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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
40/82

40. エンリオット


 両手で縦に構えた長剣を、左足の踏み込みと同時に力強く振り下ろした。

 長剣は少女の持つ短い剣に甲高い音を立ててぶつかる。

 少女の剣は弾かれて飛んでいきそうになるが、少女はそれを必死に掴んだ。

 その隙にエンリオットは長剣を力を込めて握り、もう一歩踏み込み、下から上に切り上げる。

 弾かれた剣に流されて、少女の体勢は崩れている。

 しかし、剣先は少女の胸元を掠めただけだった。


 少女はふわりと後方に着地した。



「やるじゃないか。

 君ぐらいの年の子供なら、大抵はこれで片が付く」



 少女は何も答えない。

 だが、エンリオットは理解していた。


 少女は一撃目で自分の剣が弾かれることを予想。

 剣に衝撃が加わった直後に跳躍して、二撃目を避けたのだ。

 その場の思いつきで出来る芸当ではない。


 体の小さな剣士は、体が大きく力の強い剣士に力技で負けてしまう。

 だから、力負けするのを見越して動く。


 言うは易く行うは難し。


 学校で授業を受けているような子供は、その不利を自覚していないことが多い。

 自覚していても同い年の子供と戦うことが多ければ、軽く見る。

 そうやってぬるま湯で育った子供は、現実に打ちのめされるのだ。


 努力が報われる?

 違うじゃないか!!

 体の小さな自分は体の大きな相手に力でねじ伏せられる。

 磨いてきた技も何もない。

 所詮は才能か……。


 と。


 しかし、少女はその理不尽というただの現実を、深く理解していた。

 一体誰がこの少女にそんな酷いことをしたのだろうか。

 少女に現実を叩きつけた大柄の剣士が頭に浮かぶようだ。

 知らない人物であるが、鬼のように厳しいに違いない。


 いや、待てよ。

 ここは魔法学校のはずだ。

 何でこんな所に剣士がいる?

 剣士? ……と言えば、あの校長かッ‼

 いや、それでも不自然だ。

 長い間、校長がわざわざこの少女のために付きっきりで教えたと言うのか?

 才能があるとは思えないこの少女のために?


 長剣を構え直し、もう一度少女を攻撃する。

 少女は慣れた動きで剣をかわし、攻めきれない状況が続く。


 思えば、学校の警備もおかしい。

 他の暗殺者は普通の学校だと思って正面から向かっていった。

 しかし、俺は気付いた。

 警備の中に知り合いがいる。

 学生時代に俺を易々と打ちのめしたあいつが。

 おかしいと思って他の警備を見てみれば、あいつに負けず劣らずの強者揃い。

 王宮でもないのに警備を固めすぎだ。

 何故そこまでの警備なのか、それは分からない。

 しかし、他の暗殺者が全滅するのは目に見えている。


 だから俺は通りがかった兵士のふりをしてあいつらに取り入った。

 そして、暗殺者の多さに慌てたあいつらは、その場で一番弱かった俺に生徒の避難をさせた。

 自分から言い出すつもりだったとは言え、『弱かったから選ばれた』とは皮肉な話だ。

 

 そして、首尾よく少女と二人きりになり、精神魔法で計画通り連れてこれた。

 この少女の実力ならば、あいつらの元にまで逃げられていただろう。

 ここに連れてきたのは正解だった。


 少女はエンリオットと剣を交えながら、逃げ道を確認していた。


 ここでやられるつもりはないらしい。

 だが、こちらも逃がすつもりはない。

 ここは学校の三つ隣にある使われていない建物の中。

 戦闘で発生する大きな音は魔法で対策済み。

 後はじっくりと王手を取りに行くだけだ。 


 精神空間を展開。


 少女に気付かれないように少しずつ。

 時間が経つにつれて冷静さは失われ、絶望感が増し、諦めることを幸福に感じ出す。

 意思の弱い者なら数十秒で心が折れ、自分の全てを委ねてくる。

 それが自分の生き死にであっても。

 さて、この少女はいつまで持つかな?



「おい‼ エンリオット!!

 分かっているな‼」



 部屋の奥にいた中年の男が声をあげた。

 この人物はエンリオットに依頼をした張本人なのだが、今の今までいることを忘れていた。



「ご安心下さい」



 あんたの言いたいことは分かる。

 殺すな、だ。

 そう言う契約なのだから分かっている。

 分かっているから黙っていてくれ。

 俺とこの少女との戦闘を邪魔しないでほしい。


 先に精神掌握をするべきはこちらでは?と思わなくもないが、無意味なことに魔力を使ってはいられない。

 この少女を殺さずに下した後、洗脳するのに魔力が要る。

 落ち着かなくてはならない、というのは、こちらも同様だ。


 短く息を吸い、肺の空気を全て吐き出す。

 強く長剣を握り、次は王手を狙う。

 命令は『殺すな』だ。

 ならば、少しくらい傷つけても問題ない。

 心を挫くには痛みも必要だ。



「遊びは終わりだ。今の内に降参するなら君を傷つけることもない。元より君を殺すことは目的ではないからな、降参は悪い選択ではない。だが、これ以上抵抗するなら手足の一本切り落とさねばならない」


「脅しですか?私は最初から殺し合いのつもりです。傷付く覚悟も、傷付ける覚悟も出来ています」



 真っ直ぐな瞳。

 殺し合いに身を置いているというのに、何て純粋なのだろう。

 しかし、その透き通った目は他人を傷付けることもいとわないと言っている。

 矛盾して見えるが、彼女は過渡期なのだろう。

 ぬるま湯を抜け出し、これから汚れていく。


 惜しい。実に惜しい。

 この少女を自らの手で壊さないといけないなんて。

 だが、仕事だ。

 痛みと共に心を壊す。


 先ほどの言葉。『遊びは終わりだ』

 これは少女に向けた物ではない。

 少女に同情する自分に向けてだ。

 ただ無慈悲に切り捨てる。



「どがあッッ!?」



 今まさに切り込もうとしたとき、情けない声が聞こえた。

 出鼻を挫かれた気分でそちらを見ると、部屋の奥に立っていた依頼主が倒れている。

 側には一人の少女。

 

 あの少女は…。



「ナルミシア‼何でここに居るんですか‼」



 そうだ。そんな名前だったな。



「…あのね……暗殺者の集団を雇ったのは……私のお父さんなの」


「何を…言ってるんですか?」


「その人に依頼したのも、私のお父さんなの。……だからお父さんを止めようと思って……」


「全然分かんないですよ‼分かるように言って下さい‼」


「私……ヨースタントの人間で…」


「どうゆう…ことですか?何で…ヨースタントの話になるんですか?」


「私、私は……」



 精神空間に反応あり。


 少女とナルミシアが動揺しているな。

 精神魔法にとって、心の揺らぎは明確な隙。

 チャンスだ。


 揺れ動き安定を求める心に精神魔法が作用する。

 安定を偏らせる。

 不安を二つ同時に相手するのは大変だよな?

 目の前の俺なんて忘れて、ナルミシアのことを考えたいと思うだろう。

 その気持ちに精神魔法が割って入り、俺への意識を遮断する。

 今の少女にはお友達しか見えていない。


 素早く近づき長剣を振り上げた。


 少女はこちらを見ない。

 気付いていない。


 振り下ろした。



 

 精神空間に()()()反応あり。




 振り下ろされたエンリオットの剣は、新たに現れた少年に防がれていた。

 遅れて少女がその少年に気付く。



「ツラック!?何でここに!?」


「助けが必要だろ?」



 ツラックは安心させるように、ユニに笑って見せた。



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