27. 試験
日差しが夏に向けてジリジリと暑さを増していた。
しかし、未だ冷たい風が体を冷やす。
ボオッ、と空中に火玉が現れる。
手もとから数メートル先に飛んだ火玉は、地面に立てられた丸太に直撃する。
余り火力がなかったのか、丸太は焦げ跡すらなく、地面に刺さったままだ。
「次の人」
はい、と返事をして、目印の上に立った。
暑すぎず、寒すぎずの快適な気温ですね。
いい感じです。
この前一人で練習したように、火球を生み出し、丸太にぶつけた。
丸太は上部が破壊されて丸く欠け、全体は黒く焼け焦げた。
「よしっ」
心の中で「絶好調です‼」と呟いて、元の場所に座った。
隣には仲良しのナルミシアがいたが……、表情は暗い。
「ユニちゃんは凄いなぁ………あはは………」
「ナルミシアも……頑張ればなんとか………」
「…………………………………」
確認しよう。
王都第一魔法学校は『学校』だ。
学校とは生徒が学ぶ場所であり、学校は生徒が学んでいるかどうかを定期的に調べる。
試験、という形で。
とは言っても、現在、王都第一魔法学校は貴族の三男が集まるような落ちぶれた学校だ。
そんな学校のテストに合格することは難しくないし、簡単だ。
生徒の中には、テストの日は学校の授業がないから楽、と言っている者もいる。
その程度なのだ。
しかし、その程度のテストに合格するのが非常に困難な者がいる。
ナルミシアだ。
「次の人」
ナルミシアは立ち上がり、緊張した面持ちでテストに挑む。
ナルミシアが立った瞬間に、ユニ以外の生徒は少しずつ後ろに下がった。
「(落ち着いて、大丈夫。ユニちゃんがやったみたいに火を起こす‼)」
ナルミシアの手の上で炎が渦巻き―――――爆発した。
それなりに大きな爆発だったが、よく爆発させるナルミシアは、体から煙を上げる程度で済んだ。
カサミナの「次の人」という声に促されて、元の場所に戻る。
悲壮感溢れるナルミシアが座った場所の周りには、煙から逃れるために、誰も座っていない。
あわわ、とユニが慌てて近寄ってくるが、ナルミシアは地面を見つめて動かなかった。
「こんなの無理に決まってるじゃんッ‼」
ナルミシアの大きな声がお風呂場に響く。
他の女子生徒たちはビクッと驚き、そそくさとお風呂場を後にした。
最初は数名いたお風呂場に、今は二人。
うえーん、と泣くナルミシアとそのナルミシアを洗うユニ。
ナルミシアは魔道具のシャワーも使いこなせないので、爆発で汚れた体を洗うにもユニに手伝ってもらう必要があった。
ユニはシャワーの効能でナルミシアの汚れを落としつつ、抱きついてくるナルミシアの頭を撫でる。
頭を撫でるのは洗うためではない。
魔力を込めればシャワーが自然と汚れを落としてくれるのでその必要はない。
ユニはナルミシアを慰めるために撫でた。
ユニの小ぶりの胸に泣きつくナルミシア。
ユニが視線を下に向けると、自分の小さな胸の下に、大きな胸が揺れていた。
「いいなぁ……」と思いつつ、時間が迫っているのを感じる。
ゆっくりと休んでいる暇はない。
他の生徒にはあるのだが、ナルミシアにはない。
悲しいかな。
テスト不合格者には補講があるのだ。
ナルミシアは特別に、テスト当日に補講がある。
ナルミシアの固有魔法想念伝達。
自身と他者を魔法で繋ぐことで、無言で会話できる特別な魔法。
しかし、それがあるせいで他の魔法はろくに使えない。
固有魔法の代償は大きかった。
そんなわけで、テストを突破することはほぼほぼ不可能だった。
学校側もそれはわかっているので、テスト当日に補講が入るのだ。
少し時間に遅れながら、ナルミシアと付き添いのユニは補講の場所にたどり着いた。
やさぐれた様子のナルミシアを見て、補講を担当するナティはため息をついて言った。
「ナルミシア、さっさと終わらせて遊びに行ったらどうだ?真面目にやれば補講ぐらいすぐに終わる」
魂が抜けたように虚ろな目のナルミシアは魔法を発動する。
―――――――――――――<接続>――――――――――――
ナティの頭の中で、ザザッと騒音が響き、ナルミシアの声が聞こえた。
――――――――繋げたよ………―――――――――――――――――――――
―――よし、いい感じだ。ただ、ちょっと接続時の雑音が大きい。雑音が小さくなるように、もう一度接続してみてくれ――――――――
――――――はい………―――――――――――――<切断>――――
深呼吸を一回挟み、もう一度、想念伝達を行う。
―――――――――――――――<接続>――――――――――
ナティの頭の中に、ササッ、と先程よりも小さな雑音が響く。
―――――――――繋げたよ……――――――――――――――――――――――
―――――良くなっている。その調子だ。次は横にいるユニにも同時に繋げてくれ―――――――――――――
補講開始から30分後、合格扱いになり、ナルミシアの試練は終了した。
「こ、これでもう、夏休み一直線ですよ。後は楽しいことだらけです」
「うん……」
ナルミシアにはいつもの元気がなかった。
「どうします?遊びに行きますか?」
「うーん……、もう寝る」
「そ、そうですね。疲れたと思いますし、今日のところは休みましょう」
ユニはナルミシアの元気が出るように明るく接したのだった。
その後、ナルミシアの大きな胸に、ユニの顔は挟まれていた。
心地よい感触ではあったが、抱き締められていて脱出できず、ユニは空気を求めてもがいた。
ユニは、『寝る』というのが『ユニを抱き枕にする』と同じ意味ということに、遅れて気付いたのだった。




