4. 信頼度回復計画1
俺は国王クローテスに雑に命令されたが、場所や召し使いを用意するなど、戦い方を教える環境は与えられていた。
場所は王都の近くにある国王の別荘の1つ。
そこを使って日々稽古をつけている。
稽古と言っても、まずは体を鍛える必要があったので走らせたり、木製の剣を振らせたりする事が多い。
だが、今日は珍しく剣を交えていた。
いつものように晴れた空の下。
丈の短く動きやすい服のユニは剣を振り、不格好な服のままの俺はそれを剣で軽く受け止める。
「力勝負は不利になるぞ、足をしっかり使え」
不満があるのか口を閉ざして返事を一切しないが、動きは変わっている。
剣の才能はあるようだが、そんなことよりも全く喋らないことが気になっていた。
ユニは出会ってから今まで全く会話をしようとしなかった。
最初は、無口な子どもなんだろう、と思っていた。
しかし、ユニだけでなく召し使いも、俺とろくに会話をしなかったので、ようやく自分が嫌われているのだと気づいた。
「よし、一旦休憩にしよう」
ユニは相変わらず返事をしなかったが、木陰に移動した。
思いきって尋ねてみる。
「なぁ、なんで俺嫌われてるんだ?」
「好かれていないだけだと思います」
チラッとこちらを見ると、ユニは返事をしてくれた。
「どうやったら好かれると思う?」
「諦めたほうがいいと思います」
今日はご機嫌なのかもしれない。
ちゃんと会話ができるとは運がいい。
調子にのって更に聞いてみる。
「なぁ、なんで俺が先生役に選ばれたんだ?他にも優秀なやつはいただろ?」
「……………………………」
やはりこの質問には答えてくれない。
自分が優秀だと思っているのかと言いたげにこちらを見たが、黙ったままだ。
その後も会話は弾まず一日の稽古が終わる。
なにやらお勉強があるらしく召し使いに連れられ、どこかに行ってしまった。
召し使いと言えば。
稽古をつけはじめてから毎日召し使いが木々に隠れたり、建物の中から覗いたりして周囲の様子を伺っている。
どう見ても普通の召し使いではない。
王様の孫娘って言ってもユニが王になる確率はかなり低いはずだ。
次期国王の候補はたくさんいるみたいだがユニの名前は聞かない。
何故そんなに用心しているのか気になる。
しかし、色々と聞きたいことはあるが誰も答えてくれない。
それからさんざん悩んだ結果、思い付いた。
「少しだけでいいからユニに俺のことを好きになってもらおう。
ユニからの好感度が上がれば稽古もやりやすくなるし、知りたい事も聞き出せるし名案だな」
俺は楽観的だった。
ユニが稽古を終えて勉強している頃、俺は店主に睨まれながら服を選んでいた。
ユニや召し使いに好かれていない原因の1つがボロボロの服だと思ったからだ。
周りの人間が綺麗な服に慣れている以上、不格好な自分が距離を置かれるのは当然だ。
そこでまともな服装をするために店にやって来た。
ちなみに店に来るときはボロボロの服を着ていて、それを見た他の客は店を出ていった。
自分にあった良い服を選ぼうとにらめっこをしていたが、どれが良いのかいまいち分からない。
仕方ないのでどう見ても怒っている店主に聞くことにした。
「すいませーん、俺に合ったいい服を選んでもらえますか?」
「そうですね、今来ている服が一番お似合いですよ」
今、ユーゴが着ているのはもちろんボロボロの服だ。
きつめの皮肉を言った店主は笑顔を浮かべていたが、目は笑っていない。
「服を買ったらすぐに店を出るから頼むよ」
一苦労したが何とか目立たない無地の服を買い終えた。
買った服を店の中で着てから外に出たため、俺をじろじろと見る人はいない。
一人を除いて。
俺が店を出てからずっと後ろに付いてきている人物がいた。
下手くそな尾行をしているのは金髪の貴族っぽい若い男だ。
先程の店主と違って感情を隠そうともせず、こちらを睨んでいた。
さっきまで俺を見ていた連中とは明らかに違うな。
しかも悪い方に。
人の少ない方に移動し、二人だけになったのを確認して話しかけた。
「俺になんか用か?」
「何でお前なんがユニの先生になってんだッ。
お前と違って俺様には金と権力があるんだぞッ。
この俺様がいながら、なんでこんな雑魚勇者なんかに」
「あのー、用がないならもう行っていいかな?」
ユニと同じぐらいの年齢か。
金や権力にまみれたせいか貴族の子供は子供っぽくない。
結局誰だか分からないが、面倒なやつだと言うことはわかった。
ユニについて聞きたいことがあるが、こいつもまともに会話をできる相手ではなそうだ。
「用件?もちろんあるさ。
ユニの先生を辞めておとなしく田舎にでも帰れ」
「それが、国王の命令だから拒否できないんだ。
文句が有るなら国王に言ってくれるか。
何だったら俺も一緒に言いにいこうか?俺も出来れば山に帰りた……」
「お前のことはどうでもいいんだよッ。
俺様の言う通りにしろ。
もし言う通りにしなかったら、大変なことになるぞ」
やれやれ、面倒だな。
やっぱり山の中が一番だ。
「大変なこと?
もっと具体的に言ってくれないと、分からないな」
「あぁ、そうか。言う通りにするつもりは無さそうだな」
金髪の男は懐に手を入れてナイフを取り出した。
小さなナイフだが鋭そうに見える。
刺されたら大変なことになりそうだ。
「そうだなぁ……、たまたま通りがかった強盗に殺されるなんてのはどうだ?」
「こう見えても俺は勇者だぞ、それは舐めすぎだろ」
金髪の男は脇を閉めてナイフを構えた状態で突進してきた。
それをかわすと俺が避けた方に即座に突きをしてくる。
手首を掴んでナイフを取ろうとするが、上手く振り払われてしまう。
こいつ意外と慣れてるな。
ナイフの扱い、特に戦闘目的での使用に長けている。
ナイフが俺の頬をかすめた。
「少しばかりお前を見くびっていたようだ。
悪かったな本気を出してやる」
言った直後、魔法で身体能力向上をして、自分が優勢だと思い薄ら笑いをしている顔に、渾身の蹴りを入れる。
後ろ向きに金髪の男は倒れ、白目を剥いて気絶していた。
「兵士に預けても貴族には甘いから意味ないだろうな。場合によっては俺の方が悪いことになるかもしれないし。
だから人目を避けて戦ったんだけど。
まぁ、ここまで痛めつければもう来ないだろ。ほっとこ」
気絶している金髪の男をほったらかしにして、俺は夕飯を買いにいった。