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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
37/82

37. 暗殺者


 足をおろすと、踏み潰した小枝やどんぐりが割れて、音を出した。

 周囲とナティ先生の顔色を伺うが、どちらも反応はない。

 森の中は小鳥の鳴き声や虫のさざめきに溢れていて、耳を澄ませば澄ますほど雑音が耳に残る。

 


「ユニ、そんなに緊張する必要はない。

 音を聞かれるほど近くに敵がいるなら、存在を知られずにやり過ごすことは不可能だ」


「でも、音を出したらやっぱりマズいんじゃ」


「そのときは……渡しただろ?

 私が敵を引き付けている間に、それを使いながら逃げればいい。

 心配せずとも、ユーゴが盾になってくれるだろう」


「そのときは俺が先頭だから付いてきてくれ」



 腰にさげた剣を触って確かめる。

 馬車から取りだした武器を全員が身に付け、戦闘に備えていた。

 しかし、ユニとツラックには実戦経験がほとんど無い。

 以前ユニが暗殺者と戦ったときは味方の数の方が多かった。


 しかし、今回はその逆。

 サリナから聞いた話だと自分達が圧倒的な少数だ。


 備えていても思った通りに剣を振るえるか。

 敵を殺せるだろうか。

 暗殺者シールにしたことと同じことを、憎しみなどない敵にもできるだろうか。


 ツラックも緊張しているように見える。

 大人に守られているとは言え、狙われるのは子供の二人だ。

 捕まえて脅せば、ナティ先生と言えども打つ手はなくなる。

 自分の命は当然守るが、失敗すれば、失うのは全員の命になるかもしれない。


 緊張で言えば、ユーゴの表情は険しい。


 ナティ先生には信頼できる強さがある。

 この中で一番強いのはナティ先生だ。

 でも、戦闘が始まれば、ユーゴの前からすぐにいなくなる。

 ナティ先生が敵を引き付け、ユーゴが全員を引っ張って逃げなければならない。

 ユーゴの判断に全員の命運がかかっている。


 先頭のナティ先生が手で制止した。

 全員が周囲を注意深く見渡す。



「……煙幕」



 ボソッとナティ先生が呟くと、全員が地面に向かって魔法を放つ。

 巻き上げられた土煙は即席の煙幕となる。

 作戦通りだ。


 土煙の煙幕はすぐに霧散するため、次々に魔法を放つ。

 ときどき垣間見える風景には、慎重に近づく大勢の暗殺者が見えた。



「量が多いな。

 ナティ、どうする?」



 ユーゴは逃げ道を探すが、全方位に敵はいる。

 いつのまにか囲まれていたようだった。



「私が凪ぎ払う」


「凪ぎ払う?」



 疑問に思ったユーゴが振り返ると、ナティの剣が黄金に輝いていた。



「お前‼ そのための煙幕かよッ‼」



 ユニとツラックの頭を押さえてユーゴが身を屈め、察したサリナが伏せた瞬間、ナティの剣から金色の光線が放たれた。



    <光塵大回転>



 魔力を剣に込め、剣先から魔力を解放する。

 煙幕で互いに見えない中、突如として金色の光の筋が周囲をメチャクチャに切り裂く。

 あちらこちらから悲鳴が聞こえ、残った暗殺者の殺気が明らかに鋭くなった。



「ユーゴ、右だ。

 あちらからの悲鳴が一番多かった。

 もう一度放つからその隙に逃げろ。

 お前たちは斬らないようにするから、心配せず走れ‼」



 ユーゴは短く返事をして、三人に付いてくるように指示をする。

 敵の足音が迫ってくると、ナティがもう一度技を出した。



「今だッ‼ 行けッ‼」



 ユーゴが素早く走りだし、ユニは置いていかれないようにピッタリと後ろを走る。

 後ろを振り返ると、ツラックとサリナもしっかりと付いてきていた。


 微妙な段差の多い森の中を、太い根に足を取られないように気を付けつつ走る。



「ユニ、木の影に気を付けろ。来るぞ」



 静かに言うと、ユーゴは剣を構えて視界の悪い煙の中を斬る。

 ユーゴの剣は、鉢合わせた暗殺者の首を的確に切り裂き、助けを呼ばせることなく敵を処理していく。


 『ナティのあの技は元はと言えば俺の技だからな‼』と心の中で叫びつつ、ユーゴは数人で待ち伏せる敵に魔力を込めた剣を振る。



   <亜空切断>



 目立たないように魔力を抑えた斬撃が、暗殺者たちの首を正確にはねる。


 ユニはその光景を現実とは思えないで見ていた。

 緊張していたはずのユーゴの何気なく振るった剣が、あっさりと敵を殺していく。


 ふと視線を向けると、木の影から飛び出した敵がユーゴの背後で剣を構えていた。


 一瞬の逡巡。


 剣を横に構えたユニは、ユーゴのやったように敵の首を斬りつけた。

 血しぶきとともに倒れる敵の横顔を見ながら、ユニは足を止めることなく走り抜けた。


 暗殺者は消え、ユーゴはそのまま走り続けた。

 森を抜けて、草丈の長い草原駆け、河原に出たところでやっと足を止める。


 走ってきた道を睨みながらユーゴは休憩をとった。

 くたびれて倒れ込むツラックは川の澄んだ水を口に運ぶ。

 サリナは周囲に紛れるようにして隠れ、敵の追ってを見張っていた。


 見張りを二人に任せてユニは川に入った。

 剣を鞘から強引に抜くと、べっとりと血が付いていた。

 せめて血払いをすべきだったが、無我夢中で走っていたため、そこまで気が回らなかった。

 汚れた剣を川に浸すと、汚れは少しマシになった。

 だが、剣を入れていた鞘の奥の方には血が固まっていた。



「大丈夫か?」



 顔を上げるとユーゴが川に入っていた。



「あれ、見張りは…」


「大丈夫そうだから、サリナに任せた」


「そうですか」


「鞘を洗うのを手伝うから渡せ。

 剣は手を斬らないようにして自分で洗えよ」



 鞘を渡すと、ユーゴは木の棒を突っ込んで荒々しく洗い出した。

 荒っぽい手つきではあるが、慣れた手つきでもあった。


 ある程度剣を洗うと、自分の手に付いた汚れが目に入った。

 ゴシゴシと擦れば血は落ちたが、それでも自分の手が汚れて見える。


 何気なく敵を殺したユーゴの姿を思い出した。

 自分もいつかはそうなるのだろうか。

 


「サリナが合図を出してる。

 ナティが追い付いたみたいだな」



 ユーゴは鞘を返すと、川を出ていった。

 川面に写るユーゴは、時おり不安定に揺れていた。



「暗殺者はほとんど始末した。

 だが、報告に行ったやつまでは流石に倒せなかったからな。

 暗殺が失敗したことは、すぐに相手に伝わるだろう」


「のんびりしてられないな」


「このまま町に向かうか?」


「いや、町にも暗殺者の残りがいるかもしれない。

 安全のために、このまま王都まで戻ろうと思う」


「遠くないですか?」


「馬車を先ほど見かけてな。

 声をかけておいた。

 少し先のところで待っているから、それに乗って王都を目指す。

 相手にバレる前にさっさと町を通り抜けるぞ」



 ナティ先生が合流すると、全員がきびきびと動き出した。



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