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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第一の魔王討伐
71/82

71. クロノの記憶 ③



「多い…」



 俺はバケモノを討伐する集団に合流するため、バケモノを追っていた。

 当然だが、戦うバケモノは質と量どちらも桁違いに増えていた。

 


「10…20?いや、もっといるか」



 木の後ろに隠れて、遭遇したバケモノの集団を観察していた。

 数は多く、バケモノも集団で動いているようだ。

 問題は個体の強さ。

 俺が以前倒したゴブリンやオークは数がいたものの、人間の大人ぐらいの強さだった。

 それなりに戦闘を積んだ人間なら十分戦えるような相手だ。

 しかし、だんだんと遭遇するバケモノがまさしくバケモノになっている。

 想像を超える怪力や口から炎を吐くとか。

 それだけならまだマシで、厄介なヤツは体表が硬く、打たれ強い。

 これまでは何とか倒したり、逃げたりして、やり過ごしてきた。

 今回の相手はどうだ?

 逃げるか?倒すか?

 逃げるにしても、バケモノを目指して移動している以上方向は同じ。

 見つからないように遠回りすることになってしまう。



「アレをやるか」



 深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 冷静に、本能に、勘に従って、バケモノを眺める。


 集団をそのまま相手にするのは難しい。

 だが、奇襲で数を減らし、集団が混乱している状況なら勝てる。


 これまでの戦闘で分かったこと。

 絶対勝利(ハッピー・エンド)を使うたび、俺自身も強くなっている。

 戦い方や相手の強さ、撤退すべきタイミング。

 それら戦闘に関わることが()()()使()()()()()分かる。

 今だって能力を使っていない。

 それでも戦える。


 背中から静かに剣を抜いて、構える。

 特に考えることもなく、木の陰から飛び出した。

 

 俺の能力について分かったことは、もう一つある。

 発動したくても出来ないときがあることだ。

 最初はどんなバケモノにも使えたが、同じような相手には発動出来ないことが多くなった。

 しかし、その頃には能力を使わずとも、自分の力で戦えるようになっていることが多い。

 俺の能力は、今の俺にとって強い敵専用なのかもしれない。

 

 そんなことを考えている間に、最後の一体を殺し終えた。

 剣についた体液を拭い、剣を背中に戻す。


 武器を使うようになった理由は単純。

 どんな武器でも達人レベルで使いこなせるからだ。

 それに、強い敵が相手なら武器がないと硬い体表で攻撃を防がれてしまう。

 何処でも売っている普通の剣なら、調達も比較的簡単なのでこれにした。



「地図によると、こっちか」



 地図の情報と勘を合わせることで、かなり正確に自分の位置を知れる。

 近くに集落があるはず。

 俺の足なら今日中に行けるだろう。


 しかし、反対側の山肌を覗くと驚きの光景が広がっていた。

 多種多様なバケモノが集落のある方向に向かっていたのだ。

 おそらく先頭は既に集落についている。

 


「何故こんなにも大量のバケモノが列を作って押し寄せているんだ?」



 このバケモノ集団を指揮しているバケモノがいるのか?

 いや、その前にこの量は多すぎる。

 この量なら、俺の目指している集団が近くにいる可能性は高いんじゃないのか?

 合流を優先するのもありだけど、どいつがバケモノのリーダーかを知っておく方がいい。

 


「おそらく遠くから戦闘を見て、このバケモノを送り込んでいる。

 見晴らしのいい、山の頂上付近が怪しい」



 視線をゆっくりと移動させるが、木々が多く、姿を視認出来ない。

 どうすれば…。


 一瞬、思考が止まった瞬間に勘が答えを教えてくれた。

 バケモノの全体的な位置、山の標高、バケモノを操るリーダーの心理。

 自分が攻撃されることも考えているはず。

 だったら、思ったよりも列に近い、山の頂上付近。

 

 完璧な隠密を自然にこなしつつ、山を駆け抜けた。

 バケモノの先頭に近い、この辺り。

 木々の下に巨体を発見。



「当たり」



 赤黒い全身のそのバケモノは集落の方を見ている。

 隣には少女?

