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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
41/82

41. 決着


 戦闘中になんて事をしていたんだろう…。

 ナルミシアを凝視していた。

 目を反らせば、嫌な物が見えてしまう気がして。

 辛い現実を見ないためにボーッと見ていた。


 緩んだ意識は間延びした現実を見せてくる。

 ゆっくりと動く世界に、突如、音が響いた。


 顔のすぐ横、耳のそばで響く甲高い金属音。

 反射的にそちらを見るとツラックがいた。



「ツラック!? 何でここに!?」



 ユニには突如としてツラックが現れたように見えた。

 エンリオットの精神魔法に犯された頭は正常な判断を下させない。

 しかし、命を狙われていて危なかったこと、ツラックが助けてくれたことは理解出来た。



「助けが必要だろ?」



 余裕がないくせに、余裕ぶった態度を取るツラック。

 そんなツラックに任せてしまいたいと魔が差す。

 何故だろう。これでは良くないと知っているはずなのに甘えたくなる。

 どうしても逃れることの出来ない誘惑。



「ダメだッ‼ ユニが精神魔法とか言うのにやられてる‼」



 ツラックの放つ言葉を理解すら出来ずに聞き流す。

 加勢しようと、ナルミシアがそこら辺に落ちていた棒を拾って必死に振り回していた。

 しかし、エンリオットの剣であっさりとやられてしまう。

 棒は何処かに飛んでいき、依頼主の娘という理由で情けをかけられ放置。

 ツラックも必死に応戦するが、実力の差は明白だった。



「ユニッ‼ しっかりしろッ‼」


「ツラック?」


「おいッ‼ 寝ぼけてる場合かッ‼」



 ツラックが何か言ってるけど、よく分からない。

 まるで叩き起こされた後に、寝ぼけたままほったらかしにされたみたいな。

 思考が一切出来ない。

 それに、視界がぐわんぐわん揺れる。

 今すぐにでも横になって休みたかった。



「ユニッ‼」

「ユニちゃんッ‼」



 ボーッと視線を送る先でツラックの体が傾いた。

 エンリオットの剣さばきに付いていけず、素早い返しの剣がツラックを引き裂く。

 剣が手からこぼれ落ち、床にうずくまったツラックの体からは血が溢れ出ていた。



「……ツラック?」



 エンリオットの精神魔法が邪魔をして、現実を直視出来ない。

 ツラックが何故か倒れている。

 そして、どこからか血が流れてくる。


 脈絡はなく、理解もない。

 

 しかし、生理的な恐怖心が沸き上がってくる。

 尻餅をついて後ろに下がるユニをエンリオットが振り返って見た。


 暗い部屋で、倒れた人がいて、血だまりがあって、振り返った人物が血の滴る剣を持つ。


 見たことのある景色だった。

 幼かったあの時と同じように自分には何も分からない。


 感情が何処かで溢れていた。

 気が付けば、手放した剣を拾い上げ、強く握っていた。

 ゆったりと歩いてくるエンリオットに震える手で剣先を向ける。



「安心してくれ。

 言っただろ? 

 君を傷付けるつもりはない」



 ……安心……傷付けるつもりはない……。

 頭の中でエンリオットの優しい言葉が駆け巡る。

 抗えない力に意思決定が下されようとした時、



―――――ッ―――――――ユニちゃんッ‼―――――――――――――



 突然流れ込んで来た力が、ユニの中で邪魔する何かを追いやった。

 心が一気に晴れ渡り、目が覚める。

 そこは朝ではなく薄暗く、ツラックが切られていて、エンリオットが剣を振り下ろしている。

 ここはそんな場所だった。


 尖った意識が即座にその現実に反応した。

 振り下ろされた剣を剣先で上手く弾き、驚愕の表情を浮かべるエンリオットの腹部に一撃。


 剣はエンリオットの鎧に弾かれた。

 虚しく金属音が響く。

 反射的に斬れる箇所を切ったが、頭以外に全身鎧を着ているエンリオットに傷を負わせることは出来なかった。

 最大のチャンスを逃した。


 こんな機会はもう無い。

 エンリオットの警戒心は初めに戻り、状況は悪化していく。

 嫌な未来が想像出来てしまう。

 これも精神魔法の影響だろうか?



「やはり君は良い‼

 あそこまでいった精神魔法を抑えて、まだ立っていられるなんて‼」



 ん? そう言えば、精神魔法は?

