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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
第五の魔王討伐
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64. 第五の魔王討伐②


 大穴に集まった土の魔獣は次々とユニに腕を伸ばして来る。

 不自然に腕が伸び、逃げるユニを何処までも腕が追いかけた。

 無数の腕によって、ユニの体が弾き飛ばされたように上空へ舞う。

 しかし、実際は風の偽装加護がユニを守り、腕は直撃していない。

 フワリと空中を回転するユニに、魔獣たちは神に救いを求めるかのようにもう一度無数の腕を伸ばす。


 宙を回転しながら深呼吸。

 目を開くと、押し寄せる魔獣の腕が見えた。

 捕まえようと、殴ろうと、叩こうとする、それらの手を躱し、足場の代わりにして駆け下りる。

 魔獣の核があると思われる箇所、人間で言うところの心臓を狙い、縦・横・斜めに土の魔獣を切り刻んだ。

 切り口から吹き出す悪臭。



「ッッッ!?、うえッ、臭いッッ!!何ですか、この匂いはッ!!」



 バタバタと土の魔獣が倒れると同時に腐敗臭が漂い始めた。

 ふと足元を見ると、ドロッとした()()が落ちている。

 その中には白い骨のような物も。

 こみ上げてくる胃液を堪え、その場を離れた。

 


「何でこんなところに…」



 ドロッとした何かは目を反らしても目蓋の裏に残っている。

 嫌な記憶を振り払うように、壁際で待ち受ける魔王に突進した。

 


「ユニーッッ!!後ろッ!!」


「えっ?」



 振り向くと、ユーゴが戦っていた悪魔が空を飛んでいた。

 岩の鎧を体中にまとった、かなり重たい魔獣のはずなのに。



「えぇぇぇっっっっ!!」



 慌てて避けると、ドガンッと重たい音を立てて、悪魔が転がっていく。



「いやー、すまんすまん、やり過ぎちまった!!」



 カイメルが手に持った槍をくるくると回しながら言う。



「おい、カイメル。ユニの邪魔をするな」


「そうカッカするなって、ユーゴ。悪魔が下がろうとしてたから、つい攻撃しちまったんだよ」



 勢い良く地面に叩きつけられた悪魔はヨロヨロと立ち上がる。

 あまり効いているようには見えない。

 それよりも、悪魔の後ろで魔王が眼光鋭くこちらを睨んでいる。


 直後、地面や壁から無数の尖った岩が飛び出した。

 ユニは軽く跳躍して避け、カイメルとユーゴは岩を砕いて対処する。

 しかし、後方にいる魔法使いたちはあたふたとするばかりで動けないでいた。

 魔法使いたちは前衛の3人に強化魔法を施していた為、即座に別の魔法を使えなかったのだ。



「クソッ……!!」



 魔法を準備中のリーナを守っていたナティが、小さく悪態をつくとリーナを抱えて跳躍した。

 同伴したばかりの魔法使いたちは救いを求めてナティに視線を送る。

 しかし、ナティはそちらを見なかった。

 地面と壁、一面から突き出してくる岩は残った魔法使いたちを串刺しにした。

 


「ユーゴッ!!そろそろだッ!!」



 岩を踏み砕いて着地したナティがユーゴに合図を送る。

 それを聞いていた3人は言われなくても、その先を理解した。

 ユーゴは頷くと、ユニとカイメルに支持を出す。



「カイメルは悪魔の相手をしてくれ!!」


「いいぜッ」


「俺とユニは魔王を引きずり出す!!」


「はいッ!!」



 立ち上がった悪魔をカイメルの槍が貫き、壁に固定した。

 暴れる悪魔の攻撃をカイメルは口笛混じりにかわす。

 次の攻撃を放とうとしている魔王に、ユニは風の魔法を混ぜた真空切断を放った。

 横なぎに放たれたユニの攻撃は空気すらも削りながら飛んでいく。

 巨体に見合わない大ジャンプで攻撃を避けた魔王の足元にユニとユーゴが潜り込む。



「ユニッッ!!合わせろッ!!」


「はいッ!!」



 二人の剣が鮮やかに輝いた。

 ユーゴの亜空切断は魔王の下半身を切断し、ユニの真空切断が魔王の上半身に迫る。

 魔王は風の刃を両手で受け止めるが、触れた箇所から削り取られ、崩れた岩は弾き飛ばされていく。

 


