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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
海洋都市編
33/82

33. 一槍



「今だ‼かかれーッ‼」



 ナティの大声が響いた。

 荒れた波と大地を滑る魔獣の轟音。

 それに負けず、ナティの声は山に設置された装置の担当者の元へ届いた。

 担当者の魔法によって装置の内部に火が付けられ、火薬に引火。

 爆発音と共に大きな銛が発射される。

 ワイヤーを引っ張りながら飛んでいく銛は、魔獣の硬い皮膚に突き刺さった。

 魔獣を囲む山から次々と銛が飛んでいく。

 刺さったことを確認して、すぐさまワイヤーが巻き上げられる。


 その瞬間、魚の魔獣が跳ねた。

 ビタンッ‼、と地面を強く打ち暴れる。

 太いワイヤーが鞭のようにしなり、あちこちの装置から嫌な音が聞こえた。

 メリメリと装置が持ち上がり始め、ワイヤーは緩む。



「ワイヤーを押さえろッ‼死んでも放すなッ‼というか、放したら死ぬぞッ‼」



 ナティが大声で指示をして、それを聞いたマッチョ達がワイヤーに飛び付いた。

 暴れるワイヤーに怯むことなく、押さえ込む。

 しなるワイヤーによって宙を舞う者もいたが、鬼の形相でしがみつき、大地に叩きつけられても放そうとしない。

 ワイヤーを放せば、最悪、地面に落ちたところに、帰ってきたワイヤーが当たり死ぬこともある。

 例年参加する猛者ほどその事を理解している。

 そうして、何人ものマッチョがしがみつくうちに、暴れるワイヤーは動かなくなり、力の弱い者でも掴むことができるようになった。



「全力で引けーッ‼‼」



 マッチョ達が地面に足を突き立てる。

 魔法を使える者は足と地面を固定。

 更に魔法を使える者は肉体を強化する。

 そして、腰を下ろし、体重を後方にかけながら全力で引く。



「「「うおおおおぉぉぉッ‼‼」」」



 土や砂の地面は、大波が通りすぎた直後で湿っている。

 魔法を使えない者は足が滑り転ぶが、そんなことを気にせず何度でもワイヤーを掴んで引っ張ろうとする。

 魔法を使える他のマッチョが全力で引いており、彼らがワイヤーを押さえられなくなった瞬間、自分を含めた大量の死者が出るからだ。



「援護が来たぞッ‼踏ん張れッ‼‼」



 転ぶマッチョ達の元に、魔法使いが駆けつけた。

 中には船から飛んできた者もいて、既に疲労困憊ではあったが、それでも、他のマッチョがしているような足元を固定する魔法を施す。

 魔法を使えないマッチョの足元が固定され、全員で息を合わせてワイヤーを引く。

 多方面から魔獣が引っ張られ、だんだんと動きが小さくなる。



「よし、大丈夫そうだな。全員、ここは任せたぞッ‼」

「「「「「オッスッ‼‼」」」」」



 気合いの入った返事を背に、ナティは魔獣の正面から伸びるワイヤーに近づいた。


 今回の魔獣はでかいな。

 捕まえる魔獣が前年よりも大きいのはいつものことだ。

 しかし、このまま大きくなられては困る。

 何年か前の魔獣は巨大ではあったが、それは魔獣化する前の魚と比較した場合の話だ。

 少し前なら大人を何人か並べたぐらいの大きさだったが、今は縦の高さだけで、まさしく山のようだ。

 これでは、海の魔獣を捕まえて生態を調査するという最初の目標がなかったことにされてしまう。

 それが理由かは分からないが、未だに祭の名前が決まらない。

 今回のような大きいやつは仕方ないとは言え、商業目的だけになるのはなぁ……。

 そんな感じの名前になってしまうのだろうか?

