68. 終わりと始まり
「ナティ先生!!」
寝たばかりのナティ先生に申し訳ないと思いつつも、力を込めて揺さぶった。
起きたばかりで寝ぼけ眼のナティ先生が、
「…ユニ、どうした?」
「ユーゴが!!」
「…死んだのか」
「起きたんですッ!!」
「何ッ!?」
寝ぼけていたナティ先生はガバッと起き上がり、すぐにユーゴの所に向かった。
私も理解不能の現実に混乱しながら、ナティ先生に続く。
馬車の後方では、目覚めたばかりのユーゴは横になって休んだまま、リーナさんに抱きつかれていた。
「ユーゴッ!!生きていたのかッ!!」
驚いているナティ先生に、ユーゴは笑って見せる。
「何とか、生きて帰ってきた」
ユーゴと私の視線がぶつかった。
あの話をするつもりなんだ。
「ユニ、あのことを皆に話していいか?」
「…いいですよ」
ユーゴが第五の魔王の攻撃で死んだ直後。
私にはユーゴが見えた。
もしかしたら、それは私の幻覚かもしれない。
昔見た私の両親も…。
ても、ユーゴが話した内容は私が見た物と同じだった。
私が見た物はやっぱり…本物だったんだ。
「ユニは固有魔法を持っていたってことだ」
ユーゴは話をそう締めくくった。
すかさずナティ先生が不思議そうに、
「私が魔道具でユニの能力を測ったが、そんな様子は無かった。
どうゆうことだ?」
ナティ先生と同じ疑問を私も持っていた。
ナルミシアも固有魔法を持っているけど、その代わりに普通の魔法を上手く扱えない。
でも、私は普通の魔法をこれまで使ってきた。
私のこの固有魔法は一体なんなのか。
少し考えた様子のユーゴが、
「おそらくだが、ユニの固有魔法は完成していない。それが理由だと思う」
「固有魔法に完成とか未完成とかあるんですか?」
「わからない。固有魔法は謎が多いからな。
だけど、あの時、ユニは俺の姿を認識出来なくなっただろ?」
「えぇ、それで死んだと思ったんですけど…」
「あの時、俺はその場にいたんだよ」
「えっ?どうゆうことですか?」
「俺がいたらユニが戦闘に集中出来ないだろうから、見られたくないと思ったんだよ。
そしたら、ユニは俺を視認出来なくなった」
「私が見ようとするだけじゃダメで、死んだ相手も私に見られたいと思わないと固有魔法を使えないってことですか」
「そう、ユニの固有魔法は自分だけじゃなく、相手の意思も影響する。
しかし、俺が今まで見た固有魔法は一方的に発動出来るのがほとんどだ」
「自分だけで発動出来ない私の固有魔法は未完成だと?」
「そうゆうこと。まだ使いこなせてない代わりに、他の魔法を使えるんだと思う」
「それって、私が固有魔法を使いこなしたら、普通の魔法を使えなくなるってことですか?」
「可能性の話だが、ありえる。
死んでる俺を見たとき、ユニは体調を崩してるように見えたし、あれは固有魔法を使った反動だと思う」
そう言えば、死んだはずのユーゴを見たときに、凄く気持ち悪くなって吐いたような…。
でも、それが本当だとしたら、私はいずれ魔法を使えなくなるの?
