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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第一の魔王討伐
69/82

69. クロノの記憶 ①


 私を包む歪んだ空間が小さくなると、そこは見覚えのある廊下だった。

 色とりどりのロウソクが石壁を飾り、広間へと続いていく。



「ようこそ。『バベル』へ」



 ヒメカさんが手招きをしながら言う。

 ユニがここに来たのは2回目。

 前回はナティ先生に連れられてきたけど、話を濁されて終わった。



「奥でクロノが待ってるよ」



 ヒメカさんの言う通り、部屋の奥の椅子にクロノさんが座っていた。

 近くにはフードを目深に被った、頭がボサボサの元帥も。

 それともう一人、メイドの衣装のアレは?



「あっ、ユニちゃん!!久しぶり〜!!」


「お久しぶりです。ナルミシア」



 メイド衣装に身を包んだナルミシアだった。

 近づいて見てみると、ナルミシアのメイド衣装は胸元が大きく開いており、そこから大きな胸が見えている。

 


「どうしたんですか?その服?」


「これ、いいでしょ?ここで働くことになったときに貰ったの」


「働いているんですか?ここで?」


「うん、そうだよ。学校が封鎖されたぐらいのときから」



 学校は第五の魔王の影響で魔素体が出る可能性を考慮して、一時的に封鎖された。

 その後も魔素体との戦闘で破壊された校舎を直すなど、学校再開に時間がかかっている。

 そのドサクサで、ナルミシアがいなくなったことが騒ぎにならなかったらしい。

 直前でミロ先生に『仕事が決まったよ!!』という伝言を残していたのが分かったが、それ以降ナルミシアの消息は分かっていなかったのだ。

 それがこんな所に。

 しかも、けっこうな長時間。



「どうゆうことか説明してもらえますか?」



 ナルミシアを雇ったと思われるクロノさんに問いかける。

 机に両肘を乗せて退屈そうにしていたクロノさんがニコッと笑った。



「もちろん、その説明もさせてもらうよ。

 さぁ、座って?」



 クロノさんに促され、対面する形で席についた。

 ナルミシアは横でソワソワしている。



「今日、ユニさんを呼んだ理由は色々と説明する為なんだ」


「第一の魔王についてですか?」


「それもある。それ以外にも『元帥』についてや、何故ユニさんを選んだのか、も話すつもりだ」



 前回のように焦らされると思ったのに、積極的に話すつもりらしい。



「でも、たくさん話すよりも見る方が早いと思ってね。百聞は一見にしかずというだろ?」



 見る?何を?



「色々と意味がわかりませんが?」



 クロノ元帥は私の横にいるナルミシアを指差して、



「彼女の能力は心の声を伝えるだけじゃない。

 他にも色々なものを伝えられる。

 例えば、記憶とか」


「記憶を伝える?」


「あぁ、私が経験したことをそのままユニさんに見てもらおうと思ってる」


「経験を……見てもらう…?」



 イマイチ何を言ってるのかわからない。

 ナルミシアの能力を使って?

 でも、クロノさんの記憶がわかるらしい。

 とりあえず、やってもらいますか。



「それじゃ、早速」



 クロノさんが目配せをすると、ナルミシアは想念伝達(テレパシー)を始めた。



―――――――ッ――――――――――――



 以前のような雑音はなく、スルッとナルミシアの能力が私とクロノさんを繋げる。

 しかし、ナルミシアが顔をしかめた途端、頭痛が走った。

 ナルミシアが失敗したのではなく、膨大な情報が私の中に入ろうとしているように感じる。

 膨大な情報に押しつぶされそう…。

 意識がだんだん……。


 

 サワサワと足に何かが触れる。

 ここは何処?

 私は………俺は誰だ?


 『黒野 sy』

 


 名前?俺の名前は……。

 一瞬見えた文字はすぐに形を変えた。



 『クロノ』



 そうだ。俺の名前は『クロノ』だ。

 なんでこんなことを忘れていてんだ?


