61. 協力
第五の魔王討伐は、魔王が王都に向かって進行しないという前代未聞の事態を受けて、それまでの魔王討伐と様子が様変わりしていた。
これまでは苛烈な攻撃で甚大な被害を生む魔王の進行を止めるべく、複数の集団が準備の整ったタイミングでそれぞれに戦闘を行っていた。
しかし、今回の魔王は動かない。
姿を確認出来た訳ではないが、人型の魔獣はベンケイのいた町に陣取って動こうとしない。
おそらくはその中心に第五の魔王がいると思われるが、何故王都を目指さないのか。
いや、むしろこれまで王都を目指していたことを疑問に思うべきなのか?
周囲が慌ただしくなる中、ユーゴはテントの前で考え事をしていた。
あまり寝付けなかった俺は早めに準備が終わりこうして待っているが、他のみんなはそうではない。
ゆっくり寝て、準備が整ったタイミングで魔王討伐に向かうという計画なのだ。
ガサゴソとテントを開いて、ナティが出てきた。
「ユーゴか、早いな。私はアイテムの確認と他のパーティーの様子を見てくる。その間にリーナを起こしておいてくれ」
「俺が勝手に入ってもいいのか?」
ナティは呆れたような目で繰り返した。
「リーナを起こしておいてくれ」
はいはい、と適当に返しつつ、リーナのテントに入った。
布団にくるまって寝ているリーナに声をかけながら揺さぶる。
「おい、起きろ。魔王討伐に行くぞ」
「う〜ん?ユーゴの声だ!!」
ガシッと俺の腕を掴むと布団に引きずりこもうとしてくる。
布団を引き剥がしてジダバタと暴れるリーナに準備をさせた。
「これから魔王討伐だぞ。大丈夫なのか?」
「私は大丈夫だよ。ナティの後ろで魔法を撃つだけだもん。それより……」
じーっと、リーナがこちらを心配そうに見つめてくる。
「ユニの様子を見てくる」
心配するリーナを残し、ユニのテントをノックした。
入っていいですよ、と声が帰ってくる。
「準備は出来てるか?」
「えぇ、もちろん」
軽く運動をしていたようで、息が荒くなっている。
今回の魔王討伐で、俺にとって最も重要な存在。
ユニを上手いこと勇者にしてやれるか。
俺のようにはならずに。
「どうしたんですか?表情が固いですよ」
「ん?そうか?」
「緊張してるんですか?言っておきますけど、私の心配は大丈夫ですから。ユーゴは自分の心配をしてください」
心配しているのはこちらのはずだが、ユニの方も俺のことが心配らしい。
大丈夫さ。俺のことは。
今回魔王を討伐するのは俺じゃない。ユニだ。
俺はそうなるように支援をするだけ。
むしろユニの方が大変になるはずだが、分かっているのかどうか。
「もうそろそろ出発だ。外に出てくれ」
「はい、わかりました」
二度寝しようとしているリーナを叩き起こし、帰ってきたナティと何故かいるカイメルも混ざって魔王討伐に向かった。
流石に人数が少ないとは思ったが、まさかカイメルと共に戦う事になるとはな。
「おい、ユーゴ。魔界に入らない癖して魔王討伐に参加するとはどうゆうことだぁ?」
オラオラした感じのカイメルが不思議そうに言う。
「準備が出来てなかっただけだ」
愛剣を見せるとカイメルは納得してくれた。
人数としてはまだ少ないが、途中で数名参加してもらおう。
先に魔王討伐に行った連中で、誰かが怪我をして引き上げてくるだろう。
その中で怪我をしていない使えそうなやつに頼む。
朝早くに魔王討伐をしに行く連中だ。
魔王討伐の手柄を諦められず、了承してくれるだろう。
後ろで支援魔法をしてもらうだけだから、連携もそこまで問題ないだろうし。
「何だか魔王討伐って感じがしねぇなあ。まるで遠足だぜ」
カイメルが楽しそうに言う。
実際俺たちの雰囲気は明るい。
前回の魔王を討伐したメンバーだから落ち着いているのだろう。
丘を超えると町が見えた。
町を取り囲むように戦闘が発生している。
