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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
魔界入り
57/82

57. エリシア


 尾行されている。

 ありとあらゆる場所で見られている。

 尾行される理由がさっぱり分からなかったが、一旦宿に入ってからしばらくして、その正体は判明した。


 

「ユーゴ……ですか」



 エリシアは口元に手をあてて考える。

 ユーゴという男には私の魅力が通じなかった。

 もう少し頑張れば取り込めそうではあったものの、そこまでするような男ではない。

 ならば純粋に私を怪しんでの行動でしょうか。

 好きにさせても良いですが、気分が悪いですね。

 それと少し邪魔です。



「あ、あの」



 目の前の小汚い男から声が発せられた。

 尾行している人物を突き止めるよう、この男に頼んだのだ。

 名前もろくに知らなかったが、この男は簡単に承諾して、こうして仕事をしてくれた。



「分かっていますよ。焦らないで」



 優しく語りかけると、男は下卑た笑みを浮かべる。

 不本意ながら、その男をそっと押し倒した。

 次の展開に興奮した男の股間が盛り上がる。

 そして、エリシアは優しく、甘く、魅力的な声で男の耳元に囁いた。



「もう1つ、お願いを聞いてもらえますか?」



 その後、エリシアは男を残して、すぐに部屋を出る。

 男も恍惚の表情を浮かべながら、どこかへ消えていった。



「さて、どうしましょう?」



 エリシアは顎に指を当て、悩ましそうに呟く。

 夫のオルットに何かあったと聞いて来てみれば、オルットの担当する区画の兵士が全滅したと言われたのだ。

 しかし、エリシアは確信していた。


 オルットはまだ生きているはずだと。


 それを確かめるため、最前線に近いこの町にしばらく滞在していた。

 オルットの容姿を説明して、何人もの有力者を尋ねたが成果は得られていない。


 疲れただけで終わってしまった。

 しかし、エリシアにはもう1つ、確信していることがあった。

 それは近くにオルットがいるということ。

 なんとなく分かるのだ。


 問題なのは、オルットを見つける方法。

 普通ならこちらが探さなくても、あちらから来てくれるはずなのに。


 あの人ったら、私を困らせて何がしたいのかしら?

 そんなに抗っても苦しいだけでしょう?

 戻ってくれば、良い気持ちにさせてあげるわ。

 でも、戻ってくるまでは地獄を味わって。

 私を困らせた罰よ。


 エリシアはほくそ笑むと、以前訪れた有力者の屋敷に赴いた。

 魔獣討伐で名を挙げ、この町の有力者になった大男。

 先ほどの小汚い男では不十分かもしれない。

 戦える男をもう1人、ユーゴに当てておきたい。

 そう思ったのだ。



「エリシア殿、どうなされたので?」


「怪しい人物につけ回されているのです。

 助けては貰えないでしょうか?」


「女性を見捨てる訳にはいきません。

 私にお任せを」



 ドンッ、と胸を叩くと、自身に満ちた目でこちらを見てくる。

 正義感の強い頼れる男。

 しかし、そんな男の目も、自然に私の胸を見つめていた。

 やっぱり男は単純。

 でも、真っ直ぐな節穴も嫌いじゃないわ。


 エリシアを屋敷に置いて、鎧に身を包んだ大男は大きな足音を立てながら、ユーゴを探しに行った。


 それを見送ったエリシアは次の行動に移る。

 屋敷の広い敷地の端、あまり使われていない、人がいない場所を探して。

 雑草が薄く生える平坦な敷地はとても広く、そして暗い。

 もう日も沈み、視界は真っ黒に近い。

 しかし、人に見つかりたくないエリシアには都合がよい。


 そう思っていた矢先、後ろから誰かが駆け足で近づいてくる音が聞こえた。



「そこの者、一体何をしてるんだ。

 ここは人様の敷地内だぞ!!」


「その人様に許可を頂いていますよ」



 許可を取ってはいないが、後からでも良いと言ってくれるだろう。

 それよりも、この男を追い払わねば。



「許可を取っている?

 そんな話は聞いていない!!

