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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第一の魔王討伐
70/82

70. クロノの記憶 ②


「よく燃えてるな」



 夜闇の中、その集落全体が真っ赤に燃えていた。

 人はほとんど逃げた後のようで見当たらない。

 しかし、目のピントが驚くほど簡単に遠くへと合わさった。

 そこには山肌を歩く人々。



「夢の中だからか、よく見える」



 逃げた人々と合流しようかと思ったが、視線を動かした先で炎の中に取り残された人を発見した。

 ガラじゃないが、見捨てていくのも気が引ける。

 幸い、火の勢いがまだ弱いようだ。

 


「こう動けば道があるのに、動かない。遠くからじゃないとわからないのか?」



 小走りで草原を抜けると、燃え盛る集落に突入した。

 入ってすぐの火の勢いの弱い所に人が残ってるはず。



「パッと見つけて、すぐ逃げれば」

 


 そう思い、家の角を曲がったとき、想定外の光景を目にした。

 さっき殺したゴブリンのような生物よりも大きな個体がワラワラいたのだ。

 オークって感じか。

 こいつらがいるせいで、逃げれなかったんだ。

 火事になったのもこいつらが原因だろうな。

 瞬時に息を殺し、後退りを始める。

 さっきと違い、俺よりも大きな体。

 無理だ。勝てるわけない。

 逃げ道の確認のため後ろを見ると、背後でオークが俺を見ていた。

 こいつに気が付かず、俺はここまで来てしまったらしい。



「ウオオオオッッッ!!」



 そのオークが叫ぶと、周囲のオークが続々集まって来た。

 睨み合いで逃げれない間に複数のオークが俺を取り囲む。



「この夢はバッド・エンドか」



 オークが手に持つ大きな棍棒を振り下ろした。

 反射的に腕でガードする。



 ボキッッ



 腕から嫌な音が聞こえた。


 痛いッ!!痛いッ!!痛いッ!!

 夢から覚めないッ!!

 何でだ!!

 夢なのに、こんな痛みッ!!



「………違うのか!?」



 俺の問いにオークはフゴッと鼻を鳴らす。

 これは現実なんじゃないか?

 この痛み。

 骨折なんてしたことないのに、夢の中で出てくるものなのか?

 次、あの棍棒で殴られたら、死ぬんじゃないのか?


 殴られて吹っ飛んだ俺にトドメをさすべく、オークが棍棒を振り下ろした。



「あっ……」



 死ぬ……。

 死にたくない。

 こんな惨めに死にたくない!!

 俺はッ、俺はあんなクソ上司のせいで死ぬなんて…。

 どうせ死ぬなら、もっと意味のある死に方をしたい!!

 こんな死に方をするなんて、まっぴらゴメンだッ!!


 その時、脳内に不思議な声がした。


 能力発動

 <絶対勝利(ハッピー・エンド)> 



 体が誰かに操られて動き出した。

 横に転がって間一髪で棍棒を避けると、驚いているオークの鼻に拳を叩き込んだ。

 怯んだオークの体に飛び乗り、両腕で首を固めると、自分でも驚くほどの力でオークの首をへし折る。



「腕は折れてたハズなのに、こんな力を!!あっ、喋れる」 



 口は自分で動かせるものの、その間も体は勝手に敵を殲滅していく。

 1分でその場にいたオークを全滅させた。

 ゆっくりと感覚が体に戻ってくる。

 さっき棍棒で殴られて折れた腕は治っていた。

 痛みはまだあるが、あの一瞬でここまで回復したのか。



「やっぱり、これは夢なのか?」



 同じ疑問が俺を悩ませる。

 しかし、オークにやられそうになった一瞬、俺は思い出した。

 俺は上司のパワハラに耐えかねて、自殺を…。

 ここは来世なのか?

 いや、体がそのままで次の人生はないだろ。

 とにかく情報が欲しい。

 この世界についての情報が。


 俺が助けたのは子供だったようで、その場でうずくまって震えている。



「もう大丈夫だ。火の手が強くなる前に逃げるぞ」


「えっ?」



 子供が顔を上げた。

 周囲のバケモノが死んだことを確認すると、残ったバケモノに恐怖で引きつった顔を見せる。

 俺が怖いのか?

 そりゃ、そうか。

 こんな大きなバケモノを全部倒しちゃうなんてな。



「君を運ぶから、暴れないでくれ」



 子供を担ぎ上げ、燃え盛る集落を脱出。

 その後、集落から脱出した他の人に話を聞けた。

 おかげで、多くの情報が手に入った。


 ます、言葉は通じる。

 大事なことだ。訛りも特にないらしい。

 

 二つ目、バケモノが出たのは初めてのことらしい。

 でも、少し前から話を聞いていたようだ。

 遠くの村に大量のバケモノが出たらしい、と。


 そして、三つ目。

 バケモノを討伐してまわる人間がいるという噂。

 国とは関係なく動いてる連中のようで、子供や女性も混ざっているらしい。

 俺もその連中の仲間だと思われていた。

 得られた情報はこんな感じ。

 これからの方針を決めるには十分だった。

 


「準備よし。出るか」



 数日後、俺は軽めの荷物を背負い、草原や山道を走っていた。

 三つ目の情報にあったバケモノを討伐する集団。

 勘ではあるが、ここに行くべきだと思った。


 道のりは遠く、自分のいる場所もその集団がいる場所も正確にはわからない。

 しかし、情報通りなら近づいているはずだ。

 その集団はより被害の大きい地域、よりバケモノの多い地域に向かって移動するらしい。

 だったら、移動した先でバケモノの被害を聞いて、より情報の多い方に行けば出会えるはず。


 長距離の移動を足で行ったが、それほど疲れはない。

 やはり体の調子が良い意味でおかしい。

 目はよく見えるし、反射神経はずば抜けてるし、筋力もけっこうある。

 体の動かし方も勘でわかる。

 あまりにも調子がいい。

 これの理由もそのうちわかるだろうか。


 これだけ調子がいいと精神的に調子に乗りやすくなる。

 ゴブリンやオークを倒したときのように、どんな敵でも倒せる気になる。

 しかし、進めば進むほど、その考えが甘いことを思い知らされる。

 大き過ぎる敵。炎を吐いたり、謎の攻撃をする敵。物理攻撃の通じない敵。

 色々と見たし、逃げたりすることも多かった。

 俺の力では敵わないことも勘でわかったから。

 でも、集団に合流するためにはそういった敵を目指す必要がある。


 そうして、たどり着いた僻地で俺は知った。


 俺が目指していた集団。

 俺が戦う敵。

 俺の能力。

 そして、俺の仲間を。


 

「よろしく、クロノさん!!」



 教えてもいない名前を、その少年は口にした。

 敵の返り血で濡れたまま、明るい笑みを浮かべて。


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