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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
海洋都市編
34/82

34. 海と魔獣


 海の魔獣にナティがとどめを刺し、祭は終わったかに見えた。

 しかし、魔獣が倒れるとすぐに、マッチョ達はきびきびと動き始める。


 魔獣に刺さった大量の銛を引き抜き、ノコギリ等の刃物を手に、魔獣によじ登る。

 人よりも大きな鱗を数十人で剥がし、壁のように連なるヒレを根元から切り落とし、腹を開いて内蔵を掻き出したり、目玉をくり貫いたり。


 魔獣の体は、全ての部位が高級な魔道具の材料になるため、我先にと良質な部位を求めて、マッチョ達は仕事を続ける。

 祭に参加してワイヤーを引いただけでもそれなりに給料が出るのだが、その後の魔獣の処理に一枚噛むことで、かなりの儲けが出る。

 人によっては豪邸を建てられるくらいだ。

 そのぐらい儲けが良いため、この祭に参加して一年分の生活費を稼ぎ、後は遊んで暮らすマッチョも多い。


 剥ぎ取られた部位はと言うと、そのまま商人に買われる。

 ただ、商人にそれを運ぶだけの力はないため、そこでもマッチョの仕事が発生する。

 マッチョ達にとっては天国に違いない。

 しかし、ここで儲けが出るのはマッチョだけではない。

 一度に大量に良質な材料を、毎年安定して得られる商人もかなりの稼ぎを生み出せる。

 商人達は危険を犯す必要がないのだから、美味しい話なのだ。

 こうしてWinWinの関係の彼らは、「これからが祭だ‼」とでも言いそうなほど、これまでよりも忙しなく働く。


 死んだ魔獣に集る人々を遠目に眺めつつ、ナティは山を登っていた。

 最近だと、あまりの儲けの多さに、祭の回数を増やす話まで出ている。

 勝手な話だ、とナティは思う。

 魔獣がくる度に土地はどんどん削れていく。

 それを防ぐために後で土嚢を積むわけだが、頻繁に祭を開催すれば、土嚢の地面が丸ごと剥がれることになりかねない。

 一槍の仕事も私がいつもしているが、学校が休みになる夏の時期でなければ参加できない。

 それと、回数を増やしすぎて、魔獣が集まるようになったら祭どころの騒ぎじゃない。

 まあ、私も稼ぎがいいから考えないでもないがな。

 学校運営には変わらず、お金がかかるし。


 そんなことを考えつつ、山の頂上に着いた。

 三人の生徒は海からの風を感じてのんびりと過ごしていた。

 


「三人共、待たせたな。魔獣の管理やら何やらで時間がかかった」

「お疲れ様です、ナティ先生」

「ナティ先生があんなにカッコいいなんて……知らなかった」

「なんか楽しそうにも見えたけど」



 ユニとナルミシアとツラックが口々に話し出す。



「どうだった?初めて見る海の魔獣は」

「やっぱり、大きかったですね」

「先生って毎年あんなのと戦ってるの?」



 祭りの話を聞いたことのあるツラック以外は興味津々だった。

 照れ隠しにオホンッと咳をして話す。


「最近は小さい海の魔獣が見つからなくてな。小さいやつを釣りたいのは山々だが、現実には年々大きなやつを相手にしている」

「へえー、魔獣ってあんななんだ」

「ナルミシア、それはちょっと違う。海の魔獣に限った話だ」

「えっ、なんで‼大きい方が強いのは陸でも同じじゃないの?」

「海の魔獣のあの巨体。あれを維持するのは大変なことだ。

日々食べる量はかなり多いだろう。それを陸でやるのは難しい。

まず海と陸では重力のかかり方が違う。地上には浮力がないからな。重たい体が崩れないように形をとどめるだけで力を使う。

そして、陸と海では地理的に大きく異なる所がある」

「異なる所?」

「平面と立体だ。海なら左右はもちろん、上でも下でもあらゆる方向から襲える。

しかし、陸だとそうは行かない。平面的に追いかけることが多いだろう。

それを巨大な魔獣がすればどうなると思う?」

「なんか、ズシンッズシンッ、って凄い勢いで追いかけるんじゃない?」

「そうだ。陸では振動で存在がバレやすい。追いかける前に逃げられるわけだ」

「じゃあ、おっきいのはいないのかー」

「あそこで解体されてる魔獣ぐらい大きいのはいないが、人と比べれば十分大きい。それに陸の魔獣は知恵のあるものが多い。厄介だぞ。魔王は特にな」

「へえー、そうなんだ」



 魔王には知恵がある。だったら交渉が出来るのではないか。

 ユニがその考えを口にしようか迷っている内に、ナティは山を下り始めた。

 

 海の魔獣が海辺に来たのは昼頃だったが、解体の手伝いをする内に日は沈み、辺りは暗くなっていた。

 夕食を終えて部屋に戻ったユニは、窓から外を眺めていた。

 ナルミシアとツラックは何かの勝負に熱中しているようで、暇だったユニは二人を放ってきたのだ。

 

