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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
38/82

38. 過去の功績


 昼夜を問わず馬車は進み続け、ついに一行は王都に到着した。

 鼻息を荒くした馬に感謝の言葉をかけて学校の敷地に入る。

 朝方だったため人の気配はなく、暗殺者に襲われたのが嘘のような、静かな日の出だった。


 警備の厳重な学校には流石の暗殺者も入れないだろう、とナティ先生は安心した様子で何処かに行ってしまった。

 実際、学校の周りだけでなく、王都の中は複数の兵士が見回りをしている。

 以前、王都で暗殺が多かったこともあって、優れた兵士が周囲に目を光らせている。


 警備は優秀な兵士に任せ、ユニとツラックは休息を取ることにした。

 と、言っても学校の外には出して貰えず、他にすることもないので取り合えず休もうという風になったのだ。


 ベッドに横になると、体が疲労感で一杯になる。

 目覚めたら、ナティ先生やユーゴと話をしようと思った。


 自分が殺した人間はこれで最後になるのか。

 それとも、これからたくさん殺すのか。

 


************************ 


 

 王宮の中の、華やかに装飾された一室。

 部屋の中心には楕円の大きなテーブルがあり、王都でも名のある貴族が集められていた。


 貴族は数年前に流行った暗殺でかなりの被害を互いに出していた。

 誰かが暗殺者を差し向けるようになり、それに対向するために護衛と暗殺者を雇うことが繰り返された。

 第一の魔王が未だに討伐されていないというのに、貴族同士の争いは苛烈を極め、多くの資金と命が失われた。


 ここに座る貴族達は、先の争いを生き抜き、大量の資金を未だ持ち続ける者達だった。

 ユニを狙った大量の暗殺者を雇える資金力があるのは彼らか、彼らの一族だ、と考えられたのだ。



「…………これが事件の詳細です」



 互いに睨み合う貴族を無視して、ナティは事件の説明を終えた。


 ナティの指示で、王都に帰る途中にあった町から調査団が派遣されて事件現場が調べられた。

 結果、痕跡はかなり消されていたものの大人数の移動と戦闘の跡が確認された。

 その他にも、数々の証拠が提供され、貴族が関係していることが疑われた。


 事件を起こした動機は分からなかったが、取り合えず、資金力のある貴族が召集されていた。



「くだらんッ‼

 朝早くに呼び出されたと思ったら、子供が暗殺されかけたとか何とか、どうでもいいッ‼

 事件が解明されてから首謀者を呼び出せばいいではないかッ‼」

 


 丸々と太った貴族の男が怒鳴り散らした。

 他の貴族は何も言わないが、同様のことを思っているようだった。



「どうしてもと言うのであれば、私は止めません。

 今回の召集に強制力はありませんから」



 でっぷりと太った貴族の男、ダグラ=イスタはぐぬぬ、と言いたそうな顔で口をつぐんだ。


 ここで出ていけば、他の貴族に言いたい放題言われ、最終的には首謀者にされてしまう。

 殺し合いが終わっても、蹴落とし合いは終わらない。

 ここで退席することも、最初から出席しないことも不利益に繋がる。


 分かっていることだ。

 不満があっても居るしかない。

 気に入らない召集だ。


 だが、一つ大事なことがあった。


 規模から見て、この場の誰かがこの事件を起こしたこと。

 その結果、誰かが"処罰"されるらしいこと。


 暗殺者の人数はかなりいたようだ。

 殺意を越えて、絶対に失敗できないという意志が感じられる。


 大量の暗殺者を雇っても森の中であればバレない。

 獲物を逃がさなければ問題ない。

 あれだけいれば逃がすはずがない、と首謀者は考えたのだろう。


 だが、これを考えたやつは馬鹿だ。

 相手にあのナティが入っているのにその程度の戦力で挑むとは。


 次の近衛兵長、とまで目されたあいつに暗殺者を仕向けるとはな。

 自殺行為だろうに。

 学校運営を始めたのは意外だったが、それでも魔王討伐で見せた実力は尋常ではなかった。

 舐めてかかれる女ではない。

 それなのに、こんな脇の甘い計画を立てたやつなら、証拠は山のように出てくるだろう。


 それに、どいつが犯人か大体分かった。

 この馬鹿さ加減。

 さすがにないとは思ったが、考えてみればこいつ以外にやるやつはいないな。

 ついに伝説の終わりだ。

 見物だな。

 それまで座って過ごすのは気に入らんがなッ。


 コンコン、と扉がノックされて兵士が入ってきた。

 ナティと言葉を交わし、前に出ると話を始める。

 残りの兵士は何気なく、向かいの人物の背後に立った。


 ビンゴだ。



「暗殺者の残党を探していたのですが、ついに発見しました。

 有力な情報が入ったので、勝手ではありますが、敷地内を調査させてもらいました。

 もうお分かりですね、ノーク=ヨースタント様」



 やっぱり、ヨースタントのヤツだったか。



 ヤツの数世代前は伝説の軍師、ナポル=ヨースタント。

 暗殺で荒れに荒れた王都に、秩序を取り戻した男。

 この男無くして今の平和な王都はない。


 暗殺が流行る前には、第二の魔王が襲来していた。

 第二の魔王マス・エレメントは魔力の塊で、討伐と同時に大量の魔素を放出、その魔素は即座に形を変えて魔素体(エレメント)となり、王都は地獄の釜をひっくり返したような有り様だったようだ。


