71. クロノの記憶 ③
「多い…」
俺はバケモノを討伐する集団に合流するため、バケモノを追っていた。
当然だが、戦うバケモノは質と量どちらも桁違いに増えていた。
「10…20?いや、もっといるか」
木の後ろに隠れて、遭遇したバケモノの集団を観察していた。
数は多く、バケモノも集団で動いているようだ。
問題は個体の強さ。
俺が以前倒したゴブリンやオークは数がいたものの、人間の大人ぐらいの強さだった。
それなりに戦闘を積んだ人間なら十分戦えるような相手だ。
しかし、だんだんと遭遇するバケモノがまさしくバケモノになっている。
想像を超える怪力や口から炎を吐くとか。
それだけならまだマシで、厄介なヤツは体表が硬く、打たれ強い。
これまでは何とか倒したり、逃げたりして、やり過ごしてきた。
今回の相手はどうだ?
逃げるか?倒すか?
逃げるにしても、バケモノを目指して移動している以上方向は同じ。
見つからないように遠回りすることになってしまう。
「アレをやるか」
深呼吸して、気持ちを落ち着ける。
冷静に、本能に、勘に従って、バケモノを眺める。
集団をそのまま相手にするのは難しい。
だが、奇襲で数を減らし、集団が混乱している状況なら勝てる。
これまでの戦闘で分かったこと。
絶対勝利を使うたび、俺自身も強くなっている。
戦い方や相手の強さ、撤退すべきタイミング。
それら戦闘に関わることが能力を使わずとも分かる。
今だって能力を使っていない。
それでも戦える。
背中から静かに剣を抜いて、構える。
特に考えることもなく、木の陰から飛び出した。
俺の能力について分かったことは、もう一つある。
発動したくても出来ないときがあることだ。
最初はどんなバケモノにも使えたが、同じような相手には発動出来ないことが多くなった。
しかし、その頃には能力を使わずとも、自分の力で戦えるようになっていることが多い。
俺の能力は、今の俺にとって強い敵専用なのかもしれない。
そんなことを考えている間に、最後の一体を殺し終えた。
剣についた体液を拭い、剣を背中に戻す。
武器を使うようになった理由は単純。
どんな武器でも達人レベルで使いこなせるからだ。
それに、強い敵が相手なら武器がないと硬い体表で攻撃を防がれてしまう。
何処でも売っている普通の剣なら、調達も比較的簡単なのでこれにした。
「地図によると、こっちか」
地図の情報と勘を合わせることで、かなり正確に自分の位置を知れる。
近くに集落があるはず。
俺の足なら今日中に行けるだろう。
しかし、反対側の山肌を覗くと驚きの光景が広がっていた。
多種多様なバケモノが集落のある方向に向かっていたのだ。
おそらく先頭は既に集落についている。
「何故こんなにも大量のバケモノが列を作って押し寄せているんだ?」
このバケモノ集団を指揮しているバケモノがいるのか?
いや、その前にこの量は多すぎる。
この量なら、俺の目指している集団が近くにいる可能性は高いんじゃないのか?
合流を優先するのもありだけど、どいつがバケモノのリーダーかを知っておく方がいい。
「おそらく遠くから戦闘を見て、このバケモノを送り込んでいる。
見晴らしのいい、山の頂上付近が怪しい」
視線をゆっくりと移動させるが、木々が多く、姿を視認出来ない。
どうすれば…。
一瞬、思考が止まった瞬間に勘が答えを教えてくれた。
バケモノの全体的な位置、山の標高、バケモノを操るリーダーの心理。
自分が攻撃されることも考えているはず。
だったら、思ったよりも列に近い、山の頂上付近。
完璧な隠密を自然にこなしつつ、山を駆け抜けた。
バケモノの先頭に近い、この辺り。
木々の下に巨体を発見。
「当たり」
赤黒い全身のそのバケモノは集落の方を見ている。
隣には少女?
