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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
貴族編
36/82

36. 報せ


 暗くなってくると、この辺りの治安は少し悪くなる。

 薄暗い路地裏には、みすぼらしい風貌の者や怒鳴り散らす者。

 ケンカをする者。

 武器を持ってうろつく者。


 普通なら好んで夜に歩くような場所ではない。

 しかし、奇異の目に晒されながら、路地裏を縫うように進む。

 角を曲がろうとしたところで足を止めた。



「さっさとしてくれねえか?」


「そ、その…」


「なぁ、俺らさぁ、急いでるんだよ、わかる?」


「…………………………………」


 

 発育のよい少女と、威勢よく少女に絡む二人の男。

 もうひとりの男が口を開いた。



「罪悪感があるんだろ。

 自分から話そうとはしないさ。

 だから……」



 懐からナイフを取り出し、少女の喉笛に切っ先を向ける。



「話したくなるようにすればいい」



 だが、少女はそれでも話そうとしない。

 呆れた男はナイフを下げた。



「なぁ、君も腹くくったらどうなのかな?

 美味しい話じゃないか。

 弱った勇者と子供、後は厄介な女剣士。

 こいつらが金になるんだからな」


「もういい、吐かせよう」



 男が拳を握りしめ大きく振りかぶったとき、少女の目には、細い針を持って近づく女性が見えた。





***********************





 カタコトと心地よい振動とともに、馬車は進んでいた。

 荷台に腰掛け、肘を付きながら外を眺める。

 馬車一台が通れるだけの道には草が短く生えている。

 流れていく景色は、左に森林、右に沼地やら草原が広がっている。

 けして馬車の進みが遅いわけではないが、似たような景色ばかりでは進んでいるのかわからない。

 ときおり車輪が石に乗り上げるときだけ、変化を感じる。



「暇ですね」


「そうだな」



 同じく暇を持て余したユーゴが気だるげに応答する。

 


「リーナさんに聞きたいことが合ったんですけどね……」


「先に行ったからな。

 また今度聞けばいいだろ。

 王都ならすぐ会えるし」



 海で溺れた翌日、ナルミシアはたった一言を残して、すぐに宿を出たようだった。

 リーナさんは、ナルミシアの帰路の付き添いとして同行した。


 結果として残ったのはナティ先生、ユーゴ、ツラック、私。


 ナティ先生は馬車の御者の人と会話中。

 ツラックは暇すぎてお昼寝中。

 私とユーゴは退屈にやられないよう惰性で会話中だった。



「そう言えば、結局ユーゴは何してたんですか?

 私を学校に入れてから何をしてるのかさっぱりですけど」


「んー、俺には魔王の刻印があるだろ。

 これをリーナに少しずつ解呪してもらい、代わりに俺は実験に参加してた。

 正確には実験台にされてた、だな。

 って、前言ったような……」


「でも一年ぐらいありましたよね?

 ずっとそんなことをしていたんですか?」


「もちろん他にも色々やってたよ。

 例えば、ユニが学校を卒業した後にどんな教育をするか考えたり……とか?」


「それについても聞きたかったんですけど。

 私いつ卒業できるんですか?

 確かに私の実力はまだまだですが、終わりが見えないような……」


「うん? 実力は結構あると思うぞ。

 ナティと自分を比べてるのかもしれないけど、あいつは別格だから止めとけ。

 それとな、ナティと話したんだが、卒業はもうすぐになりそうだ。

 ユニ次第ではあるが」


「私次第ですか……。

 それにしても、ナティ先生は強すぎませんか?

