58. 豪邸
「でぇぇぇやぁぁぁッッ!!」
大声を上げて、鎧に身を包んだ大柄の男が薙刀を大きく横になぐ。
先端についた刀がユーゴの鼻先を掠めた。
「危なっ!!」
ピョンッ、と後ろに飛んで避けると、ユーゴは剣を引き抜いた。
大柄の男は薙刀を高く構え、すり足でにじり寄る。
ユーゴは突然の攻撃に驚きつつも、冷静に会話を試みた。
「なぁ、話をしよう。
何で俺を攻撃するんだ?」
「問答無用ッ!!
貴様がか弱い女性を付け狙っていたことは知れておるッ!!」
うーん、……否定できない。
尾行してたのは本当だからなぁ。
ただ、か弱いってのはどうなんだ?
突然、ぶんぶんと薙刀を振り回す手が止まった。
高く構えられた薙刀の刀身が明るく輝く。
「マズッ」
距離を取るユーゴには目もくれず、薙刀は明後日の方向に振るわれた。
刀身からは予想通り、魔力の刃が放たれる。
その攻撃は二人の横を素通りしようとしたユニの召し使い、サリナの行く手を阻むように壁に当たった。
「そこの者、それ以上進むのなら、容赦せんぞ。
死にたくなくば、そこで止まっておれ。
女性を傷付けるのを我は望まん」
サリナは大柄の男を睨みつけつつも、言われた通りにその場で止まった。
こちらに向き直った大柄の男が振るう薙刀に、ユーゴは剣を当てて対応する。
こいつ意外とやるなぁ。
エリシアからの妨害を予想して、サリナと俺の二人で尾行してたのに、サリナも見つかったんじゃ意味がない。
でも、この男は悪い奴じゃないだろうし、殺すのもなぁ。
のんびりそう考えていると、大柄の男が膝から崩れ落ちた。
「行きますよ」
サリナが吹き矢を懐に仕舞い、そう言う。
「殺した?」
「いいえ。強力な睡眠薬なので死んでないでしょう。
しかし、強力なので記憶障害や意識の混濁があるかもしれませんが」
どうやら気を使ってくれたらしい。
一般人が死ななくて良かった。
「で、どうします?」
サリナが呆れたように尋ねる。
この男とその前に数人を相手している間に、すっかりエリシアを見失っていた。
「ま、頑張って探すしかないだろ」
「『頑張る』って、もう暗くなってますが。
見つかるでしょうか?」
サリナは少し諦めているようだが、それも仕方ない。
上手いこと時間を稼がれてしまったせいで、かなり距離を取られただろう。
「エリシアは人の目を引くからな。
そこら辺のやつに聞いたら分かるんじゃね?」
暗くなってきた今、あまり期待は出来ないが、他に方法もない。
俺とサリナは近くにいた少年少女に目を付けた。
ざっくりとエリシアの見た目を話すと、少年少女は思い出したように答える。
「さっき綺麗な人があっちに行ったよ。
ねぇ、あーちゃん」
「うん、それとね。
今、ガオーッてあっちから。
ねぇ、いーちゃん」
「「うんうん」」
少年と少女はスラスラと答えてくれた。
「ありがとう。助かったよ」
「「バイバーイ」」
二人仲良く手を振る。
少し離れたあの二人から視線を感じつつ、ユーゴとサリナは先を急いだ。
「あの子達が言ってた、ガオーッて音、なんだと思う?」
「さぁ? 行けば分かるでしょう」
「もし魔獣だったら?」
「あなたを置いて逃げます」
「……即答かよ」
サリナは元暗殺者だが、その技術は人が相手のときしか使えない。
相手が魔獣ならさっさと逃げるのは仕方ないのだが、もし本当に魔獣が相手の場合、俺一人で戦うことになる。
「……なんとかなるか」
暗闇を注意して進むと、案の定、誰かが襲ってくる。
飛び出してきた男がやたらと痛がっていたのは不思議だが、サリナが容赦なく殴ったことで、戦闘はすぐに終わった。
その後、周辺を散策するもエリシアを見つけることは出来なかった。
近くにあった豪邸を怪しいと睨んだが、こんな真夜中に侵入すれば、いよいよ犯罪者だ。
豪邸でサリナと待ち合わせることにして、その日は解散した。
「……あいつ、遅くね?」
早朝、豪邸近くでユーゴは待っていた。
サリナと合流でき次第、許可を取って豪邸に入ろうと思っていた。
おそらく許可は取れないが、その時は仕方ない。
侵入しよう。
その時、豪邸の門が開いた。
中から現れたのはサリナだった。
にこやかな笑みを浮かべ、こちらに手を振ってくる。
「早く来て〜」
いや、誰だよ。
心の中でツッコミを入れつつ、サリナと合流し、豪邸に入った。
どうやらサリナが豪邸に住んでいる有力者に取り入ったらしい。
その有力者が昨日戦った大柄の男だったのは驚いたが、昨日のことはすっかり覚えていないようだ。
そして、俺はサリナの従者という設定らしい。
それっぽく振る舞わないとな。
「従者の方よ。
拙者はベンケイという。
よろしく頼む」
「ユーゴ……です。
よろしく……お願いします」
敬語はなれないな。
基本黙っとくか?
「ユーゴ?
…………聞き覚えのあるような………?」
「気のせい……だと思います」
こいつ、記憶が残ってるのかもな。
豪邸内を調べて、さっさと離れないと。
そうは思いつつも、無料で食事と寝床を提供してもらえるようなので、ありがたい。
「ユーゴ殿、荷物を運ぶのを手伝ってもらえるか?」
「え? ……あっ、はい」
従者だから雑用やらせる気なのか。
まぁ、荷物を運びながら、豪邸内を見て回ろう。
「ユーゴ〜頑張ってね〜」
サリナはあの演技を続けるつもりらしい。
ちょっとウザいけど、サリナは自由に豪邸内を動けるだろうし、好きにやらせておく。
それにしても、エリシアは本当にここにいるのか?
魔獣の可能性も気になる。
そんなことを考えつつ、ユーゴは荷物を運ぶのだった。




