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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
51/82

51. 別れ


 久しぶりの学校は何も変わっていなかった。

 いつも通り、同級生が授業に奔走する。

 少し前に腹を裂かれた俺のことを気にする人間は、ほとんどいない。



「お、大丈夫そうじゃん‼」



 さっき合った同級生もそんな反応だった。

 過剰に関心を持たれるのはしんどいから、これでいい。

 でも、少しぐらい苦労話の出来る相手が欲しくなるのも事実。



「あいさつがてら話でもするか」



 ツラックはそう考えながら、ユニとナルミシアの相部屋を訪ねた。

 昼の時間帯とは言え、ここは女子寮。

 ノックを数回、入っていいですよ、と中から声が返ってきた。

 扉を開ける前から、ゴソゴソと中の音が聞こえている。


 何をしているのだろうか?


 疑問に思いつつ、扉を開けると。

 自分の荷物をまとめるユニと、悲しそうにユニに抱き付くナルミシア。



「何してんの?」



 完全復活したぞ。

 と、言いに来たのだが、そんなことよりも二人の雰囲気が気になった。



「あっ、ツラック‼ 元気そうで何よりです」


「おう、ユリハって人が治してくれたらしい。

 全然記憶ないけど」


「それは良かったです」


「で、何してんの?」


「荷物をまとめてます。

 学校を卒業することになったので」



 一瞬、静寂が訪れた。

 出来るだけ考えてみたが……何を言ってるんだ?



「卒業? 何で? てか、早くない?」


「超特別な飛び級、って扱いらしいです。

 私も驚いてます」



 そう言うと、ユニは話始めた。


 それは二日ほど前のこと。

 フーケとの食事を終えて、ナティ先生に声をかけられた。



「大事な話がある。来てくれ」



 いつにも増して、真剣そうな顔つきのナティ。

 ユニも気を引き締めて、ついていった。

 着いた部屋はユーゴの部屋。

 当然ユーゴがそこにいて、ナティとユーゴが二人並んで座り、ユニは残った正面の席に座った。



「まずは、おめでとう。

 次世代の勇者として、ユニの名は広まることだろう」


「ありがとうございます。

 ナティ先生のおかげです。

 あと、ユーゴも」


「えっ、オマケ?」


「それで話って何ですか?」


「スルーッ!?」



 ガヤガヤとうるさいユーゴは放っておく。

 さっ、とナティが手でユーゴを制止すると、ユーゴも真面目に話す気になったようで大人しくなった。

 そして、ナティが神妙な面持ちで話し出す。



「ユニは『勇者になりたい』ってことでいいんだな?」



 ナティ先生が念押しをしてくる。

 力強く言葉を返した。



「もちろんです」



 ナティ先生とユーゴは視線を合わせて、頷く。



「勇者を目指すにあたって、学校で学べることはなくなった。

 と私は思っている。

 ユニに必要なのは実戦経験だと思うが、学校でそれを学ぶのは難しい」


「つまり?」


「つまりはだな…。

 学校を卒業してもらおうと思っている」


「卒業‼……ですか。

 突然ですね」


「最前線と呼ばれる魔界に近い場所。

 そこで腕を磨くのが良いと、私とユーゴで話をしていたんだ。」


「卒業して、そこで戦うと?」



 ユーゴの方を見ると、何を言うわけでもなく、こくこくと頷いている。



「それと、もう一つ。

 指導者の問題がある」


「指導者?」


「あぁ、私は学校を離れる訳にはいかない。

 そして、ユーゴの今の実力では、ユニの相手も難しいだろう。

 それぐらいユニは強くなっている」


「そう…なんですか…」


「教わるのはもう終わりだ。

 これからは自分で学べ」


「……とは言っても、俺に出来ることならするから、頼ってくれていいぞ」



 と、ユーゴが横から胸を張って言う。



「ユーゴに出来ること?」


「最前線について色々教えようと思ってる」


「と言うわけで、『善は急げ』だ。

 これから学校に帰ったら、荷物をまとめ始めてくれ」


「本当に…すぐ行くんですね」


「あぁ、ツラックやナルミシアにも話をしておいてくれ。

 ゆっくり話すぐらいの時間はあるはずだ」



  *  *  *  *  *  



「そういう訳です」



 ユニが語り終えると同時、学校の鐘が鳴った。

 長く響く、この鐘の音も、ユニが聞くには最後かもしれない。



「夢…か…」


「えぇ、勇者になります」


「じゃあ、おめでとう。

 で、良いのかな?」


「いいんです」



 ちらりとユニの横に視線を移すと、泣きながらユニに抱き付くナルミシアがいる。



「ナルミシアは良くなさそうだけど」


「言い訳ないよー‼

 ユニちゃんと、離れ離れになっちゃうんだよ‼」


「そんなに泣かないで下さい。

 この前、『大人になる』って言ってたじゃないですか」


「それはそれ‼」


「もう…全く」



 そのやり取りは、やはりいつも通り。

 でも、明日には無くなってしまう光景。


 何となく胸が詰まるような感じがした。

 何を言えばいいのか。

 


「あの…」


「?」


「俺、用事あるから行くわ」


「……? いってらっしゃい……」



 いつも通り会話を終えた。

 変な表情をせず、ちゃんと終えた。

 


 ユニはどこかに行くらしい。 

 夢を追いかけて。

 だったら、俺が引き止めるのはおかしいだろ…。

 それだけの話なんだ。


 ツラックはその日、夕食を食べるとすぐに寝た。


 朝、自分では早くに起きれたと思う。

 何気なく、外を散歩してみるが、誰もいない。

 女子寮の窓を見上げてみるが、静かに風が通り過ぎるのみ。



「………寝るか」



 込み上げてくる虚しさを抑え込み、歩みを進める。



「ん?」



 食堂の方から声が聞こえた。

 気になって覗いてみると…。


 いつも通り朝食を食べるユニと、嬉しそうで、ちょっと寝不足気味なナルミシアがいた。



「あれ、ツラック? 早いですね?」


「ん? まあ、ちょっと眠れなくて。

 これから行くのか?」


「あー、それが。

 街道が通れないらしくて。

 もうしばらく、ここに居ます」


「ふーん………そうなんだ」



 くるっと踵を返し、自分の部屋に戻った。

 布団を被ると、とたんに眠気が押し寄せる。

 

 さっきまでと違って、心が落ち着いていた。


 いつも通り。


 ツラックは惰眠を貪った。

 ついでに授業もサボった。

 その後、普通にナティに説教された。




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