 ボーッとしている間に無くなっていた。

 エンリオットは気付いていないようだ。



―――ッ―――――――ユニちゃんッ‼ 気付いたんだね‼ ―――――――――



 頭の中でナルミシアの嬉しそうな声が聞こえる。

 思わず顔が緩みそうになるのを我慢した。



――――ツラックが切られたの‼ どうにかしないと、ツラックが死んぢゃう―――――――――


 どうにかしようにも、エンリオットがいる状況だとどうにもなりません。


――――じゃ、じゃあ、どうすれば――――


 倒します。

 エンリオットをなるべく早く倒して、ツラックを病院に連れていくしかないです。


――――倒すってどうやって……―――――


 何とかします。

 なので、隙があればツラックを連れて逃げて下さい。


 (注意を引き付けるぐらいなら何とかなるでしょう。

 ナルミシアとツラックを救うことが優先。

 何かを諦めることも重要ですよね…。)



――――ダメだよ……それじゃ、ユニちゃんが―――


 ……私を殺す気は無いそうですよ。


――――信用出来ないよ‼ ユニちゃんを置いていくのはダメ‼―――


 でも、他に選択肢はないです。

 駄々をこねるのは終わりにしてください。


――――あるよッ‼ 選択肢ならある‼ 私も戦う‼―――――


 さっきやられてましたよね?


――――私も戦うから‼ ユニちゃんは絶対置いていかない‼――――


 分かりました。

 ではこうしましょう。

 二人で戦ってダメそうなら、ツラックを連れて逃げて下さい。


――――でも――――――


 もう時間はないです。

 この作戦で行きます。


 ナルミシアの想念伝達(テレパシー)がプッと切れる。



 これでいいんです。

 恐らく私ではこのエンリオットという人に勝てません。

 何とかして二人に逃げてもらうしかないです。

 そのためなら私はどうなろうと構いません。



 様子を伺うようにゆっくりと摺り足で近づくエンリオット。

 恐る恐る剣を動かした瞬間に合わせて、ユニは突進するかのように走り出した。



「君はまさか‼ 精神魔法が効いていないのかッ‼」



 瞬時に理解して迎え撃つ構えのエンリオットに、神速の一撃を与える。


 エンリオットの表情が歪み、歯を食い縛って痛みに耐えているようだ。

 鎧が凹み、腹部の鎧が変形していた。

 強烈な剣撃は鎧の下の胴体、更には内蔵にまで強い衝撃を与えた。



「一体なんだ‼ 今のは‼」


「気付かなかったんですか? 思いっきり鎧を斬ったんですよ」


「そんなことは分かっているッ‼

 今の速さ、それは加護の力かッ‼

 俺との今までの戦いは遊びだったのかッ‼」


「さぁ? どうしたんですか?

 一人称が私から俺に変わってますよ?」


「うるさいッ‼」



 動揺するエンリオットに向かってもう一度駆け出した。

 床を蹴ると同時、体全体が前に動く。

 空気が体に巻き付くように、しかし、邪魔をするどころか、むしろ風に背中を押されて前へと進む。


 驚いて反撃できないエンリオット。

 鎧で覆われていない頭を狙うが、ギリギリ剣で防がれてしまう。

 やはり頭だけ鎧で覆っていないのはわざとだ。

 狙わせることで防御・反撃を容易にする。

 頭は弱点に見えて一番守りが堅い。

 