 全ての魔素体(エレメント)を討伐し終えた頃には王都の大地はめくれ返り、まるで神が王都を畑の代わりに耕したみたいだったらしい。

 せっかく倒した悪魔の死骸もどこかに埋まってしまっていた。


 そして、復興に向けて多くの人材がこき使われて、何とか王都は見た目だけでも元に戻った。

 だが、王は兵士に金をほとんど払えず、王都全域で手薄な状態が続く。 

 犯罪が横行し、暗殺者が大通りを歩き回り、貴族は大金をはたいて自衛に走った。


 そんな混沌に満ちた王都にあの男は現れた。


 数々の仲間を引き連れて、国の代わりに軍を作り、想念伝達(テレパシー)を用いて完璧な指揮を取った。

 ついでに政敵を殺したとかそういう話もあるが、どうでもいい。


 重要なのは、ナポル=ヨースタントが報酬として王都の土地を大量に手に入れたこと。

 国の財政が立て直すまで、やつの軍が正義になったこと。

 そして、それは何十年も前だということ。

 

 今では親の金を貪る馬鹿息子が当主だ。

 俺が先祖なら泣くだろうな。

 あれだけの功績を残したのに、子供がこうも無能では。



「違うッ‼ 俺じゃないッ‼

 一族の他のヤツが勝手にッ‼」


「勝手にあれだけのお金を使った、と?」



 ノーク=ヨースタントは呆れている兵士に無意味な熱弁を続けた。



「…………ふっ」


「何がおかしいッ‼ タウロナ=イース‼」


「いや、滑稽だと思いまして。

 王都でも一二を争う貴族のお金が、そんな甘い管理のされ方をしているとは考えにくい。

 証拠は揃っているのだから、大人しく諦めたらどうでしょう?」


「暗殺者がいたぐらいで、俺が犯人にされてたまるかッ‼」


「証拠ならばその内たくさん出てくるでしょう。

 例えば、武器庫や暗殺者を匿っている場所。

 暗殺者からも証言が取れるかもしれない」


「……お前……まさかッ‼

 さっきの有力な情報ってのはお前の仕業かッ‼」


「いや、偶然、お宅から怪しい集団が出てくるのを、私の家の兵士が目撃してしまいまして。

 いやー、偶然というのは恐ろしいものですな、ハハハ」



 発狂するヨースタントは兵士に連れていかれ、タウロナ=イースも高笑いしながら部屋を出ていった。

 

 クソッ‼ タウロナのヤツめッ‼

 これでヨースタントが解体されて土地と財産が国に没収される。

 その内のいくつかを貰う作戦かッ‼

 …抜け目のないヤツだ‼

 俺も一枚噛めていたら……クソッ‼



************************



 機嫌良く微笑みながら、従者と兵士を連れて王宮を出るタウロナ。

 馬車に乗り込もうとしたところで、真面目そうで屈強な金髪の女が待っていた。



「これはこれは、ナティ校長。

 いつも愚息のツラックがお世話になっています」


「い、いえ、こちらこそ」



 あまり見ない上機嫌さに、ナティは少し引いていた。



「今日はいい天気だ。

 この空の下、ワインでも一緒にどうでしょう?」


「まだ仕事があるので遠慮させてもらいます」


「そうか、教師というのは大変なご職業だ。

 何と言ったって、ツラックの面倒を見るわけですから。

 それは大変でしょう」


「ツラック…さんは良いお子さんですよ。

 最近は勉学にも励んでいるようですし」


「勉学? はて、何のために?

 家を継ぐのは長男と決まっていますし、次男も優秀。

 不出来な息子などが勉強したところで、何の役にも立ちませんよ」


「そんなことはありません。

 ツラックは少しずつ学んでいます。

 その内、立派に育つことでしょう」


「立派…ですか。

 立派な息子ならば、寄り道せずに夏休みが始まってすぐ帰ると思いますが。

 早く帰ってくれば、あいつ向きの雑用があったというのに。

 やはり愚息に違いない」


「すぐに帰らなかったのは、私が誘ったからで」


「おや、次の馬車が待っているようですな。

 それでは」



 ナティの口からため息が漏れた。


 大人同士でここまで話が通じない……いや、話す気がない。

 人の話よりも自分の話をしたいだけ。

 ツラックも苦労してきたのだろうな。

 また今度、美味い物を腹一杯に食べさせてやろう。



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