 このまま修行しても、あそこまで強くなれる気がしません」


「成長というのは緩やかなときもあれば、急なときもある。

 気持ちや覚悟で出せる実力が変わったりするものだからな。

 そこがユニには欠けているようだが、勇者を目指すやつはだいたいそんなものだったりする。

 そして、そこを叩き直すのに最適な修行場が『最前線』だ。

 ナティと俺は長いこと最前線にいたからな。

 たぶん、そこでナティは強くなったんじゃないかな?」


「魔界と人界の狭間………ですか」


「まぁ、もう少し先の話になりそうだけど」


「なんだか歯がゆいですね。

 まだそこに行けないなんて」


「ある程度強いことを証明しないと、先に進ませるわけにはいかないからな」


「証明ですか?」


「あぁ、近いうちにな」



 カタコト進む馬車がゆっくりと止まった。

 不思議に思い顔を出すと、フードを被った人物が見える。



「ユニ、ユーゴ、来てくれ」



 馬車の前の方に乗っているナティ先生に呼ばれて向かう。

 ツラックは、寝ているところをナティ先生に引きずられて運ばれていた。



「どうしたんですか?」


「緊急事態のようだ」



 馬車の前に立つ人物がフードを上げる。

 警戒して見つめるユニの目に、意外な人物が写った。



「サリナ‼ 何してるんですか?」



 懐かしい召し使いの姿を見て、思わず声を上げる。

 ときどき会ってはいたものの、段々とその頻度は少なくなっていた。



「お久しぶりです、ユニ様。

 この先の町で不穏な者たちを見つけ調べたところ、ユニ様や皆様を狙って、暗殺者が動いていることがわかりました。

 このまま進むのは危険かと………。

 しかし、これは私の考えですが、町を見たところかなりの数が雇われているようでした。

 このような場合、退路にも多くの敵が待ち伏せている可能性があります」


「進路も退路も塞がれているのか」



 ナティ先生が話を聞いて顔をしかめると、荷物をガサゴソとあさり始めた。



「なんでサリナが隣町にいたんですか?」



 純粋に疑問をぶつけると、サリナの視線がユーゴの方に飛んでいった。



「えっ、何ですか? どうゆうことですか?」


「えーっとな、ユニ。

 ずっと前、暗殺者シールに襲われたことがあっただろ?

 同じことが起こらないとも限らないし、ユニの知らないところでサリナさんに安全確認をしてもらってたんだ」


「実際のところ、良いように使われただけにも思いますが、今回それが役に立ったわけです」


「ちょ、ちょっと待ってください‼

 なんで教えてくれなかったんですか‼

 サリナがいるなら―――」


「―――いるなら気を遣っただろ?

 だから秘密裏に動いてもらったんだ。

 俺たちが自然に動けば、連絡を取れなくても、サリナは俺たちの動きを予測して動ける。

 逆に、サリナに合わせて動こうとすれば、互いに予測しあって動きが噛み合わなくなるだろう」


「確かに……そうですが、それでも言っておいてください」


「申し訳ありません、ユニ様。

 これは私の提案です。

 ユニ様には気を遣わずに自由に行動して欲しかったので、私の一存で決めさせてもらいました」


「………それなら、もういいです。

 でも次はちゃんと言ってください」


「わかりました、ユニ様」



 話が終わったところに、ナティ先生が地図を持って馬車から出てきた。



「サリナの言葉を信じて、戻るのは止めておこう。

 かと言って、留まるわけにはいかない。

 危険はあるが、視線の通りにくい森を通って暗殺者の集団を避ける。

 ただし、いくらか森に潜んでいるとは思うが」


「大丈夫なんですか?」


「広い場所は数の多い相手側に有利になる。

 森の中でも接触するかもしれないが、草原や沼地ではない森の中なら、最悪逃げることもできるだろう」


「あっ、そうだ。

 馬車はどうするんですか?

 道には暗殺者が待ってるんじゃ……」


「私たちが乗っているよりは安全だろう。

 関係ない馬車に見せかけて、ゆっくりこのままの道で来てもらう」



 サリナが加わり、五人がまだ日の落ちていない森の中に入っていく。

 五人を見送った御者は、冷や汗をかきながら、馬車をジリジリと進めた。



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