「分かったぞ。

 君のそれは加護(さいのう)じゃない。

 通常魔法を組み合わせて、加護に近い効果を得る"偽装加護"だな。

 しかし、どうせ長くは持たないのだろう?」



 想像以上の早さで看破されたことに焦りつつ、



「あなたを倒すぐらいの時間はもちますよ」



 と、はったりを掛ける。

 エンリオットは歯牙にもかけず構え直した。

 実際、エンリオットの予想通り、ユニが使ったのは偽装加護だ。


 ユニが通常の魔法を使っても、鎧を着て戦闘慣れした相手にはまるで役に立たない。

 熟練の魔法使いなら戦えるのだろうが、ユニには難しい。

 魔法では戦えない。


 だったら、自身の長所である速さを伸ばすしかない。

 より速さを求める段階で問題になるのは空気。

 速くなればなるほど、水の中で走ろうとするような重たさを感じる。

 その空気を味方につけるのが"風の加護"だった。

 もちろんユニにその加護(さいのう)はない。

 しかし、それを再現することは可能だった。

 空気中に自身の魔力を絡ませて操る。

 魔力の消費は激しく、持って一分が限界。


 その一分は奥の手。

 斬りかかってくるエンリオットの剣を受けつつ、タイミングを外すように瞬時に加速する。

 一瞬にして攻守が変わるものの、エンリオットはそれを見極めて守りを固める。

 状況は完全に詰んでいた。



「精神魔法が効いてないわけではないな。

 確実に動きが鈍っている。

 最初からその技を使っていれば良かったものを。

 いや、能力のわからない相手にそれは無理か」



 エンリオットは戦いが終わったかのように雄弁に語る。

 ユニはここに来てエンリオットの戦い方を理解した。


 エンリオットの狙い、それは長期戦。

 精神魔法が毒のようにじわじわと効いてくるのを待つ。

 それまでの時間稼ぎに用いるのが剣術。

 だから徹底的に防御に特化しているのだ。

 危険を冒してまで斬り込む必要がないために隙を作らない。

 ゆっくりと慎重に戦った時点でエンリオットの術中に嵌まっていたのだ。


 緩急のある足さばきでエンリオットを翻弄するが決定打が届かない。

 偽装加護の時間はもう無い。

 絶望的な状況。

 ユニの放った攻撃を防御した一瞬、エンリオットの動きが乱れた。



*********************



 少女の奥の手だと思われる"偽装加護"。

 初見でこれを食らえばひとたまりもない。


 だが、最初の攻撃は鎧に当たった。

 頭を狙われていれば危なかったが、鎧に当たったおかげで安全に奥の手を分析できた。


 そして偽装加護だと見抜けば後は簡単だ。

 守りに徹する。

 あんな大技を隠し持っているのは凄いと思うが、所詮は子供。

 魔力量も剣術も自分より劣る。

 恐れることはないのだ。


 そう思いつつ、視界から外れそうになる少女に向きを合わせる。

 繰り出される神速の一撃を丁寧にさばき、後ろに一歩下がる。

 少女の加速は油断出来ない。

 だから距離を取って対処できるようにする。

 少女は攻撃するために近づき、偽装加護でまた加速する。

 エンリオットは同じように下がりながら戦う。


 少女の攻撃が単調になってきている。焦っているな。

 ツラックとか言う少年のことがそんなに気がかりか。

 見捨てれば逃げられるかもしれないのに真面目だな。

 必死に剣を振り回しても、色々なものが足りないのに。

 技術も魔力も経験も冷静さも、仲間を見捨てる冷酷さも足りない。


 君の底は見えた。

 右腕でも切り落とそう。

 そうすれば大人しくなる。


 左からの攻撃を後ろに避ける。

 更に近づいて来た所を反撃すればいけるな。


 そう"左"から……。

 違う違う、右だ。


 その後は前に……?

 いや、後ろに下がりながら戦うんだ。


 クソ‼ こんがらがる‼ 焦っているのか‼

 ここは落ち着いて、


―――――――"右"――――――――――――


 右に避ける。

 クソッ‼ 間違えたッ‼ 距離が近すぎるッ‼


 大きく後方に跳躍して誤魔化し、仕切り直すがまたも判断を間違える。

 頭で考えず体の感覚で対応するが、それでも頭の声に体が釣られて動く。


 一体何なんだ‼ 

 これはまるで……ナポル=ヨースタントの伝説みたいじゃないか!!

 悪魔の囁きが頭を狂わせるという、あれにそっくりだ。


 まさかと思い、周囲を伺うと魔法を使っているらしき女の子がいた。

 先ほど棒切れで戦いを挑んできたやつ。

 エンリオットは察した。

 あいつが使っているのは、伝説の固有魔法"想念伝達(テレパシー)"。

 精神魔法の上位互換の魔法であると。

 

 あの依頼主めッ‼ 聞いてないぞッ‼

 精神魔法が少女に効かなくなった理由はこれかッ‼

 あいつを殺せば。


 …………………ッ‼


 エンリオットの敗因、それは些細な事だった。

 思考を乱されて不注意で……


 ツラックの血だまりを踏んでしまったこと。


 ズルッと左足が上滑りし、体勢が崩れた。

 マズイッ‼と思いつつも、瞬時に剣を構える。

 攻撃される箇所は鎧のない頭だけ。そこを守ればいい。


 しかし、視線を動かした瞬間に少女は消えた。

 少女は懐に潜り込み渾身の突きを神速で放つ。

 狙うは度重なる攻撃で脆くなり凹んだ腹部の鎧。


 一筋の風がエンリオットを貫いた。



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