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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
海洋都市編
31/82

31. 前日


 肌にまとわりつく湿気。

 体を覆う熱。

 不快感に耐えられずユニは目を覚ました。


 楽しい遊びの時間は終わっていた。

 ユニが目を覚ました時には既に、祭の準備のために参加者は奔走していた。


 祭の舞台。

 海の接する陸には、不自然にへこんでいる半楕円形の窪地があり、そこに海水が押し寄せている。

 それを囲むようにして、土と砂の混ざった平らな平野があり、更にその周りを山が囲んでいる。


 山には開拓された箇所がいくつかあり、そこから大きな機械が顔を出している。

 土台の上に細長い筒状の装置があり、その中には大きな銛のようなものがある。その銛には金属で出来た固く太い糸が繋がっていた。

 同じような機械が陸のあちらこちらにもあり、そこを中心として、人が忙しなく動いている。

 

 その忙しなく働く祭の参加者のほとんどが、それぞれに重要な役割を与えられている。


 海の魔獣を陸に引き上げるための機械を整備する人。

 その機械を補助する筋肉質な男達。彼らは物資運送等の役割もある。

 他には機械とマッチョを補助する魔法使い、等。

 そして見学の生徒三人を含むその他。


 生徒三人は元から祭を見るために参加したので、役割は与えられていなかった。

 しかし、「猫の手でも借りたい」、と祭の主催者に言われたため、三人にも出来る仕事を任されていた。

 

 力が弱く、機械には疎く、魔法はあんまりな三人が出来る仕事。

 それはつまり……使いっぱしり、だった。


 仕事内容は至って簡単。

 そこら辺の忙しそうな人だかりの中心人物らしき人に、「雑用ありますか?」と聞く。

 すると、他の職人には任せられないような下らない雑用が回される。

 例えば、「このメモを誰々に渡して」とか、「この箱に入ってる部品、余ったから倉庫にいれといて」と言ったものである。


 役割のある人が多いため、逆に雑用の仕事が溢れていた。

 しかし、処理しなくても邪魔な物はそこら辺に置いとけば問題ないため、大半が放置だ。


 そして、大半が放置されていたため、三人は休む間もなく、テントや倉庫や人との間を往復していた。


 最初、ユーゴも三人に混ざって雑用をしようとしていたが、ニコニコしたマッチョ二人組に挟まれて、何処かに連れていかれた。



「10番宿舎の人から報告です」



 ユニが大きめの声で言う。

 在庫が足りているから他に回すように、と伝言を伝えると、倉庫の鍵を1番宿舎に返しといて、と雑用を頼まれる。

 こんな感じで、いく先々で雑用のリレーを繰り返す。

 終わりは見えない。

 というか、たぶん終わらない。

 出来るだけ雑用を減らしといて、という感じの頼まれ方だったので、頑張るのはほどほどにしておいた方が良さそうだった。


 私としては全部処理したいんですが、けっこう些細なことで頼まれたりするので、倒れない程度にしないといけないですね。

 砂と土の地面は焼けるように熱いですし、靴を履いても地面からの照り返しと太陽光に挟まれたら、さすがにしんどいです。

 でも、この暑さの中、肉体労働をしている筋肉もりもりの人はもっと大変でしょうね。



 そんなことを考えていると、目の前をフラフラと歩く人がいる。



「だいじょう………あっ………」 


 干からびて艶のない顔のその人物は、ユーゴだった。

 ユーゴは砂漠で水を求める遭難者の如く、足元のおぼつかない状態だったが、突然、バタッ、と倒れこんだ。



「ユ、ユーゴッ‼」





 気がつくと分厚い背中からベッドに降ろされるところだった。

 ひんやりとした空気が火照った体を包む。

 快適だ。このまま寝てしまいたい。

 だが、理性でそれを押さえ込む。

 重たい瞼を開けるとそこには―――――マッチョな男がいた。


 いや、誰だよッ‼



「あ、目を覚ましたみたいですよ」

「そうみたいだね。大丈夫?意識あるかい?」

「……あぁ、大丈夫………って、ここ何処だ?」

「大丈夫じゃなさそうですね」



 見知らぬマッチョの横にはユニがいる。

 その姿を見た瞬間に、状況を理解した。



「君、熱中症だろうね。土嚢を運んでる最中に倒れたの覚えてる?」

「何となく……思い出した」

「医者を呼んどいたからもう少しで来ると思うよ。それはさておき。君、炎天下で無理しちゃダメって言われただろ?」

「途中で投げ出して休むのは気が引けたもんで」

「そんなこと気にしちゃダメだよ。遠慮なく休むんだ、いいね?」

「はい、ありがとうございます」

「それじゃ、僕は行くよ」



 名前も知らないマッチョは仕事に戻った。

 炎天下での作業はあのマッチョでも大変だろうに、弱音を吐くこともせず、仕事に取りかかる。

 今更だが、この祭にはいい人材が揃っている。

 筋肉だけで、この祭の重労働についていくのは難しい。

 魔法で体を強化している者が大半だろう。

 魔法と筋肉、両方を身に付けている人間はそこまで多くはない。

 運営の黒焦げマッチョやナティの人間性がそういった人材を集めるのだろうか。



「何ぼーっとしてるんですか?大丈夫ですか?」



 そういえば倒れる直前、ユニの姿が視界に入っていた。

 ユニが助けを呼んで、近くにいたさっきのマッチョに運ばれたわけだ。



「大丈夫だ。ちょっと考え事をしてた」

「………本当に大丈夫ですか?その……言いにくいですけど、ユーゴは勇者だった頃とは比べ物にならないほど弱くなってるみたいですし、無理は禁物ですよ」

「いや、元はと言えば俺を連れてったマッチョ二人が原因で…」

「休憩は出来たはずですよ」

「…………………それは……そうだな…」



 弱い……か。

 何も知らなかった頃のユニは間違いなく俺に教わる存在だった。

 しかし、それもいつの間にか変わっていたようだ。

 剣を学び、魔法を学び、ナティという強者を知ったユニには俺の弱さが理解できるようになったのだろう。

 普通に考えていれば気づくようなことに今の今まで気づかなかった。

 ユニが、俺よりも強くなるということに…………。


 いや、まだだ。

 まだ教えるべきことがたくさん残っている。

 俺の役割は終わっていない。

 俺はまだ強くなくてはならない。

 呪いの刻印の解除をリーナに期待しているだけじゃダメだ。

 

 強く、ならなくては。



「ユーゴ、明日は本番ですよ。大丈夫ですか?」

「大役を任されているわけじゃない。なんとかなる」

「なんだか心配です」



 明日は祭本番か……。

 よし、明後日から頑張ろう。



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