そこまでして固有魔法を使いたくはないような…。
「何はともあれ!!ユーゴの帰還を祝おう!!」
唸る二人にナティ先生が嬉しそうに言う。
リーナさんも賛成とばかりにユーゴに抱きついた。
そう言えば、ユーゴはさっきから起きようとしない。
「ユーゴ、まだ体調が悪いんですか?」
ユーゴはギクッと言いづらそうにしていたが、ナティ先生とリーナさんに囲まれて理由を話した。
「生き返ってからさ。体が上手く動かないんだよ。
何というか、体と魂がズレてるような感じで、上手く力が入らない」
リーナさんの表情が暗くなるが、ユーゴは震える手でリーナさんの頭を撫でた。
「そんな顔をするなよ。俺は生きてるんだから、それでいいだろ?」
「でも、ユーゴの体に障害が残っちゃったら!!」
心配そうなリーナさんの言葉にユーゴは首を振る。
「別に構わない。それでいいんだよ」
「良くないよ。それじゃあ、また、あの時みたいに…」
第四の魔王の呪いによってユーゴの力が弱まったときのように、今回もユーゴが力を失うことになる。
しかも、今回は体を動かすことすら難しい。
ユーゴの震える手がその事を示していた。
「大丈夫だ。以前のようにはならない。もう力は必要ないんだ」
「どうゆうこと?」
不思議そうにするリーナさんの瞳を真っ直ぐ見つめて、ユーゴは言った。
「今まで言わないといけなかったのに、言えなかったことがあるんだ」
「な、何?」
身構えるリーナさん。
「リーナ、こんなに不甲斐ない俺と付き合ってくれないか?」
「ふえ………?」
現実を飲み込めていないリーナさんにユーゴが続ける。
「リーナの気持ちには気付いてたけど、俺なんかでいいのか不安だった。
でも、一回死んでみて心が決まった。
これからはリーナと一緒に過ごしたいと思ったんだが、ダメか?」
リーナさんは顔を赤くして、「あわわわわ」と言ったかと思ったら、バタッと気絶した。
「リ、リーナさん!!大丈夫ですか!?」
「えっえっ!!俺の告白、そんなにやばかった!?」
目を回しているリーナさんを担ぎ上げ、ナティ先生はふっと笑いながら、
「全員元気そうで良かった。疲れもあるだろうし、王都まで休もう」
その後、馬車は時間をかけて進み、王都にたどり着いた。
魔王討伐の知らせは届いているようで、新たな勇者の姿を見ようと、道は人で溢れている。
今回の魔王討伐は最も被害が少なかったため、王都にいた人には実感がないようだった。
王都についてからは、クローテスお祖父様が泣きながら表彰してくれたりと、勇者になったことで少し忙しかった。
王都第一魔法学校は死者が出なかったものの、建物に大きな被害が出ていて、勇者になって初めての仕事は後片付けとナティ先生のお使いになった。
「えっと、誰かいますかー?」
石の壁に向かって大きめの声で語りかけた。
壁が動き、見覚えのある老人にリーナさんの研究所を案内される。
案内された扉の奥にはリーナさんとユーゴがいた。
「ナティ先生から重要な文書らしいです」
「はい、どうも」
忙しそうにしているリーナさんに代わって、ユーゴが文書を受け取った。
魔法で動く車椅子に乗ったユーゴは意外と元気そうで、車椅子の練習をしながら、リーナさんの手伝いをしていた。
「ユーゴ、体調はどうですか?」
「変わらずだな。動くのに凄く力を使うけど、リーナの魔道具の補助があれば、自分だけでも生活できる」
ユーゴの後ろからリーナさんがひょこっと顔を出した。
「ユーゴが自分で動けないと大変だからね。色々と作ったの」
リーナさんはニヤニヤしながら、
「それに自分で動けないと、夜の営みでユーゴが満足出来ないみたいだし」
「お、おい、やめろ」
「私が騎○位でユーゴを満足させるって言ったのに、ユーゴは自分で動きたいって」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!」
真っ赤になったユーゴが絶叫した。
楽しい夫婦生活のようだ。
喧嘩に発展した二人を放っておいて、研究所を後にした。
「お使いも終わったことですし、午後はどうしましょうか?」
勇者になったものの、何をすればいいのか、自分は何をしたいのか。
とりあえず、いつものようにナルミシアを探しながら散歩をしようかな?
行き先の決まらないまま、研究所を出ようとした時。
出口の空間が歪んだ。
歪んだ空間から出てきたのはフードを目深に被り、目隠しをした女性。
「久しぶり、ユニちゃん。『おめでとう』が先だったかな?」
現れたのは元帥のヒメカさん。
「わざわざどうしたんですか?」
「大事な用があるのよ」
「どんな用か聞いてもいいですか?」
「来てくれればすぐに分かるよ。だから、早く」
ヒメカさんは有無を言わさず、歪んだ空間に入るように促してくる。
思い出すのは、第一の魔王の話。
その辺りで話を濁されたような。
「わかりました。行きますよ」
「どうぞどうぞ」
歪んだ空間が広がり、私を向かい入れた。




