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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
46/82

46. 次世代勇者決定大会 その①


 次世代勇者決定大会を主催する町イスタは、ダグラ=イスタの家系が支配する土地だ。


 税金は安く、庶民が商売をしやすい。

 そうして発展してきた町の中央には、大会を開催するために建てられた闘技場がある。


 タグラ=イスタが大金を投じて建設した闘技場は、古臭い外観をしている。

 しかし、表からは見えない骨組みに最新の建築技術や魔法が使われている。 

 それによって、闘技場内で起こるありとあらゆる戦闘に耐えうる丈夫さを建物が持っているのだ。

 

 その闘技場の中心、大きな円形の台の上でユニは大きく深呼吸をした。


 まだ時間があるため、人の入りは少ない。

 結界を作る魔法使いや飲食物の準備をする商売人が忙しなく動いているだけ。


 しかし、大きく荘厳な闘技場でこれから戦うことを考えると、それだけで気が引き締まる。

 


「今からそんなに緊張していたら、もたないぞ」



 振り替えると、ナティとユーゴ。

 そして白衣に身を包んだ知らない女性がいた。



「そちらの人は…」


「あっ、私? 誰か気になる?」


「えぇ」



 苦手な人かも、と心の中で思いつつ、ユニは頷いた。



「そうだよねぇ。

 年頃の女の子なら、大好きなユーゴが他の女に取られないか心配だよね」


「部外者の方ですか?」


「あら、冷たい子。

 もうちょっと可愛らしい反応してくれてもいいのに。

 でも、私はそんな子でも分け隔てなく、面倒を見てあげるから心配しないで」



 ユニはだんだんと嫌そうな顔になりながら、問い直した。



「で、誰なんですか?」


「自己紹介が遅れたね。

 私はユリハ、天才医術師よ。

 あなたが大怪我をしても、私がいるから安心して戦えるってわけ」



 ユニは無言でナティの方を向いた。

 本当ですか?と。

 むしろ違ってほしい、と言いたげな表情で見つめるユニ。



「おやおや何処を見てるのかな?」



 と、割り込もうとするユリハをナティが右腕で制止して答えた。



「ユリハが腕の良いヒーラーと言うのは本当だ。

 ツラックを治したのはユリハだからな。」


「ちょっとー、ヒーラーじゃなくて、天才医じゅちゅ……さっきなんて言ったっけ?

