよ?」


「サポートします」

 


 俺の返事を待つこともなく、ミキリさんは魔獣に向かっていった。

 俺は後ろをついていってるだけだ。

 ミキリさんの能力『戦闘狂』は戦闘時間に応じて、パワーとスピードが上がる。

 しかし、相手を倒した場合、すぐに他の敵を攻撃しないと、能力がリセットされる。

 中途半端に援護すれば、ミキリさんの能力が長続きしなくなる。

 それに、絶好調のミキリさんは俺でも追いつくのがやっとだ。

 やはりミキリさんの能力を切らさないことが勝利に直結するだろう。



「クロノさんはやらないの?」



 高速で動くミキリさんの声が聞こえてくる。

 見えている姿は残像なので何処に返事したらいいのか迷う。



「ミキリさんに全部あげます」



 ここいらの魔獣に能力を使えることは分かっている。

 俺の能力は発動させたら俺の体が勝手に動く。

 練習する必要がない。

 気になるのは発動出来るかどうか、だ。

 魔王相手に一度は発動しなかった。

 次は発動するだろうか?

 やはり転生者の中で俺の能力が最も不安定だ。

 必要な場面で使えるかどうか、俺自身にも分からない。


 そんな不安を抱えたまま、俺とミキリさんは大きな遺跡にたどり着いた。

 


「この遺跡自体が魔獣みたいよ。入るときは気を付けた方がいい。

 後、魔王っぽい反応がある。

 このおっきな魔獣の体内だから、魔力が乱れて見づらいけど」



 遺跡に入る前に警戒して連れてきたおいたヒメカが言った。

 魔王が待ち伏せているかもしれないと思っていたが、まさか、この遺跡自体が魔獣で、その中に魔王がいるのか。



「罠あるかな?」



 ミキリさんがワクワクした様子で言った。

 あると考えた方がいい。

 魔王は明らかに俺たちを警戒している。

 ヒメカの能力で罠を確認しながら進むのが良い。

 となると、いよいよ全員で向かうべきか。

 不足の事態でも誰かの能力で対処できるかもしれない。

 それと、転移門も出来るだけたくさん欲しい。



「今回はここで引き上げよう。

 次来るときは全員で、魔王を倒すつもりで行こう」



 転移門を使っているせいで緊張感が薄まっているが、相手は魔王だ。気を引き締める必要がある。

 初めて魔王と戦ってから、かなりの時間が経ったことになる。

 俺たちが仲間を集めて強くなっている間、魔王が何もしていなかったとは考えづらい。

 全員に死を覚悟させた方がいいかもしれない。

 いや、それだとアケミさんが来ないか…。


 バベルに帰ってからも、俺は特に何も言わなかった。

 団結しているとは言いづらいから、あえて何も言わず、遠足に行くぐらいの気分で来てもらうしかない。

 アケミさんなら来ないと言い出しかねない。

 そうなるよりは、マシだろう。


 ベッドで横になっていると、扉がノックされた。



「レーナさん、どうしたんですか?」


「敬語やめなよ」


「あっ、つい……」



 レーナとは昔は普通に会話していた。

 元帥と教会の両方のリーダーをするうちに、親しかった人にまで敬語を使うようになってしまった。



「それで、どうした?」


「悩み事があるんだ」


「珍しいな」



 レーナはあまり悩んだりするような性格じゃない。



「私の子どもについて悩んでいるんだ」



 突然のことに俺は自分の耳を疑った。

 子ども!?いたの!?



「最近、クロノは魔界に行き来するだけの生活だから、気付いてないと思ったよ」



 表情に出てたらしい。



「じゃあ、もしかして、アケミに子どもが出来たことも知らないのか?」



 レーナは呆れたように言った。

 どうやら俺は魔王との戦闘について考えてばかりいたせいで、身近なことに気が回っていなかったらしい。

 明日が魔王討伐なのを忘れるぐらい衝撃的な内容だった。

 

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