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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
50/82

50. 理由


 ガバリと体を起こした。

 直感的に寝坊したことを悟り、慌てて飛び起きたものの、ここはどこだろうと疑問符が浮かぶ。

 ふと横を見ると、小さな机の上には見覚えのある箱。

 開けると、一本の剣が収まっていた。


 深海のような透き通る青の刃。


 勝利の暁に貰えると言われた剣が手元にある。

 それが意味することは…。


 そっと箱を閉じると、ユニは部屋を出た。

 

 見覚えのない部屋だったが、出てみるとそこは闘技場の地下だった。

 まずはナティ先生を探そうかと思ったが、先に食事を取ることに。


 時間帯はおそらく昼前。

 昼過ぎに闘技場で戦い始め、今起きたら昼前。

 つまり、丸一日寝ていたことになる。

 当然、お腹はぐうぐうと文句を言っている。

 先に食事、その後、ゆっくりナティ先生を探せば良い。


 そう思い、記憶を頼りに闘技場内の食堂にたどり着いた。

 昼前とあって人気はほとんどない。

 食事を頼もうと思い、辺りを見渡すと、目が合った。

 その人物は昨日自分が負かして、大変そうなことになっていたはずだが、平然とそこにいる。

 他の人との会話を切り上げ、こちらに迫ってきた。



「ユニさん、おはよう」


「フーケさん、おはよう……ございます。

 もう昼ですが」


「今起きたとこかな?」


「そうです」



 改めて近くで見ても、昨日激しい戦闘を行ったとは思えない。

 完全回復しているように見える。



「その…体は大丈夫ですか?」


「うん、心配要らないよ。

 この通り、完全復活。

 ユリハさんのお陰だけどね」


「ヒーラーのユリハさんですか?」


「そうそう。その呼び方したら怒る人。

 問題はあるけど、腕は確かだよ」


「問題?」


「知らないのか!?

 君も治療を受けたはずだから、あの恐ろしい体験をしたのかと」


「昨日意識を失って、さっき目覚めたところです」


「羨ましいなぁ。

 僕なんて、起きたら半分純化してスライムみたいになった体を、あの人が伸ばして遊んでたんだよ。

 それに起きてからは、股間のコレも水に出来るのかって聞かれて弄られたり、大変だったよ」


「弄られたんですか…」


「いや、卑猥な意味ではない…ことも…ないね。

 まあ、立ち話はなんだし、一緒に食事はどうだい?

 実はまだ食べてないんだ」


「良いですね。そうしましょう」



 それぞれに頼んだ食事を受け取ると、二人は手近な席に座った。

 フーケの食事は色とりどりのサラダ、ハチミツを塗ったトースト、魚介類のスープ。

 あと、よく分からない飲み物。



「それなんですか?」



 ユニはよく分からない飲み物を指差して言う。



「これは僕専用の特別な魔力補給水だよ。

 損なわれた魔力を素早く補給することで、疲労感を無くしたり、傷の回復を早める効果がある」


「ポーションみたいな物ですか?」


「そうだね。自分専用のポーションと言えるね」



 そこで会話は途切れ、しばらくは咀嚼音が続いた。

 ほとんど食べ終わったところで、フーケが口を開く。



「そういえば、言ってなかったね。

 ユニさん、優勝おめでとう」


「優勝と言っても、フーケさんとしか戦ってませんけど…。

 それに、あれは私の勝ちでしょうか?

 引き分けのような気もしたのですが」


「僕が先に気絶したから君の勝ちだね。

 そんなに気にしなくていいよ。

 僕も負けたと思ってるし」


「そうですか。

 …何だか、実感が沸きません」



 フーケはニコニコと微笑みながら、ユニを見る。

 何やら上機嫌に見えた。



「僕はね、君に感謝してるんだ」


「感謝?」


「次世代勇者決定大会。

 勝ち続けてたけど、実は勇者になろうとは思ってなかったんだ」


「えっ、そうなんですか!!」


「僕は昔、不治の病を患った孤児だったんだ。

 ある日突然、体から水が出始めてね。

 誰も治すことが出来なかった」


「それって…」


「そう、『純化』だよ。

 純化を上手く操れず、無意識に体を水に変えていたんだ。

 でも、僕にはどうしようもなかった。

 そんな日々が続いたけど、その噂を聞き付けた教会からヒメカ元帥が駆け付けてくれたんだ」


「(あの人ですか…)」


「ヒメカ元帥はすぐに僕が純化していることを見抜いてくれた。

 純化をどうにか出来た訳ではないけど、それがきっかけで王都第二魔法学校に特待生で入れて、純化を操れるようになった」


「そんなことがあったんですね」


「さっき僕と話してた人覚えてる?」


「えぇ」


「あれが僕の先生なんだ。

 僕に純化の操り方を熱心に教えてくれて、その先生に大会出場を勧められたから参加したんだ。

 喜んでくれるのが嬉しくて、頑張って勝った。

 でも、僕は勇者になりたかったわけじゃない。

 お前は勇者になれる、って皆に言われて困ってたんだ」


「そこに私が現れた訳ですか」


「そう。勇者になりたいユニさんが現れた」



 フーケの表情は晴れ晴れとしていた。

 今までなろうと思っていないのに、勇者になることを応援されてよほど悩んでいたのだろう。



「それで、ユニさんに聞きたいことがあるんだ」


「何ですか?」


「ユニさんは、何で勇者になりたいの?」



 なぜ?

 そんなの決まっているでしょ?



「魔王を倒せば多くの人を助けることが出来るからです」


「………多くの人、ねぇ」


「人を助けることは良いことじゃないですか。

 何か言いたいことがあるなら、言ってください」


「……………………。

 いや、いいや。

 ユニさんが僕と同じ考えとは限らないし、やる気に水を差してしまうのは避けたい」


「何ですか? 気になるじゃないですか‼」


「ユニさんは自分について、もっと考えてみても良いかもしれない」


「何ですか? それ」


「じゃ、僕はこの辺りでお先に失礼させてもらうよ」



 そう言うと、フーケは食器を片付けて、そそくさと食堂を出ていった。

 ポツンと残されたユニ。

 疑問符は消えていない。


 しかし、胸の中に微かな不快感が生まれた。



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