 待って、思い出すから」


「ヒーラーのユリハさん、よろしくお願いします」


「あー、この子、意地悪だー。

 まあ、いいや。挨拶は済んだし、私はこれくらいで」



 後ろ手に手を振り、ユリハは忙しそうに去っていった。



「さてと、ユニ。

 この大会の主催者ダグラ=イスタから特別な武器を預かっている」


「特別な武器?」


「そこに置いてある箱だ」



 ポツンと置かれた箱に付いている大きな南京錠を、ナティが懐から出した鍵で開けた。



「綺麗な剣ですね」


「あぁ、それもただの剣ではない。

 以前、海王祭で魔獣を狩っただろ?」


「山のように大きな魚でしたね」


「その魔獣の堅い鱗から作られた魔道具の剣だ」



 手に取って軽く振ってみると、思いのほか手に馴染む。

 刀身は深海を思わせるような、暗く透き通った蒼。

 装飾はほとんどなく、戦闘のために作られたことは間違いない。



「それで、"魔道具"と言うのは?」


「膨大な魔力を持つ、海の魔獣の鱗から作った武器だからな。

 単純に魔法を使うときでも、その剣を媒介にすることで、少量の魔力で、より強い魔法を使えるようになる」


「便利ですね」



 試しに、身体能力向上(ブースト)を全身にかけてみるが、普段よりも楽に維持できる。

 少量の魔力を剣に通すだけで、倍増した自分の魔力が勢いよく剣から溢れ出てきた。



「この剣、凄いです‼」


「この大会で勝てたら、貰えるそうだ」


「いいんですか!?」


「『ダグラ商会をご贔屓に』とのことだ。

 それよりも、残りの時間で剣を馴染ませるぞ」


「馴染ませる?」


「魔道具に自分の魔力を通しておくと、だんだん魔力の通りが速くなる。

 練習も兼ねて、少し手合わせといこう」


「本当に"少し"ですよね」



  *  *  *  *  *



 太陽が頭上に昇り、闘技場内を明るく照らす時間になると、中は観客の熱気で溢れていた。

 久しぶりにダグラ=イスタが賭けを開催したことで、『一発当ててやる』と金のある商人や暇な大衆が押し寄せていた。



『この闘い、ついにフーケが敗れるに違いない‼ 

 少女に賭けた‼』


『馬鹿か? お前は。

 どうせフーケが勝つに決まってるだろ』



 と、賭け事の話で盛り上がる観客の前に、二人の対戦者が姿を表した。



『ありゃ、あの子が挑戦者か。これは賭け直すか?』


『フーケーッ、今日もお前に賭けたぞー』



 と、野次が飛び交う。 



 大観衆に圧倒されていないか、とナティは心配して横を見るが、ユニは集中しているようで、視線は真っ直ぐ対戦者を見つめていた。



「ユニ、あれが対戦相手のフーケだ。

 連戦連勝、大会が始まって以来の天才と言われているな」



 ナティは色々と助言をしたくなるが、公平性のために敢えて口をつぐむ。


 調べようと思えば簡単だ。

 そこら辺の人に聞くだけで、フーケの使う魔法は殆ど分かるだろう。

 もしかしたら、その情報があるだけで戦況は大きく変わるかも知れない。

 勝たせたいなら、今、伝えるだけで良いだろう。


 しかし、それではダメだ。


 未知の魔王と戦うためにここまで来たなら、手心は無用だろう。


 それでも…、少しだけなら…構わないか…。



「ユニ、どう戦うつもりだ?」


「ナティ先生、色々と言いたいのは分かります。

 でも、自分で何とかしないとダメだと思うんです」


「…分かった。

 …………やっぱり少しだけいいか?」


「…もう、少しだけですよ」


「まずは、相手の型を見極めろ。

 武器のおかげで魔法を多く使えるようになったが、それは相手も同じだ。魔力の無駄遣いは控えるように。

 しかし、勿体ぶるのは無しだ。

 使うべきだと思ったら、思いっきり魔法を使え」


「はい。それじゃ、行きますね」


「…あぁ、いってらっしゃい」



 ナティの応援を背中で感じつつ、ユニは闘技場中央にある円形の大きな台に上る。

 対戦相手も台に上ると、台に仕込まれた魔法が発動を始めた。


 虹色の光が、台の周囲を何重にも渦巻く。

 光が落ち着くと、円柱型の多重結界の中にいた。

 喧騒が遠くなり、相手の青年と視線が交錯する。


 装飾の施されたレイピアを腰に下げ、白と青の衣服に身を包む、真面目そうで年上に見える青年。



「僕の名前はフーケと言う。よろしく」


「ユニです。よろしくお願いします」



 戦闘開始の合図を待つユニに、フーケは続けて言った。



「お願いがある」


「何ですか?」


「無理だと思ったら、早めに"降参"してほしい。

 人を傷つけるのは好きじゃない」


「そうですか。

 申し訳ありませんが、降参するつもりはありません」


「……………そうか」



 二人の間に広がる沈黙に、開始の合図、銅鑼の低い音が響いた。


 ユニは勢いよく剣を引き抜き構える。

 一方、フーケは大切そうにレイピアを構えた。



「行くよ」



 フーケが小さな声で呟いた。

 いつの間にか静まり、吹き抜ける風の音すら聞こえる闘技場内。 


 鋭い目付きでフーケを注視するユニ。


 フーケのレイピアが不自然にぬらりと光を反射した瞬間。

 聞こえたのはシュッと空気を切り裂く音。

 同時、直観で回避しようとしたユニの左肩に、鋭い衝撃が走った。

 

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