6. 信頼度回復計画3
ユニが脅えているのを尻目に、マントを脱いだ男に話しかける。
「お前、何者だ?」
「俺か?俺は暗殺者のシールだ」
「それなことはどうでもいい。ユニとどうゆう関係か聞いてるんだ」
「関係かぁ、大して深い関係がある訳じゃないんだがぁ。
まぁ、そうだなぁ。俺がそいつの両親を殺したぐらいだ」
「そんなやつがなんでこんなとこにいる」
「元勇者さんよぉ、分かってるだろぉ?
仕事でお前を殺しに来たんだよ」
「たまたま前回も今回も近くにユニがいたって言うのか」
「知らねぇよそんなことぉ。
後ろのあいつに聞いたらいいんじゃねぇかぁ?
まぁ、お前が生きてたらの話だけど」
今すぐにでも金髪頭を捕まえて色々と聞きたいところだが。
このシールという男、へらへらしてるくせして油断を一切してない。
俺はおもむろに剣を抜き、構える。
剣と言っても俺のは木製。
シールが持っている本物の鉄の剣と戦うのは厳しいな。
そしてあいつも魔法を使えるだろうから、打撃で倒すのも難しい。
シールはゆっくり一歩一歩、俺を注視して近づいて来る。
この圧倒的優位な状況でも焦らず、確実に俺を殺そうと品定めしている。
厄介な敵のようだ。
油断を誘って不意討ちで終わらせたいが、無理そうだな。
周りを目だけで確認し、召し使いがいないのを確かめる。
おそらく兵士を呼びにいったのだろう。
周囲を警戒していたのは、あの金髪頭が来ることを見越しての行為だったわけだ。
ここは王都からそう離れていない、すぐに呼んでこれるはずだ。
この状況でシールを倒すのは難しい。
つまり、兵士の到着を待つのが最善。
「ユニ、離れろ‼」
後ろで脅えているユニを下がらせようとしたとき、シールが突っ込んできた。
シールと俺が同時に身体能力向上を使い、剣がぶつかる。
お前の標的が俺ならッッッッ
ユニが後ろに下がったことを確認。
シールの剣を後ろに流し、反撃を狙うように見せかけつつ、距離を取って、剣の届く範囲を出る。
俺に剣を向けているシールは必然的にユニを視界の外に置くことになる。
それによってユニの安全を確保できる。
反撃を狙うように見せかけて警戒させ時間を稼ぐ。
これが今できる最善の策だ。
シールはユーゴのフェイントには全く引っ掛からず、微笑を浮かべながらも、冷静に俺の力を見極めようとしていた。
シールは余裕のある表情で攻撃を繰り出し、俺はそれを余裕があるように見せながら剣で受け止めていた。
「おぃおぃ、勇者…。いや、元勇者さんよぉ。
弱ってるってのは聞いてたがぁ、流石に弱すぎないか?」
言葉で俺を馬鹿にしながらも、シールは焦ることなく距離を詰める。
「なぁ、なんか奥の手とかがあるんだろぉ?」
「さぁ、どうかな」
シールは俺の奥の手を警戒しているが、もちろん奥の手はそんなにない。
昔は色々と技を持っていたが、魔王の刻印で魔力量が減った現在は出来ること自体がかなり減っていた。
残りの少ない魔力を上手く使わないと長く持たない。
兵士が来るまでの長期戦は悪手だったか?
いや、これよりも安全な策はない。
ただ1つだけ気掛かりなことがある。
俺が死ぬ前に兵士が駆けつけてくれるかどうか。
「おぃおぃ、考えごとしてる場合かッ」
勢いよく振り下ろされた剣を、考えごとをしながらもしっかりと受け止めた。
しかし、シールの剣が更に重さを増している。
少しずつ剣に加える力を増やしてるッ。
奥の手なんかないことがバレてるな。
ていうか、さっきまでの攻撃は本気じゃなかったのかよッ。
考えごとをしながらシールの相手をしていたせいで、周囲が全く見えていなかった。
視界の端、シールの後ろの方からユニが剣を構えて近づいていた。
「ふっ、足音が聞こえてんだよぉ‼」
シールは俺の剣を弾き、斬りかかろうとしていたユニのお腹を蹴飛ばした。
「ユニッ‼何やってるッ!!逃げろッ‼」
「嫌ですッ‼
このまま逃げてユーゴが死ぬのは嫌ですッ‼
それに私の両親を殺した男を前に、逃げ出すわけにはいきませんッ‼」
蹴られたお腹を痛そうにして起き上がろうとしているユニに、シールが剣を振り上げていた。
クソッ‼ユニが危ないッ‼
ゆっくりと剣を振り下ろそうとしているシールを後ろから攻撃しようとした瞬間、シールがこちらを見て微笑んだ。
一瞬、シールが俺の倒した魔王と重なって見えた。
「オラァァァァァァッ‼」
シールが即座に振り返り、全力で剣を振り下ろした。
木剣で受け止めようとしたが、腹部に痛みが走り、体が吹っ飛ぶ。
地面に打ち付けられた俺は、斬られたところを触って臓器に達するほどの深い傷でないことを確かめる。
「……ユニを囮にして……俺の攻撃を誘ったのか……」
お腹から流れ出る血と痛みを懐かしく感じる。
まずいッ‼
このままじゃ兵士が到着するまで持つかどうか分からない‼
いや、兵士が到着する頃には俺はあの世にいるッ‼確実にッ‼
考えろッ!!どうにかして時間を稼ぐしかないッ‼
「なあ、シール…だったな?
お前は何で暗殺者なんかしてるんだ?
兵士とか、貴族の護衛とか、それだけの実力があれば給料のいい仕事はいくらでもあっただろ?」
「はっ、時間稼ぎってところかぁ?
まぁ、いい、答えてやるよ。
俺が暗殺をやってる理由は人を殺したいからだよ。
難しい理由なんか要らねぇ。
ただ気に入らないやつを殺したいだけだ。
ありがたいことに殺したいやつを殺したら金がわんさか貰える世の中なんだよ。
兵士だとかは人を殺せない馬鹿のやることだぁ!!」
聞いたのは間違いだったかもな。
こいつにも違う生き方が有るんじゃないかと言ってやろうと思ったが、言葉が通じるとは思えない。
暗殺が生活になってるんだ。
こいつを止めるのは言葉じゃない。
誰かが一旦牢屋に放り込まない限り止まらないな。
「良かったなぁ、元勇者ぁ。
これで随分と時間を稼げたじゃないかぁ。
だが残念なことに兵士はここに来ない、間違いなく」
「何故そんなことが言える?」
「知らないとは可哀想なやつだなぁ。
後ろの金髪のガキはここいらの兵士と仲が良くてな。
ここには来ないように言っておいたんだよぉ。
まあ、もしかしたら助けに来てくれるかもしれないし、期待してみたらどうだ?」
シールの思う壺だと分かっているが、思わず舌打ちをした。
知っていた。
兵士連中がそうゆうやつだと言うことは。
それでも助けてくれるはずだと無意識の内に信じ込んでいた。
金に嫌気が差して金を捨てた俺が、金を貰ってるやつに斬られ、金を貰っていつまでも来ない兵士に期待してたとはなッ。