 意識がハッキリするにつれて、様々な情報が飛び込んで来た。

 足に当たる草。

 自分がいるのは草原だ。

 暗い。日が落ちている。

 ただ、遠くが明るい。

 田舎の農村にありそうな家が燃え上がっている。



「何だこれ?」



 自分の名前を思い出したのはいいものの、それ以外の事を思い出せない。

 酒か?飲み過ぎたのか?

 …………………酒って何だ?



「頭が働かない。水が飲みたいな」



 自分の中にある情報が増えたり、減ったりする。

 さっきまで知っていた事を忘れ、知らなかった情報が頭の中にあるような。

 本格的にヤバいな。

 頭をぶつけたのかもしれない。

 とりあえず、人を探そう。

 交番に行けば何とかなるだろ。

 そう言えば、あそこの家、燃えてるな。

 誰かいるかな。消防士とか。警官とか。


 ヨロヨロと平衡感覚すら怪しい足取りで、草原を進む。

 自分の足が草を蹴破り、ガサガサと音を立てる。

 妙に鋭敏な聴覚が背後からも同様の音を拾った。



「誰かいるのか?」



 背丈の低い草むらに人がいる訳ない。

 何かの動物か?


 頭では納得したものの、聴覚に残る違和感。

 ただの動物じゃない。

 縦に伸びる草が左右に分かれると、小さな人型の何かが現れた。

 最初、泥で汚れている子供かと思ったが、違いそうだ。

 よく見える両目が、醜い生物の顔を鮮明に写した。

 人間じゃない。

 ゴブリンとか言われてそうな、そんな感じ。

 そいつはゆっくりとこちらの様子を探りながら近づいてくる。

 俺も一歩一歩、距離を保とうと後退る。

 そんな俺を見て、イケると確信したらしいこいつは飛びかかって来た。



「な、やる気か!!」



 ビビりながらも声で威嚇した。

 だが、攻撃が来ない。

 閉じた目を開けた瞬間、そいつは腕にしがみつき、腕を噛もうとした。

 噛まれる前に腕を振り回し、振り払う。


 何だろう。

 これぐらいなら倒せる気がする。

 普段の俺は運動なんて全然ダメだが、こうゆうときは感覚が鋭くなるものなんだな。


 もう一度飛びかかって来たそいつの腕を、今回は逆に俺が掴んだ。

 振り回して地面に叩きつけ、細い首を力いっぱい踏みつける。

 グエッと小さな断末魔が聞こえると、そいつは動かなくなった。



「何だったんだ?」



 この感じ。夢か?

 いつもの俺なら、襲っきた相手とはいえ、首を踏んで殺すなんて出来るはずがない。

 これが夢なら早く覚めないと。

 明日も仕事があったはず。

 思い出せないけど。


 一息ついた、その瞬間。

 視界いっぱいに何かが広がった。



「ステータス?スキル?何これ?」



 意味のわからない、それらの言葉。

 何か色々書いてるけど、何の意味があるんだ?

 


「って、何だッ!?体が動かないッ!!」



 いや、少しずつ動いてるけど、まるで月面みたいにゆっくりとしか動けない。

 上げた足が地面につくのに数十秒かかる。

 風も止まってるし、遠くで燃えてる炎も固まってる。


 時間がゆっくりになってる。



「にしても、いつまで続くんだ?」



 時の流れがなかなか戻らない。

 目の前のこれも消えない。



「おっ、『次回以降表示しない』ってあるな」



 これ以外選択するやつもない。

 


「えいッ!!アレ?時間が戻らないな?」



 的外れな事をしたようだ。

 まぁ、いいか。邪魔だったし。


 その後、方法はよく分からなかったが、時間の流れは元に戻った。

 結局どうすれば良かったのか。

 そんな事はさておき。

 一番大事なこと。



「夢から覚めない。けっこう長いな」

 


 覚めないものは仕方ない。

 適当に見て回るか。

 とりあえず、あの火事の所を。


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