3. 王都に呼ばれました。
もぐもぐ
帰宅途中、お腹が空いたので熊肉を焼いて食べることにした。
落ちていた木と魔法の火で軽く焼く。
そして、いつも通り焦がして黒っぽくなった肉を口に運ぶ。
「ぎりぎり食えるな。成功だ」
口の中がパサパサするのを気にせず帰宅を続行する。
残りの肉を燻製にすれば料理が下手な俺でもおいしく味わえるからだ。
身体能力向上して長い間走り続け、ようやく家にたどり着くとあることに気がついた。
「数名分の足跡……ちょっと重いな。装備を身につけているのか。装備を着ていてわざわざこんなとこに来るやつか……。」
迷わず扉を開けると、中にいたのは王宮でよく見る鎧を身に着けた兵士だった。
兵士は談笑をしていたようだが、扉が開くとすぐに立ち上がる。
慌てて敬礼しようとしたが、ユーゴの顔を見て何かを思い出したらしく途中で止めた。
扉が開いた瞬間、トランプで遊んでいたのは見なかったことにしておこう。
「第四の勇者ユーゴだな。国王様直々に御命令だ。
王都アーツで国王様の孫娘ユニに武術を教えるようにお達しが出ている。
すぐに王都に向かえ。」
言い終わると、兵士達は質問をする時間を与えずに、慌ただしく帰っていった。
「王様の孫娘の面倒を見ろってことか…。
他にましなやつは山のようにいると思うが………どうせ勇者の名前を都合よく使おうとしてるんだろ。
断ればどんな目に会うのか。
……家を焼かれるとかだったら地味に嫌だなぁ。」
結局、肉を保存食にしてから久しぶりの王都を観光するために出掛けたのだった。
王都までは結構な距離がある。
馬車を見かければ、何とかお願いして乗せてもらい、数週間をかけて王都にたどり着いた。
王都は相変わらず真っ白で清潔感に溢れており、太陽の光りを反射して眩しい。
周囲の高そうな衣装に身を包んだ人々は、不格好な俺を睨んでいる。
一部の人間は第四の勇者ユーゴだと気づいたのだろう。
ひそひそ話は次第に大きくなっていった。
王宮の門番に長い間足止めされた後、応接室につれていかれた。
王宮の中は何度も来たことがあるのに、空間に漂う厳かな雰囲気はやはり苦手だ。
俺が部屋を見渡していると質素なドレスを着た銀髪の若い少女が入ってきた。
興味深そうに部屋を覗き込んだ少女はユーゴを見るなりため息をついて言った。
「あなたが元勇者さんですか。
私はあなたの教え子になるユニです。よろしくお願いします」
戦いとは無縁に見える少女は形式的に挨拶をした。
ユーゴを見つめるその目はユーゴを見ているようで、どこか違うところを見ている。
あぁ、これはあれだ。ハズレ引いたときの顔だ。
先生はどんな人が来るのかなって考えてたら、元勇者って馬鹿にされてるヤツが来て幻滅してるときの顔だ。
多分。
まったく、会ったことがない人物を噂だけで決めつけるとはな。
弱くなっても、ある程度できるってことを見せてやらないとな。
……………そういえばボロボロの服のまま来たんだった。
もしかして……これのせいかな……。
あれこれ考えていると扉が開き、老いて白い髭を生やした国王クローテスが入ってきた。
兵士を連れていないのは無用心に見えるが、このじいさんなら俺が襲っても返り討ちに合うだろう。
元帥の次に強いと言われていたこともあるとか。
「ユーゴ。見ない間にずいぶんと品がなくなったな。
王宮に汚い服を着てくるとは。やはり元勇者ということか。
まぁ、それでも勇者に変わりはない。わしの孫娘に戦い方を教えろ。
もちろん、報酬は出す」
国王は俺を見た途端、わざわざ話をしに来たのにも関わらず話を終わろうとした。
「ちょっと待ってくれ‼なんで俺なんだ、適任は俺じゃないだろ‼」
「貴様が知る必要は無い。言っておくが拒否権も無い。逃走すれば命の保証は無いぞ。お前はただ黙って言うことを聞け」
国王クローテスはそういうと質問に答えず部屋を出ていった。
部屋には事情がよくわからず困惑したままのユーゴと、クローテスの言葉を聞いて落胆しているユニが残された。