 普段使われていない宿。

 言ってしまえば、宿どころか、この町そのものが夏の間を除いて使われていない。

 津波によって壊滅した町は夏のみ活気を取り戻している。

 しかし、それも明日には終わる。

 街灯もなく真っ暗な町の姿は、一年の内の大半がどのような様子かを教えてくれる。

 少しの時間とはいえ、楽しく、忙しく過ごした町を去るのはなんだか寂しい。


 物思いにふけるユニの視界に、ぼんやりと人の姿が見えた。

 二人の知らない人物が暗い闇の中、海辺に向かっている。

 体の大きさから、子供だとわかる。

 ユニに見られていることには気づかず、子供二人は歩きにくそうにしながら海を目指していた。



「こんな時間に海に行くなんて危険ですね。放って置くわけにはいきません」



 窓枠を乗り越えて、二階の窓から外に出る。

 空中で身体能力向上(ブースト)をして着地、闇の中を素早く駆け出した。


 子供は振り替えることもなく、スタスタと道を進む。

 思いの外その足取りは速いようで、なかなか追いつかない。

 遠くにいる二人の子供が足を止めたのは数分後だった。

 海はもう間近で、湿った岩の上で談笑を始めたようだ。



「やっぱり凄いなぁ、あの怪力。見た?一撃だよ、怖いなぁ」

「そんなこと言ってぇ、あーちゃんは慣れたんじゃないの?いつもあんなだし」


「あのー、楽しくおしゃべりしているところお邪魔します。その、こんな時間に外で遊ぶのは危ないですよ。海には魔獣がいるんですから」



 突然会話に割って入ったユニを、二人は怪訝そうに見つめる。

 近くでよく見ると、二人は幼く、男の子と女の子だった。



「ねぇ、それを言うんだったらお姉さんもじゃないの?こんな時間に外出て遊んでる人に言われたくないなあ」



 男の子が言った。

 ユニは心外だ、言いたいのを堪えて、言葉を紡ぐ。



「私は二人が海に向かってるのを見て、追いかけて来たんです。遊んでたわけじゃありません」

「わかったよ。お姉さんの言う通りすぐに帰るよ」

「良い子ですね。さあ、帰りましょう」



 随分あっさり言うことを聞くんですね。

 もっと抵抗するかと思いました。



「お姉さんに言われなくても、そのつもりだったけどね」



 視界が回転した。

 暗闇の中で浮遊感が体を包み、ユニはどこかに向かって飛んでいた。

 そして、体に衝撃が走り、水が口を塞ぐ。

 口に入った水は感じたことがないほど塩辛く、堪らず空気ごと吐き出してしまった。

 上も下もわからない海の中で、勢いよく着水したユニは沈んでいく。

 

 息をしないと‼でもどこに空気があるのかわからないッ‼


 雲が晴れた。

 波にのまれて振り回される体は、ただただわけもわからず、海の餌食になる。

 必死に目を開ると、月があった。

 3つも。

 ポツンと1つ、そして2つの並んだ月。

 意識が遠退く中、ナティの声が聞こえたような気がした。


 ナティ先生が、確か、溺れそうなときの対処法を、言っていた、ような。

 


「問題だ。溺れかけたらどうしたら良いと思う?」



 ナティの問いかけにナルミシアが素早く答える。



「息を吸うんでしょ」



 それを聞いてナティは言った。



「違う。もちろん息を吸うのは大切だ。ただし、溺れる人の大半が、それで逆に溺れる」

「どうゆうこと?」

「息を吸おうとするあまり、焦って水を飲んでしまい、それが肺に行く。水が肺に入った場合、水に慣れていて肺活量のある海の男でも、驚くほど一瞬で溺れて死ぬ」



 一息ついて、ナティはこう続けた。



「だからな、息を吸う前に、まずは落ち着け。息を吸えなくても人間は少しの時間なら問題ない。焦らず水面を目指せ。そうすれば最悪溺れたとしても……」



 ナティの言葉を思いだすと、自然に思考は落ち着いていた。

 思考が落ち着くと、苦しかった呼吸が少し和らいだ。

 体に加わる力に意識を向けると、体にかかる重力と浮力が上下を教えてくれる。


 月が1つの方が上、2つが下ッ‼



 上にある海面に向かう最中、気になって下を見た。

 暗い海の中に何かがいた。

 月明かりで見える輪郭には、ユニの体よりも大きく太い触手があった。


 月に見えたのは、月の光が反射した魔獣の目だったんだ。

 触手。体の大きさは魔獣。

 なら、タコかイカが魔獣化したもの。

 ん?タコ?ツラックの言ってたクラーケン!?

 でも、こんなところにいるなんて、そんなのありえないッ‼


 触手を見ると、長く伸びたそれは、海底を伝って町の方に伸びており、海の中へ触手が戻っていくところだった。


 もしかして‼あの触手に飛ばされたんじゃ‼

 今思えば、砂利の地面の感触じゃなかったような……触手を踏んでたんだ……。

 でも‼それなら子供達も巻き込まれてるはず‼助けないと‼

 

 クラーケンとおぼしき魔獣を凝視するが、子供の姿は見えない。

 魔獣の体は、月の光が届かない深い海の中に消えていく。

 魔獣の目に意思は見えず、ただ月の光を写していた。


 ユニの頭には疑問が浮かんでいた。

 ユニの考えが正しいと、クラーケンは夜の海辺に潜んでいたことになる。

 不自然な話だ。

 魚の魔獣を連れてきた昼に来るならともかく、魔獣を解体し終えて静まった夜に来るなんて。

 まるで、隠れるかのような行動。

 それは、海の魔獣に知恵があることを示す。

 そんなはずはない。

 でもそれで言うなら、魔獣、魔王に知恵があると言うのも不思議な話だ。

 群れの統率と言っても魔王がするそれは本質が異なる。

 知恵を使うものではないはず。

 だったら、ナティ先生の言った厄介とは……


 海面がすぐそこに見えたとき、体が沈んだ。

 水が下に向かって流れ始め、上に行くどころか、その逆、体が沈み始めた。


 そのとき、ユニは思い出した。

 ヒメカ元帥が、「巨大な魔獣が来るんだから、大津波が来るのは当然」、と言っていたことを。

 巨大な波の流れ。

 それは海に深く潜っていても同じなのではないか?


 もう少しで海面に手が届きそうなところで、ユニは波に呑まれた。



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