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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
45/82

45. 参加登録


 「リーナが呑気に昼寝をしている間、何処に行っていたんだ?」



 食堂へ朝食を食べに来たユニに、ナティ先生が心配そうに聞いた。

 目線を落とすと、ナティ先生の朝食の皿には食事が残っている。

 いつもなら、すぐに平らげて仕事に向かうのに。



「ナルミシアの実家の近くで、畑仕事を手伝っただけです。

 心配しなくても大丈夫ですよ。

 ナルミシアも吹っ切れた感じです。

 過剰に心配する必要はありません」


「そ、そうか。

 それなら良かった…」



 まだ気になっている様子だったが、スープと一緒に心配も飲み込んだらしく、いつものナティ先生に戻っていた。



「ところで、ユニは"次世代勇者決定大会"を知っているか?」


「なんですか? その安直な名前は」


「そう言ってやるな。

 分かりやすい名前の方が集客しやすいとかで決められた名前だ」


「分かりやすい名前ってことは、勇者を決める大会ってことですか…。

 勇者って、大会で決めるんですか?」


「いや、全く違う。

 この大会は次に勇者になりそうな若手を集めて戦わせ、一番強い人物を決めようというものだ」



 この瞬間ユニには次の展開が読めていた。


 その大会で勝ち残って賞金を取ってほしい、ってところですね。

 学校の経営が厳しいみたいですし、仕方ありません。



「その大会に参加すればいいんですね」


「まあ、そうだが……嫌なら断ってくれて構わないからな?」


「参加しますよ。ナティ先生がそうしてほしいなら」



 何気なく呟いた言葉は、思いのほかナティ先生の心に引っ掛かったようで、ナティ先生は顔を曇らせた。



「この大会、少しわけありでな」


「わけあり?」


「実は、大会自体はもう終わっているんだ」



 ユニはスープを吹き出しそうになるのをこらえて、続きを促した。



「ユニが参加する必要はないだろうと思ってな。

 勝っても本物の勇者になれる訳ではないからな」


「それで、終わった大会に参加してほしいというのは、どうゆうことですか?」



 話の続きをするか悩ましそうにしているナティ先生だったが、ようやく話す気になったらしく、覚悟を決めた表情になった。



「次世代勇者決定大会の今年の優勝者なんだが、初出場から四年連続で優勝しているらしい。

 賞金がそれなりにあるから、優秀な若手が毎年揃うにも関わらずだ」


「強いんですね、その人」


「あぁ、そうらしい。

 その結果、大会で行われる賭け事が盛り上がらなくてな。

 主催者の儲けがかなり少なかったようだ」


「その人に賭けるだけで当たれば、全員がそちらに賭けるに決まってます。

 当然の結果ですね」


「そこでだ。

 あまりにも強いその人物を倒せる人材を探す為に……実際は更なる集金のためだが、大会がもう一度開催される」


「成る程。私は挑戦者ってことですね」


「そうだ。それと、この大会はかなり危険だ。

 場合によっては大怪我をするかもしれない」



 ナティ先生が話たがらない理由はこれですか。

 怪我をさせたくない気持ちは分かりますが、勇者になるって言ってるのに、怪我から逃げてはいられません。



「後、もう1つ」


「ん? まだあるんですか?」


「この大会は本物の勇者を決める訳ではない。

 とは言え、優勝者が勇者に一番近いと思われることは間違いない」


「勇者を目指すなら勝たないと話にならない、ってことですね」


「あぁ、そうだ。

 私は、この大会を通してユニに次世代の勇者候補を知ってもらいたい。

 いずれは魔王討伐で仲間になる可能性もあるからな」



 パンの最後の一欠片を飲み込むと、ユニの瞳に力が入った。



「何だか興味が沸いてきました」



******************



「という訳で、王都第一魔法学校からユニが参加したいのですが…」



 学校から少し離れたところにあるダグラ=イスタの邸宅。

 周辺の家々よりも一際大きく、あちらこちらに散りばめられた華やかな装飾が、どこか威圧的に輝いている。

 主人の自己顕示欲がにじみ出るその邸宅に、ナティはやって来ていた。

 参加登録をする際に窓口で、『邸宅に行ってほしい』と言われたため、断ることもできずに来たのだ。

 何やら根回しがされているのは感じつつ、無視する訳にはいかない。



「おぉ、それは素晴らしい。

 すぐに書類を持ってこさせましょう。

 それまでの間、武具をご覧になりませんか?」


 

 内心すぐに帰ろうとしていたナティだったが、言外に引き止められた。

 貴族相手の会話はいつも嫌な汗が出る。

 安易な対応をすれば、後々どんなことに巻き込まれるか分かったものではないからだ。



「武具? 私の分は間に合っていますが…」



 ナティの異名『黄金の守護者』を眼前の男ダグラ=イスタが知らないはずはない。

 この異名は黄金に輝くナティの装備一式から付けられたもの。

 最高級の装備を持っているナティに武具を売り込む者はいない。



「ナティ様の物ではなく、ユニ様の物です」


「ユニの武具?」



 きらきらと目を輝かせ、新人の営業のように快活な印象を与えるダグラ=イスタ。

 中年のその男から溢れでる若々しさ、もとい禍々しさに、ナティは顔がひきつりそうになるのを抑え、出来るだけ笑顔で対応していた。

 数週間前に貴族の招集で見せた顔とはあまりにも違う。

 ナティがその場にいたことは分かっている癖に、ダグラ=イスタは猫の皮を被り続けていた。



「はい、こちらで調べましたところ、ユニ様は特別な武具を購入されたことがないようですが…」


「まだ必要ないと思っていたので…」



 何故知っている?と言いたくなるのを我慢して話を続けるナティ。



「前回優勝者の方には、私の経営するダグラ商会から魔道具を購入して頂いております。

 そのため、装備を揃えていないユニ様には少々不利になってしまうかもしれません。

 何と言っても挑戦する相手は前回優勝者ですから、できるだけ装備を整えて貰った方がよろしいかと」


「いや、しかし…」


「分かっております。お金の心配は必要ありません」



 まだ何も言っていないぞ。

 


「と言うと?」


「今回は特別にお貸しいたしましょう。

 もし優勝されたなら、賞金に加えて、その武具もお渡しします」


「それは…あまりにも、こちら側に利がありすぎるのでは?」



 そうだ。怪しすぎる。

 貴族に恩など作りたくはないぞ。


 警戒するナティに笑顔で対応するダグラ=イスタ。



「お気になさらず。

 私の主催する大会に出ていただけるだけで、大変ありがたく思っております。

 それに比べればこの程度、大したことではありません」


「そうですか…。

 それなら、少しだけ甘えさしてもらいましょうか」


「はい、それでは、こちらはどうでしょう」



 側にいたメイドが重たそうな箱を机の上に置いた。


 書類はいつまで経っても出てこないのに、商品はすぐ出てくるな、とナティは思いつつ、その箱の中を見た。



「こちらの武器は最近手に入った特別な素材を加工したものでして」


「ッッッッ!! これは…」



 視線を落とすと、そこには様々な技術を用いて作られたと思われる立派な剣。

 素材はおそらく……。

 そして、ユニでも扱いやすい大きさ。

 まるでその為に作られたような…。



「……なかなか良いですね」


「では、取り合えず、こちらの商品をお貸しします。

 これからは是非ともダグラ商会をご贔屓に」

 


 にっこりと微笑みダグラ=イスタが言い終わると同時、ついに、メイドが大会参加の書類を持って来たのだった。



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