 作り話だろ!!」


「い、いえ、本当の話です」



 説得するように、自然な流れで男に近づく。

 十分な距離に近づいたが、男の反応は変わらない。



「私はここの警備を担当している。

 主が私に伝えないはずはない。

 怪しい奴め、観念しろ!!」



 ふぅ、と息を吐くと、呼吸を整えた。

 そろりそろりと近づく男は武器を構えながら、すり寄る。


 恐らくは暗いことが原因でしょう。

 日中ならこんな煩わしいことをしなくても良いのに。


 そうエリシアは思いつつ、体内の魔力を開放した。



 精神空間を展開。



 触手のように伸びる魔力空間は男を包み込み、その心までも取り込む。

 異変を感じたらしい男の表情が歪み、一歩退いた。

 エリシアはその分一歩詰める。

 もう一歩。


 男の手から剣が滑り落ち、トロンとした目に変わる。



「大丈夫ですか?」



 優しく声をかけながら、男の精神に快感を与えた。



「アッ!!」



 と、男は叫び、股間を抑える。



「あらあら、欲求不満なんですね」



 密着するほど距離を詰め、男の股間を撫で回す。



「あっ……あぁぁぁ………」


 理性のなくなった男を見て、クスクスと笑いながら囁いた。



「1つだけお願いを聞いて貰えますか?」



 手短に事情を伝え、ユーゴの元に行くように仕向ける。

 しかし、男は想定外のことを言い出した。



「そんな危ない奴がいるなんて。

 あなたを一人にはしておけません。

 私があなたを守ってみせます!!」



 エリシアはニッコリと微笑みながら、心の中で悪態をついた。

 ユーゴの件などただのオマケ。

 本当はただどこかへ行って欲しいのだ。

 しかし、そんなことを知らない男は笑顔で提案してくる。


 はぁ、とため息をつくと、快感を与えるのをやめて、次は激痛を与える。

 男の様子が変わり、ソワソワしだした。



「どうかしましたか?」


「いや、なんでも……ヒッ、イタッッ!!」


「あら、ここですか?」



 男の股間を掴むと乱雑に捻りあげる。

 すると、男は悲鳴を上げて走り去った。

 精神魔法で痛覚以外を遮断し、痛みの感度を最大にした今、男の体は些細な刺激で激痛に見舞われる。

 そんなときに敏感な股間を強く刺激したのだ。

 とんでもない痛みだっただろう。

 知ったことではないが。


 邪魔者を追い払い、意気揚々と暗闇を進む。 

 精神空間の反応がどんどんと強くなっていく。

 ここ数日、オルットの反応が微かにあるものの、近づいては離れを繰り返していた。

 しばらくして、人がいないときほど反応が強くなっていると気付いたものの、ユーゴが常に近くにいたせいで、オルットの反応は消えそうなほど薄いままだった。


 しかし、今までにないほど精神空間の反応が強くなっている。

 邪魔者のユーゴに差し向けた男達は役にたったようだ。


 精神空間に明確な反応があった。

 暗い闇夜でも分かる。

 目の前にいる。



「………ァァァ」


「どうしたの? オルット?」



 優しく自分の(奴隷)に声をかけた。


 エリシアのお気に入りの男、オルット。

 エリシアのそれは、恋愛感情とは違っていた。

 貴族の端くれですらなくなったらエリシアに、愛と他の男達にはない羨望のまなざしをくれた男。

 それがオルットだった。

 取り柄のないオルットの目には、エリシアは自分には不釣り合いな高貴な女性として写っていた。

 そんなオルットの感情は、人の心を敏感に感じ取れるエリシアにとって、非常に気持ちが良かったのだ。


 なし崩し的にオルットと結ばれ、子供が出来た。

 エンリオットと名付けた我が子からも、気持ちの良い尊敬を集めていたエリシアだったが、そんな日々は長くは続かなかった。


 ある日、成長したエンリオットが、母親に侮蔑の感情を向けていた。

 言葉には出さないものの、精神空間で敏感に感じ取ったエリシアはエンリオットを問い詰めた。

 エンリオットは語った。

 エンリオットが精神魔法を使えるようになったことを。

 エリシアの魔法適正はエンリオットに受け継がれ、その才能はエリシアにとって最悪の形で開花した。


 エリシアの精神支配がバレたのだ。

 エンリオットがエリシアに向けていた感情は、エリシアに作られた偽物だとバレてしまった。

 もしかしたら本物の愛があったかもしれない。

 しかし、そんなものは偽物の輝かしい愛には劣る。

 だから、エンリオットはエリシアを蔑んだのだ。

 それを聞いたエリシアは、オルットに話される前に、エンリオットを追い出した。

 エンリオットは抵抗どころか、自ら進んで家を出ていった。


 帰ってきたオルットにエリシアは嘘をついた。

 エンリオットはお金を稼ぐため、家を出ていったのだと。

 エンリオットを探そうとしたオルットに、エリシアは重ねて嘘をついた。

 自分が病気だと。


 オルットを近くにいさせるための出任せだったが、病を信じたオルットはお金を稼ぐため、最前線に行ってしまった。

 しかし、自分の精神魔法を試してみたくなったエリシアはオルットを止めなかった。

 そうして分かったことは、自分の精神魔法の強さだった。

 離れた場所にいるオルットから手紙を通して、強い愛を感じたエリシアは安心していた。


 しかし、手紙が途切れたのだ。

 エリシアは焦った。

 エンリオットを疑ったエリシアは、王都に向ったが、そのときエンリオットの死亡を知る。

 特に何も思わなかった。

 ただ邪魔者が消えたとだけ。


 その後、オルットを探して最前線にまで来た。

 最前線に近づけば近づくほど、オルットの『愛』を感じた。



「オルット、家に帰りましょう?

 私、こんな埃っぽい場所は嫌よ」



 そのとき、月が明るく辺りを照らした。

 眼前にいたのはオルットの一回り、いや二回り大きな『何か』。



「………あなた誰?」



 困惑したエリシアは思わず呟いた。

 精神魔法は確実にオルットだと告げるが、その見た目はあまりにも異なっていた。


 そして、エリシアの声を聞いた、『何か』の雰囲気が変わった。


 先程まで、まるで雨に打たれた子犬のようだった『何か』は、怨みに満ちた『何か』に変わっていた。



「落ち着いて、あなたを傷つけたのなら謝るわ。

 でも、教えて欲しいの。

 あなたは……オルット……なの?」



 他には誰もいない敷地に、怒りに満ちた雄叫びが響いた。


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