「地面に触れていない今なら、周囲の岩を鎧に変えられないはずだ」



 ユーゴの言葉通り、魔王の岩の鎧は削れていき、魔王の体がどんどんと小さくなっていく。



「リーナ、やれ」



 ナティの後ろからひょっこり出てきたリーナは杖を構える。

 戦闘開始前から発動準備を始めていた超位魔法。

 人類が開発してきた魔法を嘲笑うかのようにリーナが生み出した魔法はとても単純だった。

 リーナの膨大な魔力を熱に変えてぶつけるだけ。

 単純故に凄まじい破壊力を持つこの技は第四の魔王討伐でも決め手になった。



「行くよぉぉぉっっ……おっ?」



 リーナが魔の抜けた声を出した。

 狙っていた岩の塊が爆発し、複数に分かれたのだ。



「ちょっと待っってッ!!どれッ!!」



 リーナが叫ぶ。

 ユーゴは必死に岩を見比べてみるが、魔王は体を岩に潜らせたようでまるで見分けが着かない。

 岩を削り、小さくなったとはいえど、直撃させなければ効果は薄い。

 もしリーナの魔法で全部の岩を攻撃しようものならユーゴもユニもカイメルも巻き添えになる。

 考えやがったな、とユーゴは苦い顔をしながら思う。



 これを決定打にしないと、長引くことになる。

 そうなれば、第四の魔王討伐のように……。


 嫌な考えがユーゴの頭を巡る。

 リーナの超位魔法が霧散しかけたとき、新たな岩が頭上を飛んで行った。



「うおおおおおおッッッ!!せめて悪魔だけでも死んどけぇぇぇッッッ!!」



 カイメルが槍に刺さった悪魔を馬鹿力で投げ飛ばした。

 特に考えた訳でもない、その行動は決定打に変わる。


 宙で藻搔く悪魔に、同じく宙を舞う岩の一つが近づく。

 岩からは魔王の手が伸び、悪魔を掴むと突き飛ばした。

 最初に見た魔王とは見違えるほど小さくなり、身にまとう岩がなくなった魔王は一般的な人間の大人のサイズになっていた。


 魔王が悪魔を守った?

 自分が死ぬかもしれない状況なのに。

 やはり、あの悪魔に何かあるな。

 


「今だッ!!リーナッッ!!撃てぇッッッ!!」


「よっ!!」



 リーナの緩い声とともに超位魔法が放たれる。

 魔王との間にある空間が膨張を始め、魔王は光に包まれた。

 見る者の眼を焼くようなまばゆい光が魔王を襲う。



「くッ、アッッチッ!!アチッアチッ!!」



 流れ弾で熱波を食らったカイメルが踊るように藻掻いている。

 まあ、大丈夫だろう。カイメルだし。

 ユーゴは熱波の収まった頃合いを見て、顔を上げた。

 数メートル先が灼熱の大地に変わり、その中心にはドロドロに溶けた岩と小さくなった魔王。

 魔王は苦しそうに呼吸を繰り返す。

 灼熱の大地が持ち上がり魔王を包むが、鎧にはならず、ずり落ちる。



「遠距離から畳み掛けるぞ」



 灼熱の大地に踏み入れないため、各々の遠距離攻撃で弱った魔王を狙う。

 四方から放たれた攻撃をドロドロに溶けた悪魔が魔王に覆いかぶさるように阻む。

 柔らかくなった土の鎧が軽く吹き飛び、衝撃で悪魔の体から何かが飛び出た。

 


「ユ、ユーゴ……これ……」



 灼熱の大地から離れたところに、それは転がっていた。

 ユニが指差すそれは、ボロボロになった服を着ている。



「人間……か?」



 その時、灼熱の大地にいた悪魔の体が崩れ落ち、ドロドロの大地に混ざった。



「そうか。大量に発生した魔獣たちの核には人間が使われていたのか」

 


 いや、それだと数が足りないか?

