47. 次世代勇者決定大会 その②
左肩に走る衝撃。
前方からの謎の攻撃に押され、ユニは後ろに転がった。
「ッ――――――!!」
倒れる瞬間、足を動かし、勢いで体を立たせた。
その間も右手に握られていた剣を構え、次の攻撃に備える。
顔を上げると、無言で構えるフーケ。
次の攻撃は来ない。
「"降参"はしないと言ったはずですが」
強きに挑発しつつ、左肩に力を入れると少し痛みがある。
ユニの戦い方では剣を両手で持つことが多い。
最初から片腕を使えないのでは大きな痛手になるが、幸いなんとかなりそうだ。
貰いたての剣に魔力を通し、肩に治癒魔法をかけた。
痛みはあるものの、問題なく左腕は動く。
その間も、相変わらず攻撃を仕掛けてこないフーケ。
優しさか、降参を待っているのか。
フーケには気遣い無用と伝えているのだから、こちらも気遣いはしない。
無言で戦闘を再開する。
ユニは体勢を低く構え、弓から解き放たれた矢のごとく、駆け出した。
ほぼ同じタイミングで、フーケのレイピアがまたも不自然に光を反射する。
ユニは左足で闘技場の床を強く蹴ると、体を右前に潜り込ませるように避けた。
シュッと空気を裂く音と共に、何かが横を飛んでいく。
右足の蹴りで動きを修正して前へ進む。
距離5メートル。
フーケのレイピアがまた光を反射した。
しかし、今回はその正体が見えた。
レイピアが"水"で薄く覆われていた。
余った雫がレイピアから落ちた瞬間、その"水"がレイピアの突きの動きに合わせて、剣先で鋭く形を変え、射出される。
飛んできた水を、間一髪、ユニは剣の腹で受け流す。
飛び散る水しぶきを振り払い、剣を握る手に力を込めた。
距離2メートル。
剣の間合いに入った。
とたんに、フーケの表情が険しくなる。
近距離は苦手なようですね‼
フーケは後ろに下がりながら、レイピアで床を撫でた。
撫でられた床から大量の水が溢れ出し、ユニの行く手を阻む。
しかし、足を止めることなく、剣に魔法で雷の属性を付与する。
『水』に相性のよい『雷』の属性を付与された剣は、軽く一振りで水の壁を切り裂いた。
水の壁を切り裂くと、驚いた表情のフーケ。
しかし、一瞬で表情が変わり、突きの構えを取っていた。
水の壁を切り裂いたばかりで無防備なユニに、水の弾丸が迫る。
振り払った剣を力業で構え直し、無理な体勢で水の弾丸を弾く。
体勢を立て直す頃には、フーケは再び距離を取って遠くにいた。
「君のその剣、何か細工がしてあるのかな?」
突然の質問を不思議に思いつつ、
「細工? この剣は、海の魔獣の鱗から作った物ですが」
「……そういうことか」
「どうゆうことですか?」
「君も教えてくれたことだし、僕も教えて上げよう。
実は僕の水はただの水じゃない。
雷を付与した程度で切り裂けるはずはない。
だから、驚いた」
「でも、あっさり切れましたよ」
「そうだね。
おそらく海の魔獣から作った剣だから、だろうね。
水の属性に有効な武器を、そうやって作れるなんて初めて知ったよ」
「何だか仕組まれたようですね」
「ダグラさんがやりそうなことだよ。
ある程度勝ち目がないと見せ物にならないからね」
「剣がなかったら勝ち目がないと?」
「まあね。その勝ち気な性格。
……君は自身の限界を知らないのかな?」
フーケは見透かしたように微笑む。
「………………さぁ?」
「少しやる気が出てきたよ。
君を負かしたいって気持ちが」
のんびりと会話をしていたせいで、気が付かなかった。
フーケの足元から、薄く水が広がってきていることに。
「やる気になってくれていたようですね」
「この勝ち方はズルい気がして嫌だけど、やらせてもらうよ」
薄く広がっていた水から、突如、激しく水が吹き出し始めた。
押し寄せる波を避けるために、下がり続けたユニの背に結界がぶつかる。
「水の勢いが止まらない? まさか‼」
押し寄せる波をジャンプして避けると、水は結界にぶつかり、周囲に広がっていく。
着地したときには、もう、膝の辺りまで水かさが増していた。
後ろを振り返って、"ある事"を確かめる。
普通ならば何処かに漏れでてしまう水は、円柱の結界に阻まれ、闘技場に溜まり続けていた。
結界内を水で満たし、相手を戦闘不能にする訳ですか。
でも、この大きな結界内を水で満たすほどの魔力が、本当にあるんですか?
かなりの魔力を使うはずですが…。
ユニの疑問を掻き消すように、水面下で水がうねった。
来るッッ‼
飛び退くと、数秒前までユニのいたところに、水中から水の柱が飛び出した。
なるほど。
足元に満たされた水は全て攻撃に使える、ということですか。
この場に留まっている訳にはいきませんね。
そう思い、駆け出そうとするが、足が動かない。
足が重いッッ‼
水かさは更に量を増し、太ももの上まで水が迫っていた。
ユニの戦い方は機動力に頼った近接戦。
一方、フーケは周囲を水で満たし、相手の機動力を削ぎながら、自分は一方的に攻撃する遠距離戦。
相性が悪い‼
このままでは、一方的に攻撃されている間に魔力を使いきってしまう。
アレをやるしかないですね。
ユニは剣を後ろに、フーケから見えない位置に構えた。
観客席でその"光る剣"を見たユーゴが騒ぐ中、ユニは剣に溜めた魔力を放出した。
<亜空切断>
フーケに魔力で剣が光るところを見られないようにして、不意打ちの遠距離攻撃を横凪ぎに放つ。
近距離攻撃のみと油断していたのか、攻撃は棒立ちのフーケに直撃。
フーケの体を上下に断絶させた。
* * * * *
その頃、観客席で
「ちょっと待てッッ‼ まだ教えてないぞッッッ‼」
と、ユーゴが発狂していた。
<亜空切断>のことだ。
「私が教えておいた」
何気なく呟くナティ。
真横から伝えられた衝撃の真実に、ユーゴは口をパクパクさせた。
「……いや……俺の…十八番を…」
「安全に気を付ければ、修得は難しくないからな」
「そんなあっさり?」
「一日で大体修得出来ていたな」
「そんなぁ」
横の騒がしい男を無視して、ナティは結界内を見ていた。
「ユーゴ、アレを見ろ」
「ん? もう、終わっただろ?」
二人が見つめる先。
フーケの上下に分かれた体の切断面から水が溢れると、数秒後には元通りに体は繋がっていた。
「……そうゆうことか」
横で全てを理解したらしいユーゴに、最初から調べて知っていたナティは尋ねた。
「ユニは勝てると思うか?」
「……分からない。
不利なことは確かだ。
相手を理解して、そこから……だな」
ユニの困惑した表情を、二人は心配そうに見つめた。