「女の子があんなところに…」
しかし、攫われた訳ではなさそうだ。
むしろ、あのバケモノの仲間のような雰囲気。
とりあえず、この辺りでやめておこう。
一歩後退りした瞬間、少女がこちらを見た。
その少女がこちらを指差したときには、俺の隣に赤黒いバケモノが着地していた。
「嘘ッ!?隠密は完璧なはずッ!!」
殴りかかってくるバケモノの拳に剣を叩きつける。
俺の攻撃は間違いなく匠の技だ。
こうやって強力なバケモノを一刀両断してきた。
しかし、あっさりと折れた刀身が頬をかすめて飛んでいった。
「発動しろよッ!!能力ッ!!」
この状況を打開出来るような何かッ!!
能力発動。
<絶対勝利>
おっ?イケたッ!!
そう思った瞬間、体を翻していた。
能力に操られて、走る。
「逃げるのは無理だ。俺の能力はどうする気なんだ?」
逃げていると思ったが、走る先には少女が。
欠けた剣先を振りかぶると、先程こちらを指差した少女に振り下ろした。
「こっちが本体…とか?」
俺の能力が何をしようとしているのか分からない。
ただ、それが正しいと信じて、剣により力を込めて振り下ろした。
凄まじい衝撃波ともに視界が曇る。
震える少女とそれを庇うバケモノ。
バケモノの硬い腕に俺の攻撃は防がれていた。
「そりゃ、そうなるよ…」
終わったか?俺の人生?
だが、何故か攻撃が来ない。
使い物にならない剣を捨て、全力で逃げた。
ふと後ろを向くと、少女の体が異形に変化している最中だった。
それを心配そうに見つめる、バケモノのリーダー。
「刺激しない方が良かったんじゃないのか?
いや、それだと俺は死んでいたのか…」
仕方なかったとはいえ、バケモノが2体に増えるとは。
本物のバケモノから逃れたことで油断していたが、気が付くと列をなしていたバケモノがこちらに迫っていた。
リーダーを攻撃したから襲われるのは当然だけど、戦闘する予定じゃなかったから、対策を考えていなかった。
剣は捨てた。
素手で戦える相手じゃない。
逃げる?囲まれているのに?
「もう一回、発動しろ。俺の能力!!」
さっきの戦闘で思った以上に体はボロボロになっていた。
敵の初激を勘で避け、意表を付く攻撃をする為に体を酷使しすぎた。
迫りくるバケモノは元気そうで、この差は覆せそうにない。
でも、……
「何とかしろよッ!!俺の能力!!」
祈るしかなかった。
俺自身に解決出来るはずもない。
能力発動。
<絶対勝利>
能力は発動したが、体が動かない。
何となく分かる。
無理なんだ。
この状況は打開出来ない。
今のままじゃッ!!
「ウオオオオッッッ!!」
体の中の操れるはずのない物が、能力によって強制的に動かされる。
血液が高速で体中を巡り、細胞が解決策を模索する。
そして心臓の鼓動に合わせて、体中に力がみなぎった。
筋力が向上しただけじゃない。
これは……
拳に謎の力を込めて、一番近いバケモノを殴った。
破裂音と共に近くにいたバケモノの体に穴が開いた。
しかし、拳にも激痛が走る。
「やっぱり無理だッ!!体が能力に追いついていないッ!!」
腕が千切れそうなほど痛み、ろくに動かなくなった。
「あぁ、終わりだ。
ここで死ぬんだ」
激痛のせいで冷静になってしまった。
こんなバケモノ複数を相手に生き残れる訳がない。
膝を付き、死を待つ。
次の瞬間、襲ってきたバケモノはバラバラになって宙を舞った。
近くを高速で何かが動いている。
そいつがバケモノを倒してるようだ。
「大丈夫?クロノさん」
背後から声をかけられた。
いつの間にかバケモノは一掃されていた。
バケモノを倒した人間が周囲に何人か見える。
「何で俺の名前を知ってるんだ?」
後ろを向くと、中学生か高校生ぐらいの若い少年がいた。
少年は返り血を拭いながら、ニヤッと笑うと、
「やっぱり、合ってた。よろしく、クロノさん」
結局、何も分からなかったが、時間切れのようだった。
視界が暗くなり、意識が落ちる。
ただ最後に誰かに支えてもらった感覚があった。




