60. 膠着
第五の魔王が出現したという情報は王都と最前線だけでなく、魔界にいたユニの元にもしっかりと届いていた。
魔界の集落を維持できる人数を残し、魔界にいた多くの戦士が最前線へと舞い戻った。
最初、半信半疑だった戦士も最前線から見える光景に目を疑う。
建ち並ぶ家からひょっこりと突き出ている魔獣の頭。
最前線近くの町で、大きな人型の土にまみれた魔獣が自分の住処のように町中をのっそりと歩き回っていたのだ。
数は複数、時間とともにだんだんと増えているようにも見えた。
それからは魔界・最前線・王都などから集まった人々がチームを作り、各個撃破を繰り返している。
しかし、一ヶ月経っても進展はなかった。
長い金髪がたくましい筋肉の上で揺れる。
道を尋ねて少しずつ目的地に進むナティの背に声が聞こえた。
「ナティ先生!!」
振り返ると久しぶりに見る少女の嬉しそうな顔が目に入った。
「ユニか!!久しぶりだ」
久しぶりに会うユニは成長して背が伸びたようにも見えるが、それ以上に大人っぽい雰囲気を少し感じた。
今は雰囲気が学校の頃に戻っているが、普段は大人に混じって戦闘経験を積んでいるのだろう。
ユニの頭をポンポンと叩くと、ユニは子供扱いされるのが不満そうにしかめっ面になった。
「ナティ先生。私、もう卒業してますからね?」
「いや、すまない。ついつい」
ユニに連れられて、第五の魔王討伐のために作られた基地を進む。
即席の大型テントが左右に並ぶ道の先、他のテントと違い静かな大型テントに入った。
「う〜ん、むにゃむにゃ」
「ちょ、ちょっとリーナさん?ここで寝ないでください!!」
テントに入ってすぐのところで、リーナが荷物を抱き枕にして眠っていた。
おそらく私と同じで到着したばかりなのだろう。
荷解きどころか部屋に入る前に眠ってしまうとは。
「リーナ、起きろ!!」
「むにゃ?……むにゃむにゃ」
少し反応したが、睡魔が勝ったらしい。
気持ち良さそうに眠っている。
「ダメみたいですね……」
「後で私が運んでおこう」
「着いて早々すみません」
「構わない。力仕事は任せてくれ」
自分の荷物を担ぎ、ユニに案内された部屋に荷物を置いた。
テントではあるものの、個別に部屋を作ることができ、それなりの大きさもある。
なかなかに快適な大型テントだ。
部屋を物色しているとユニが思い出したように言う。
「ユーゴは隣の部屋ですよ」
「ユーゴはもう着いているのか。…って、当然か」
第五の魔王と最初に戦ったのはユーゴという話だった。
すぐ隣の部屋をノックするとユーゴの声がする。
重たい幕で出来た扉を開くとユーゴが簡易的なベッドで寛いでいる。
しかし、どことなく雰囲気が懐かしい。
第四の魔王討伐時代の自信に満ちたユーゴを彷彿とさせる雰囲気だ。
「ユーゴ、剣は役に立ったか?」
ユーゴが自暴自棄になって売り払ったことを知ってから、ダグラ=イスタに頼んで回収してもらった剣だ。
もしかしたら魔界に行くかもしれないと思い、今回ユーゴに最適なその剣を渡したのだ。
「物凄く役に立ったよ。剣が無かったら、第五の魔王と戦えてなかった」
「それは良かった。それで第五の魔王の話は本当か?どんな魔王だった?」
「聞いてくると思った。ゆっくり話そう」
ユーゴは待ってましたとばかりにおもむろに話し出した。
「魔王の能力だが、土に魔力を込めて鎧のように身につけたり、その土で魔獣を生み出したり、更に強化も出来るみたいだ」
「今回は物理的な能力か」
第四の魔王の場合は『呪い』を使ってきた。
最も強力な呪いを受けたのはユーゴだが、第四の魔王は自分にも不死の呪いをかけていて、魔力が切れるまで殺せなかったのだ。
そのせいで倒すのに時間がかかり、被害が増えた。
今回は『土』ということだが、どうなることやら。
「それとな、悪魔もいたぞ」
「ほぉ」
「最初は悪魔の方が魔王だと思ってたんだ。本物の魔王に強化されてたからな。だけど、魔王を攻撃した途端に悪魔の強化を止めて、自分を強化したんだ。強化されたら剣も通らないぐらい硬くなる」
「強化前なら剣が通ったのか?」
「ちょっとぐらいは」
「それなら魔力を消費させればそこまで強くないかもしれないな」
「簡単に言うよな」
よくある戦い方ではある。
相手の手の内が分からない以上、慎重に戦い相手の手の内と魔力を使い切らせて、その後弱った敵を全力で攻撃する。
「それで今の所問題なのは魔獣を生み出す能力か」
「一ヶ月も戦況が止まってる。力を合わせて一気に殲滅しないと魔王にたどり着けない。今は何処にいるのかも分からない」
「その為にリーナを呼んだわけか」
「そうだ。範囲殲滅となったらリーナが最適だからな。他の連中も各々強力な魔法使いを集めてるようだから、そろそろ攻勢に出れると思う」
「準備は万端ということか」
ポンコツのように見えても、しっかりと行動しているのはユーゴらしい。
それはさておき…。
「私を呼ぶとは思わなかった」
てっきり王都で魔王討伐の報告を待つものと思っていた。
これまで通りなら魔王討伐をした勇者一行は次の魔王討伐には参加しないのが普通だった。
というか、年齢的に参加出来ないが正しい。
しかし、今回は魔王が来るまでの期間が短すぎたため、第四の魔王討伐に参加した私たちが第五の魔王にも挑めるわけだ。
「今回は総力戦になりそうだからな。ナティの力が必要になると思ったんだ」
「頼られるのは嬉しいが、第四の魔王討伐に参加した私達があまり首を突っ込みすぎるのも考えものだ」
次の世代に栄光を譲ってやるべきだろう。
とは言っても、譲る相手は決まっているが。
「考え過ぎなだけだ。みんなそのぐらい気にしないさ。勝てばいいんだよ。それと俺みたいにならなければ」
今回の魔王討伐、ユーゴはやたらとやる気があるように見える。
意気込んでいる。という簡単な話ではないのだろう。
ユニと自分を重ねて、自分と同じような悲劇が起こらないよう、ユニを成功に導くつもりか。
「過保護にならない程度にな」
「別に俺たちなら簡単に魔王を倒せる訳じゃない。使える戦力を全て投じたいだけだ」
第四の魔王を討伐したユーゴに降り注いだ悲劇。
その呪縛からは遠の昔に解放されていると思っていたが、どうやらユーゴ自身はむしろ渦中にいるつもりらしい。
第五の魔王討伐が一つの契機になりそうだ。
手のかかる友人に溜め息をこぼしつつ、ナティはリーナを運びに行くのだった。