 ベンケイが住民のほとんどを連れて逃げたはず。

 となると、他に核となるのは……。


 悪魔から飛び出た人間はピクリとも動かない。

 怖じ気づくユニを背に、その人間の首元に手を当て……ようとしてやめる。

 死んでる。

 しかも、かなり腐敗が進んでいる。

 悪魔になった時点で死んでいたと考えていいな。


 つまり、核の材料は人間の死体だな。

 この街もそれなりに大きな街だ。

 墓所ぐらいはあるだろう。

 そこの死体が丸ごと魔獣にされたってことか。


 つんつんとユニが突いてくる。



「ん、何だ?」


「あの、その人、エリシアさん…じゃないですか?」



 言われて見ると、ゆったりした服は見覚えがある。

 腐敗が進んでいる為に、顔で判断することは難しいが言われてみれば、こんな顔だったような……。



「ユーゴッ!!動いたぞッ!!」



 ナティの言葉に顔を上げると、灼熱の大地を強引に背負っただけの魔王がこちらに走ってくる。



「ユニ、下がれ!!」



 触れれば火傷をしそうなので一旦距離を置いた。

 しかし、魔王は追いかけてこない。

 エリシアの死体を見下ろして、動かなくなった。

 

 エリシアは確か、強力な精神魔法を使えたな。

 この魔王、いや、魔王になった誰かはエリシアに精神支配されていたのだろう。

 そのまま、何かの拍子に魔王化したのか。



「よし、そろそろ行けるだろ。やるぞ、ユニ」


「えっ、は、はい……」



 放心状態のユニが慌てて剣を持ち直す。

 魔王も少し冷めたようで、土の鎧は固まっていた。

 しかし、まだ熱は残っている。

 切れるはずだ。



 ユニが近づいていくが、歩みが遅い。

 振りかぶった剣は震えていた。



「ァァ………シ…」



 魔王が何かを言っていた。

 少し遠くて聞こえない。

 ユニなら聞こえているだろうか。



「ユ、ユーゴ…」


「何だ?」



「この人…死にたくないって……言ってます」


「…………人じゃない…魔王だ」



 一瞬の沈黙。



「知ってたんですか?魔王が人だって」


「知らなかったのか?魔王が人だって」



「だ、だって」


「魔獣は魔素によって変質した生物だ。

 虫、獣、魚。

 そして、人だ。

 考えればわかるだろ?魔王のような高度な知性を持つ生物が人間から生まれたものだってことは。

 まあ、今回の魔王は心をエリシアに持っていかれてたようだが」



「それは魔獣の話ですよね。魔王って……何なんですか?」


「そんなに考えることか?強めの魔獣だよ。

 俺が倒した第四の魔王だって人だ。第二の魔王を除けば、これまでの魔王は全て人だ。

 第一の魔王も含めてな」



 ユニの振り上げた剣は力なく下ろされた。

 魔王はまだブツブツと何か言っている。



「魔王は元人間ですよね?だったらッ」


「無理だ。魔王にある知性は人間を滅ぼす為だけに使われる。これまで話し合いができたことはない」



 話している間に魔王が手を付いて立ち上がった。

 いつの間にか大きくなっている。



「ユニッ!!魔王はまだやる気だッ!!倒せッ!!」



 少しずつ地面を吸収して大きくなる魔王は悪あがきとばかりに暴れる。

 ユニは避けるばかりで剣を振るわない。

 カイメルとナティが巨大化する魔王の体を引き裂いた。

 遂に力尽きた魔王は膝から崩れ落ちるかに見えた。



「ユニッッ!!」



 ユーゴの声と同時、崩れ落ちる魔王の巨体から小さな魔王が飛び出した。

 避けようとしたユニは、何かに足を掴まれる。

 


「エリシア…さん?」



 腐敗したエリシアの手がユニの足首を掴んでいた。

 口からゴポリと土を吐きながら。


 回転しながら飛び出した小さな魔王は、硬い鉱物をその身にまとい、ドリルのように突進する。

 ユニの構えた剣は簡単に砕かれ、魔王の手が届きかけたとき、ユニは突き飛ばされた。

 


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