しかし、魔王と戦っているパーティーはいないようだ。
作戦としては他の連中が魔獣を減らしてから戦う予定だったが、上手くいったみたいだな。
勇者としての功績を手に入れるため、焦って早朝から戦闘を行っていたやつもいるようだが、その考えは浅はかだ。
そんな少数で魔王にたどり着けるなら、この数ヶ月で魔王の情報が更新されているはずだ。
それなのに魔王の情報が一切手に入らなかったと言う事は、魔獣の量が多いのだ。
後から適当なタイミングで参加するのが最も可能性が高い。
だが、それだけじゃない。
遠くで手を振っている大男がいる。
「ユーゴ殿。待ちくたびれたぞ」
「すまない。ベンケイ。準備に時間がかかった」
この占領されている町の有力者であるベンケイも魔王討伐に参加する。
しかし、ベンケイの目的はこの町を取り返すことだ。
魔王討伐が目的の俺たちと違い、町を取り返すことが目的のベンケイの存在は利害が対立しないので都合が良かった。
互いに協力して魔王討伐を行い、魔王討伐の手柄はユニに譲ってもらうように交渉してある。
ベンケイも今更勇者の栄光に興味はないようで、快く了解してくれた。
「それでは行こうか」
ベンケイの率いる集団が先に魔獣と戦い、それを援護するように俺たちは動く。
こうして俺たちの力を魔王まで温存する。
メリットばかりに見えるがそうではない。
魔王との戦闘は俺たちが担当することになるが、ベンケイ達の援護は望めないだろう。
退路を塞がれないようにする必要もあるし、魔獣の量が多いため魔力を使い切っているに違いない。
そして、もし俺たちが魔王に負けた場合、ベンケイ達も窮地に陥ることになる。
責任重大だ。
町の入り口辺りで戦闘が始まった。
ベンケイが実力で町の有力者になったという話は本当らしく、強化魔法を受けたベンケイが一人で暴れている場面が多かった。
もちろん俺たちも見ているだけでなく、ベンケイの援護をする。
ナティが盾で魔獣を牽制し、ベンケイが薙刀で魔獣を倒していく。
太陽が頭上に昇る頃、町の中央に立つ一体の魔獣を発見した。
「あれは悪魔だな」
その魔獣を見たことのあるユーゴが断言する。
「魔王が見当たらないようだが」
ナティの言葉通り他には魔獣もいない。
ベンケイ達と入れ替わり、俺たちが前に出た。
「どうする?罠かもしれないが」
ナティの言葉に頷きつつも否定した。
「『かもしれない』じゃない。間違いなく罠だ」
前回戦ったとき、第五の魔王は自身よりも悪魔に強化魔法を使っていた。
この悪魔は第五の魔王にとって、側にいる強力な魔獣以上の関係だと思われる。
第五の魔王は絶対に近くにいる。
引きずり出すためにあえて罠に引っ掛かってやるか。
「私がやるべきじゃないですか?」
ユニの言う通り、素早く動けるユニの方がこの役目には最適だ。
しかし、ユニには勇者として魔王の相手をしてもらう必要がある。
「悪魔との戦闘が始まったら、担当する敵を変えるのは難しい。
もしユニが悪魔の相手をしてる間に魔王がこちらを攻撃してきた場合を考えると……」
ユニがジト目で見てくる。
「いや、別にそんなに変なことは言ってないだろ?」
「分かりました。私が魔王の相手をするんですね?」
「そうゆうこと」
何故か念押しされた。
そのつもりだよ。もちろん。
「じゃあ、行ってくる」
俺の言葉に合わせて味方から強化魔法が施される。
途中で拾った魔法使いはちゃんと仕事をしているようだ。
自分でも強化魔法を軽めに使い、悪魔に接近した。
視認しているはずだが動かない。
切ってみるか。
亜空切断を放つと、あっさりと悪魔の体が上下に真っ二つになった。
「んッッ!!中身がないッ!!」
土で出来た殻のようなものの中は空っぽだった。
元々土で出来た鎧を身に着けている敵だったため本物と判別が付かない。
そして土の殻が崩れると、地面が大きく揺れ始めた。




