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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
47/82

47. 次世代勇者決定大会 その②


 左肩に走る衝撃。

 前方からの謎の攻撃に押され、ユニは後ろに転がった。



「ッ――――――!!」



 倒れる瞬間、足を動かし、勢いで体を立たせた。

 その間も右手に握られていた剣を構え、次の攻撃に備える。


 顔を上げると、無言で構えるフーケ。

 次の攻撃は来ない。



「"降参"はしないと言ったはずですが」



 強きに挑発しつつ、左肩に力を入れると少し痛みがある。

 ユニの戦い方では剣を両手で持つことが多い。

 最初から片腕を使えないのでは大きな痛手になるが、幸いなんとかなりそうだ。


 貰いたての剣に魔力を通し、肩に治癒魔法をかけた。

 痛みはあるものの、問題なく左腕は動く。


 その間も、相変わらず攻撃を仕掛けてこないフーケ。

 優しさか、降参を待っているのか。

 フーケには気遣い無用と伝えているのだから、こちらも気遣いはしない。


 無言で戦闘を再開する。

  

 ユニは体勢を低く構え、弓から解き放たれた矢のごとく、駆け出した。


 ほぼ同じタイミングで、フーケのレイピアがまたも不自然に光を反射する。


 ユニは左足で闘技場の床を強く蹴ると、体を右前に潜り込ませるように避けた。

 シュッと空気を裂く音と共に、何かが横を飛んでいく。

 右足の蹴りで動きを修正して前へ進む。



 距離5メートル。



 フーケのレイピアがまた光を反射した。

 しかし、今回はその正体が見えた。

 

 レイピアが"水"で薄く覆われていた。

 余った雫がレイピアから落ちた瞬間、その"水"がレイピアの突きの動きに合わせて、剣先で鋭く形を変え、射出される。

 

 飛んできた水を、間一髪、ユニは剣の腹で受け流す。

 飛び散る水しぶきを振り払い、剣を握る手に力を込めた。



 距離2メートル。



 剣の間合いに入った。

 とたんに、フーケの表情が険しくなる。



 近距離は苦手なようですね‼



 フーケは後ろに下がりながら、レイピアで床を撫でた。

 撫でられた床から大量の水が溢れ出し、ユニの行く手を阻む。


 しかし、足を止めることなく、剣に魔法で雷の属性を付与する。

 『水』に相性のよい『雷』の属性を付与された剣は、軽く一振りで水の壁を切り裂いた。


 水の壁を切り裂くと、驚いた表情のフーケ。

 しかし、一瞬で表情が変わり、突きの構えを取っていた。


 水の壁を切り裂いたばかりで無防備なユニに、水の弾丸が迫る。


 振り払った剣を力業で構え直し、無理な体勢で水の弾丸を弾く。

 体勢を立て直す頃には、フーケは再び距離を取って遠くにいた。



「君のその剣、何か細工がしてあるのかな?」



 突然の質問を不思議に思いつつ、



「細工? この剣は、海の魔獣の鱗から作った物ですが」


「……そういうことか」


「どうゆうことですか?」


「君も教えてくれたことだし、僕も教えて上げよう。

 実は僕の水はただの水じゃない。

 雷を付与した程度で切り裂けるはずはない。

 だから、驚いた」


「でも、あっさり切れましたよ」


「そうだね。

 おそらく海の魔獣から作った剣だから、だろうね。

 水の属性に有効な武器を、そうやって作れるなんて初めて知ったよ」


「何だか仕組まれたようですね」


「ダグラさんがやりそうなことだよ。

 ある程度勝ち目がないと見せ物にならないからね」


「剣がなかったら勝ち目がないと?」


「まあね。その勝ち気な性格。

 ……君は自身の限界を知らないのかな?」



 フーケは見透かしたように微笑む。



「………………さぁ?」


「少しやる気が出てきたよ。

 君を負かしたいって気持ちが」



 のんびりと会話をしていたせいで、気が付かなかった。

 フーケの足元から、薄く水が広がってきていることに。



「やる気になってくれていたようですね」


「この勝ち方はズルい気がして嫌だけど、やらせてもらうよ」



 薄く広がっていた水から、突如、激しく水が吹き出し始めた。

 押し寄せる波を避けるために、下がり続けたユニの背に結界がぶつかる。



「水の勢いが止まらない? まさか‼」



 押し寄せる波をジャンプして避けると、水は結界にぶつかり、周囲に広がっていく。 


 着地したときには、もう、膝の辺りまで水かさが増していた。


 後ろを振り返って、"ある事"を確かめる。

 普通ならば何処かに漏れでてしまう水は、円柱の結界に阻まれ、闘技場に溜まり続けていた。



 結界内を水で満たし、相手を戦闘不能にする訳ですか。

 でも、この大きな結界内を水で満たすほどの魔力が、本当にあるんですか?

 かなりの魔力を使うはずですが…。



 ユニの疑問を掻き消すように、水面下で水がうねった。



 来るッッ‼



 飛び退くと、数秒前までユニのいたところに、水中から水の柱が飛び出した。


 なるほど。

 足元に満たされた水は全て攻撃に使える、ということですか。

 この場に留まっている訳にはいきませんね。


 そう思い、駆け出そうとするが、足が動かない。



 足が重いッッ‼



 水かさは更に量を増し、太ももの上まで水が迫っていた。



 ユニの戦い方は機動力に頼った近接戦。

 一方、フーケは周囲を水で満たし、相手の機動力を削ぎながら、自分は一方的に攻撃する遠距離戦。


 相性が悪い‼

 このままでは、一方的に攻撃されている間に魔力を使いきってしまう。



 アレをやるしかないですね。



 ユニは剣を後ろに、フーケから見えない位置に構えた。


 観客席でその"光る剣"を見たユーゴが騒ぐ中、ユニは剣に溜めた魔力を放出した。



    <亜空切断>



 フーケに魔力で剣が光るところを見られないようにして、不意打ちの遠距離攻撃を横凪ぎに放つ。


 近距離攻撃のみと油断していたのか、攻撃は棒立ちのフーケに直撃。

 フーケの体を上下に断絶させた。



  *  *  *  *  *  



 その頃、観客席で



「ちょっと待てッッ‼ まだ教えてないぞッッッ‼」



 と、ユーゴが発狂していた。

 <亜空切断>のことだ。



「私が教えておいた」



 何気なく呟くナティ。

 真横から伝えられた衝撃の真実に、ユーゴは口をパクパクさせた。



「……いや……俺の…十八番を…」


「安全に気を付ければ、修得は難しくないからな」


「そんなあっさり?」


「一日で大体修得出来ていたな」


「そんなぁ」



 横の騒がしい男を無視して、ナティは結界内を見ていた。 



「ユーゴ、アレを見ろ」


「ん? もう、終わっただろ?」



 二人が見つめる先。

 フーケの上下に分かれた体の切断面から水が溢れると、数秒後には元通りに体は繋がっていた。



「……そうゆうことか」



 横で全てを理解したらしいユーゴに、最初から調べて知っていたナティは尋ねた。



「ユニは勝てると思うか?」


「……分からない。

 不利なことは確かだ。

 相手を理解して、そこから……だな」



 ユニの困惑した表情を、二人は心配そうに見つめた。



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