 

 

「女の子があんなところに…」



 しかし、攫われた訳ではなさそうだ。

 むしろ、あのバケモノの仲間のような雰囲気。

 とりあえず、この辺りでやめておこう。

 

 一歩後退りした瞬間、少女がこちらを見た。

 その少女がこちらを指差したときには、俺の隣に赤黒いバケモノが着地していた。



「嘘ッ!?隠密は完璧なはずッ!!」



 殴りかかってくるバケモノの拳に剣を叩きつける。

 俺の攻撃は間違いなく匠の技だ。

 こうやって強力なバケモノを一刀両断してきた。

 しかし、あっさりと折れた刀身が頬をかすめて飛んでいった。



「発動しろよッ!!能力ッ!!」



 この状況を打開出来るような何かッ!!

 

 能力発動。

 <絶対勝利(ハッピー・エンド)>


 おっ?イケたッ!!


 そう思った瞬間、体を翻していた。

 能力に操られて、走る。



「逃げるのは無理だ。俺の能力はどうする気なんだ?」



 逃げていると思ったが、走る先には少女が。

 欠けた剣先を振りかぶると、先程こちらを指差した少女に振り下ろした。



「こっちが本体…とか?」



 俺の能力が何をしようとしているのか分からない。

 ただ、それが正しいと信じて、剣により力を込めて振り下ろした。

 凄まじい衝撃波ともに視界が曇る。

 震える少女とそれを庇うバケモノ。

 バケモノの硬い腕に俺の攻撃は防がれていた。



「そりゃ、そうなるよ…」

 

 

 終わったか?俺の人生?

 

 だが、何故か攻撃が来ない。

 使い物にならない剣を捨て、全力で逃げた。

 ふと後ろを向くと、少女の体が異形に変化している最中だった。

 それを心配そうに見つめる、バケモノのリーダー。



「刺激しない方が良かったんじゃないのか?

 いや、それだと俺は死んでいたのか…」



 仕方なかったとはいえ、バケモノが2体に増えるとは。


 本物のバケモノから逃れたことで油断していたが、気が付くと列をなしていたバケモノがこちらに迫っていた。

 リーダーを攻撃したから襲われるのは当然だけど、戦闘する予定じゃなかったから、対策を考えていなかった。


 剣は捨てた。

 素手で戦える相手じゃない。

 逃げる?囲まれているのに?



「もう一回、発動しろ。俺の能力!!」



 さっきの戦闘で思った以上に体はボロボロになっていた。

 敵の初激を勘で避け、意表を付く攻撃をする為に体を酷使しすぎた。

 迫りくるバケモノは元気そうで、この差は覆せそうにない。

 でも、……



「何とかしろよッ!!俺の能力!!」



 祈るしかなかった。

 俺自身に解決出来るはずもない。


 能力発動。

 <絶対勝利(ハッピー・エンド)>


 能力は発動したが、体が動かない。

 何となく分かる。

 無理なんだ。

 この状況は打開出来ない。

 今のままじゃッ!!



「ウオオオオッッッ!!」



 体の中の操れるはずのない物が、能力によって強制的に動かされる。

 血液が高速で体中を巡り、細胞が解決策を模索する。

 そして心臓の鼓動に合わせて、体中に力がみなぎった。

 筋力が向上しただけじゃない。

 これは……


 拳に謎の力を込めて、一番近いバケモノを殴った。

 破裂音と共に近くにいたバケモノの体に穴が開いた。

 しかし、拳にも激痛が走る。



「やっぱり無理だッ!!体が能力に追いついていないッ!!」



 腕が千切れそうなほど痛み、ろくに動かなくなった。



「あぁ、終わりだ。

 ここで死ぬんだ」



 激痛のせいで冷静になってしまった。

 こんなバケモノ複数を相手に生き残れる訳がない。

 膝を付き、死を待つ。


 次の瞬間、襲ってきたバケモノはバラバラになって宙を舞った。

 近くを高速で何かが動いている。

 そいつがバケモノを倒してるようだ。



「大丈夫?クロノさん」



 背後から声をかけられた。

 いつの間にかバケモノは一掃されていた。

 バケモノを倒した人間が周囲に何人か見える。



「何で俺の名前を知ってるんだ?」



 後ろを向くと、中学生か高校生ぐらいの若い少年がいた。

 少年は返り血を拭いながら、ニヤッと笑うと、



「やっぱり、合ってた。よろしく、クロノさん」



 結局、何も分からなかったが、時間切れのようだった。

 視界が暗くなり、意識が落ちる。

 ただ最後に誰かに支えてもらった感覚があった。


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