 そうゆうのは好きじゃないな。

 まぁ、そうは言っていられないか。

 一度首を突っ込んだ以上、その責任は取らなければならない。

 ひとまず、この魔獣を殺すとしよう。

 これだけの人材が居ても、生きている状態では、私たちの手に余る。

 ただ一つ言わせてもらいたい。

 ヒメカ元帥が魔獣を探す役割なのだから、小さいやつを何とか探してほしい。

 やはり、探知系魔法は当てにならない、ということか……。



「姉御‼今が好機だ‼」

「姉御?」



 そんな呼ばれ方をされるのは始めてだった。

 誰かと思い、後ろを見る。

 すると、祭に参加するときに一悶着を起こしたあの男がいた。

 黒く焼けた祭の主催者ルイノールの息子だったか。

 名は…ルーダ、とか言ったな。


「お前か……」



 ルーダの顔は少し前に見たときと変わっていた。

 顔が酷く腫れていて、見ているだけで痛々しい。

 まるで誰かに殴られたみたいな……。

 まぁ、詮索はしないでおこう。



「あの、実は初めて二槍を任されまして、その、姉御が一槍とは知らずとんだ無礼を……」

「…………まぁいい。お前の二槍も重要な役割だ。気を引き締めてかかれ」

「了解ッス……」



 後ろの男のことは一旦忘れよう。

 人の心配をする前に自分の仕事をしなくてはならない。

 一槍という仕事をな。


 右手に持った太い槍を前方に構える。

 普通使われるような槍とは明らかに違う。

 まるで巨人用の武器のように、通常使われる槍よりも一回り大きい。


 どう考えても、何度使ってみても、扱いづらい。

 巨大な魔獣を殺すための武器だから仕方ないとは言えども、もうちょっと何とかなるだろう。

 魔法でどうにかするとか。

 …………………金の問題か。


 槍を魔獣に向けたまま地面を踏みしめ、跳躍する。

 そして、マッチョ達が押さえている正面のワイヤーの上に飛び乗り、走り出した。

 大きな槍を持った状態での綱渡り、正確にはワイヤー渡りだが、これはかなりの難度だ。

 巨大な魔獣の急所を突くためでなければ絶体にやらない。

 だが、残念ながら必要なことだ。

 超人的な感覚で左右のバランスを取りつつ、魔獣に近づく。

 

 魔獣の方もナティの存在に気がついたようだ。

 体の動きを止めて、大きな目で、自分に近づく人間を見つめる。

 その焦点がナティの持つ槍に合わさった。

 その瞬間、魔獣はナティが自分を殺そうとしているのを察し、またもや力強く跳ねる。


 振動によってワイヤーが上下に激しく揺れた。

 自分に向かってくるワイヤーの波を、ナティは冷静に見つめる。

 足元のワイヤーを左手で掴み、波に備える。

 山の形にワイヤーが変わり、体が上に引っ張られると同時、ワイヤーを引っ張り推進力を得る。

 ワイヤーが下に引っ張られ始めると手を放した。

 ナティの体が宙に浮く。


 何千、何万と繰り返してきたように、体に力を込める。

 血管を巡る血液が体に栄養を運ぶように、魔力が全身に力を与えてくれる。

 鍛えてきた筋肉は、重たい槍を持った状態でも体を意のままに動かしてくれる。

 魔法で強化した筋肉で強引に体勢を整えた。

 風が目に入るが、必死に目を開けて、目標を見定める。

 狙うのは目と目の間。

 魔獣の脳目掛けて一直線に槍を突き立てた。

 槍が深く刺さる。

 しかし、魔獣は体をひねり、ナティを振り落としにかかる。



「往生…際の……悪いやつだッ‼」



 槍には手で掴んでいる所の上の方に、赤く太い線が引いてある。

 ナティは槍の赤い部分を掴む。

 少量の魔力を込めた。

 魔力は槍の内部、火薬の詰められた筒の中に小さな火花を起こし、大きな爆発を引き起こす。

 太い槍内部で起こった爆発は、中に入っている槍を押し出し、発射された槍は魔獣の体奥深くを貫く。



「その命ッ‼貰ったッ‼」



 魔獣の体が一瞬、動きを止める。

 それも束の間、全身が激しく痙攣する。

 ナティは魔獣に振り払われるも、したり顔で着地した。

 マッチョ達が魔獣の痙攣を押さえ込むと、魔獣は一切動かなくなった。



「よし‼仕事終了だ‼」



 ナティの言葉を聞いて、マッチョ達はワイヤーを放り投げて喜んだ。


 ルーダはその光景を見て、動けないでいた。



「どうだ?ナティさんは凄いだろ?」



 ルーダのオヤジ、ルイノールが話しかける。



「………すげぇな…一人であの大きさの魔獣を倒すなんて……あり得ねぇ……」

「ナティさんが失敗したときのための二番目も必要なかったみたいだな」

「なぁ、オヤジ」

「なんだ?」

「俺も、あれぐらい強くなれるか?」

「………さあな……出来るんじゃねぇか?……俺の息子だからな」

「自信過剰だな」

「お前が言うか?」



 マッチョ達の声に混じって、家族の朗らかな笑い声が響いた。



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