51. 別れ
久しぶりの学校は何も変わっていなかった。
いつも通り、同級生が授業に奔走する。
少し前に腹を裂かれた俺のことを気にする人間は、ほとんどいない。
「お、大丈夫そうじゃん‼」
さっき合った同級生もそんな反応だった。
過剰に関心を持たれるのはしんどいから、これでいい。
でも、少しぐらい苦労話の出来る相手が欲しくなるのも事実。
「あいさつがてら話でもするか」
ツラックはそう考えながら、ユニとナルミシアの相部屋を訪ねた。
昼の時間帯とは言え、ここは女子寮。
ノックを数回、入っていいですよ、と中から声が返ってきた。
扉を開ける前から、ゴソゴソと中の音が聞こえている。
何をしているのだろうか?
疑問に思いつつ、扉を開けると。
自分の荷物をまとめるユニと、悲しそうにユニに抱き付くナルミシア。
「何してんの?」
完全復活したぞ。
と、言いに来たのだが、そんなことよりも二人の雰囲気が気になった。
「あっ、ツラック‼ 元気そうで何よりです」
「おう、ユリハって人が治してくれたらしい。
全然記憶ないけど」
「それは良かったです」
「で、何してんの?」
「荷物をまとめてます。
学校を卒業することになったので」
一瞬、静寂が訪れた。
出来るだけ考えてみたが……何を言ってるんだ?
「卒業? 何で? てか、早くない?」
「超特別な飛び級、って扱いらしいです。
私も驚いてます」
そう言うと、ユニは話始めた。
それは二日ほど前のこと。
フーケとの食事を終えて、ナティ先生に声をかけられた。
「大事な話がある。来てくれ」
いつにも増して、真剣そうな顔つきのナティ。
ユニも気を引き締めて、ついていった。
着いた部屋はユーゴの部屋。
当然ユーゴがそこにいて、ナティとユーゴが二人並んで座り、ユニは残った正面の席に座った。
「まずは、おめでとう。
次世代の勇者として、ユニの名は広まることだろう」
「ありがとうございます。
ナティ先生のおかげです。
あと、ユーゴも」
「えっ、オマケ?」
「それで話って何ですか?」
「スルーッ!?」
ガヤガヤとうるさいユーゴは放っておく。
さっ、とナティが手でユーゴを制止すると、ユーゴも真面目に話す気になったようで大人しくなった。
そして、ナティが神妙な面持ちで話し出す。
「ユニは『勇者になりたい』ってことでいいんだな?」
ナティ先生が念押しをしてくる。
力強く言葉を返した。
「もちろんです」
ナティ先生とユーゴは視線を合わせて、頷く。
「勇者を目指すにあたって、学校で学べることはなくなった。
と私は思っている。
ユニに必要なのは実戦経験だと思うが、学校でそれを学ぶのは難しい」
「つまり?」
「つまりはだな…。
学校を卒業してもらおうと思っている」
「卒業‼……ですか。
突然ですね」
「最前線と呼ばれる魔界に近い場所。
そこで腕を磨くのが良いと、私とユーゴで話をしていたんだ。」
「卒業して、そこで戦うと?」
ユーゴの方を見ると、何を言うわけでもなく、こくこくと頷いている。
「それと、もう一つ。
指導者の問題がある」
「指導者?」
「あぁ、私は学校を離れる訳にはいかない。
そして、ユーゴの今の実力では、ユニの相手も難しいだろう。
それぐらいユニは強くなっている」
「そう…なんですか…」
「教わるのはもう終わりだ。
これからは自分で学べ」
「……とは言っても、俺に出来ることならするから、頼ってくれていいぞ」
と、ユーゴが横から胸を張って言う。
「ユーゴに出来ること?」
「最前線について色々教えようと思ってる」
「と言うわけで、『善は急げ』だ。
これから学校に帰ったら、荷物をまとめ始めてくれ」
「本当に…すぐ行くんですね」
「あぁ、ツラックやナルミシアにも話をしておいてくれ。
ゆっくり話すぐらいの時間はあるはずだ」
* * * * *
「そういう訳です」
ユニが語り終えると同時、学校の鐘が鳴った。
長く響く、この鐘の音も、ユニが聞くには最後かもしれない。
「夢…か…」
「えぇ、勇者になります」
「じゃあ、おめでとう。
で、良いのかな?」
「いいんです」
ちらりとユニの横に視線を移すと、泣きながらユニに抱き付くナルミシアがいる。
「ナルミシアは良くなさそうだけど」
「言い訳ないよー‼
ユニちゃんと、離れ離れになっちゃうんだよ‼」
「そんなに泣かないで下さい。
この前、『大人になる』って言ってたじゃないですか」
「それはそれ‼」
「もう…全く」
そのやり取りは、やはりいつも通り。
でも、明日には無くなってしまう光景。
何となく胸が詰まるような感じがした。
何を言えばいいのか。
「あの…」
「?」
「俺、用事あるから行くわ」
「……? いってらっしゃい……」
いつも通り会話を終えた。
変な表情をせず、ちゃんと終えた。
ユニはどこかに行くらしい。
夢を追いかけて。
だったら、俺が引き止めるのはおかしいだろ…。
それだけの話なんだ。
ツラックはその日、夕食を食べるとすぐに寝た。
朝、自分では早くに起きれたと思う。
何気なく、外を散歩してみるが、誰もいない。
女子寮の窓を見上げてみるが、静かに風が通り過ぎるのみ。
「………寝るか」
込み上げてくる虚しさを抑え込み、歩みを進める。
「ん?」
食堂の方から声が聞こえた。
気になって覗いてみると…。
いつも通り朝食を食べるユニと、嬉しそうで、ちょっと寝不足気味なナルミシアがいた。
「あれ、ツラック? 早いですね?」
「ん? まあ、ちょっと眠れなくて。
これから行くのか?」
「あー、それが。
街道が通れないらしくて。
もうしばらく、ここに居ます」
「ふーん………そうなんだ」
くるっと踵を返し、自分の部屋に戻った。
布団を被ると、とたんに眠気が押し寄せる。
さっきまでと違って、心が落ち着いていた。
いつも通り。
ツラックは惰眠を貪った。
ついでに授業もサボった。
その後、普通にナティに説教された。




