25. 昼食の席
三人の元帥とナティ、ツラック、ナルミシア、ユニの食事が始まった。
始まったと言っても、この状況で手が動いているのはツラックとナルミシアぐらいだった。
「いやー、お越しの皆さん。
こちらの不手際で迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした。
ここにいると曜日感覚がなくなってしまうため、うっかりしてました」
自己紹介を終えた直後、クロノ元帥は謝罪をした。
柔和な印象の人物だ、とユニは思った。
悪い人ではなさそうだが、何だか信用できない雰囲気もある。
「いえいえ、このようなこともあるでしょう。
気にしてはいません。
それよりも、いつもと同じではありますが、お願いしたいことが……」
罠にはまって檻に入れられたナティ先生は一番の被害者だが、気にした様子もなく、話を進めた。
「大変言いにくいことなのですが……その件はお断りさせて頂きます。
夏の催しには参加するのでどうか、ご勘弁を」
考える様子もなく、決められたやり取りをするように、クロノは内容を聞かずに断る。
横から腕をつつかれた。
「…ねえねえユニちゃん、お願いって何のこと?」
「魔王討伐に参加をしてもらうって話です。バベルに入るときに話しましたよ」
「そうだったそうだった」
「あれ?そういえば魔王討伐に参加しない理由は何なの?」
「それは……知りません……」
向かいの席で、クロノが申し訳なさそうな顔をした。
聞こえていたようだ。
しかし、その質問に答える様子はない。
気まずい雰囲気を無視してナルミシアが聞いた。
「なんで魔王討伐しないんですか?人類最強って聞いたんですけど」
「ははっ………」
クロノは笑って誤魔化す。
左のボサボサ頭の元帥や右のヒメカ元帥に目を向けたが、二人は助け船を出す様子もなく無言だった。
何か事情があるようですけど、元帥と呼ばれる人達が気にするほどの何かがあるんですか?
……もしかしたら、それほど強い人達だからこそ、わかることがあるのか。
「余りそれについて話す気はない。
ただ1つ言えるのは、私たちにも考えがあるということだ。
そして、その考えを現実にするためには……何と言ったらいいだろうか………」
言葉を濁すクロノを見て、面倒臭そうにボサボサ頭の元帥が言った。
「クロノさん、もう言ったらいいじゃん。
俺達は、なりふり構ってられない状況なんだしさ。
協力をしてもらうのがいいでしょ」
見た目に反してボサボサ頭の元帥はまともなんですね……。
ってそれよりも、元帥がなりふり構っていられない状況?協力?
クロノはそれでも悩んでいたが、ポツリポツリと言葉を選びながら話し出した。
「元帥と呼ばれる我々は1つの目標を持って動いている。
その目標とは、『第一の魔王討伐』だ」
王都第一魔法学校の教科書にはこう書かれている。
『約二百五十年前、人類が繁栄していた大陸に第一の魔王(名称不明)が現れた。
人類はなす術なく蹂躙されたが、そこに魔法を自由自在に使いこなす者(現在は元帥と呼ばれている)が現れ、第一の魔王と戦った。
戦闘は引き分けに終わり、生き残った人類は大陸の西に、第一の魔王は大陸の東に移動し、人類は人界を、第一の魔王は魔界を作った。
その後、第二の魔王マス・エレメントが、魔界から人界に、最前線を破って大侵攻し……』
教科書に「第一の魔王とは引き分けた」って書いてあるんですよね…。
その、第一の魔王が第二、第三の魔王を産み出しているって言うのが定説です。
第一の魔王は不老で、討伐しなければ新しい魔王は何百年経っても産まれ続けるから、いつか第一の魔王を討伐しなければならない。
よく聞く話ですね。
そのことを、クロノ元帥は言っているようです。
「あの、それって元帥でも倒せないくらい、第一の魔王が強いってことですか?
でも、それなら他の人がいたところで、どうにかなると思えないんですけど」
「いや、違うんだ」
クロノ元帥はこちらを、特に私を見て、何かを考えているようだった。
「第一の魔王は強い。
しかし、我々元帥が倒せない理由は、少し特殊なんだ。
ただ、これ以上はまだ聞かない方が良いだろう。
次の魔王を討伐するつもりのユニさんは」
「ちょっと待って下さい。
何で私の名前がそこで出てくるんですか?」
「君は恐らく第一の魔王討伐に欠かせない人物の一人になるだろう。
これ以上の話を知りたいなら次の魔王を討伐してからだ」
「次の魔王討伐って、来るかどうかもわからないのに、適当なことを言わないで下さい。
それに私は苦しい生活を送っている人を救いたいだけで、第一の魔王を討伐するつもりはありません‼」
「庶民を救いたいなら、なおのこと君は第一の魔王を倒すべきだ。
そうすれば、地方の貴族も魔王襲来を恐れず、庶民の暮らしを改善していけるだろう。
それと、次の魔王はそのうち来る。
遠くない未来に、間違いなく」
ピリピリとした雰囲気になっていることに、クロノは気付き、口を固く閉じた。
もうそれ以上のことを話すつもりはないように見える。
先程あえて空気を読まなかったナルミシアも、さすがにそれ以上の質問はせず、それぞれに昼食を食べ始めた。
帰りもワープゲートを使わせてもらい、ナティと三人は太陽が遮られて暗くなっているバベルの入り口に出た。
外に出ると、朝早くに入ったにも関わらず、太陽はバベルの後ろ側に隠れ、バベルの長い影が足下に伸びていた。
影の外に生える草花は西日で赤く染められ、元の色がわからなくなっていた。
来たときと同様に、草花を踏みしめて王宮に帰る。
「三人とも今日は来てくれてありがとう」
「でも、結局、魔王討伐する気ないみたいだったけど」
不満そうに言うツラック。
「それでも今回の訪問は大成功だ」
「何でですか?」
「第一の魔王討伐の話は私も始めて聞いたんだ。
少し卑怯ではあったが、クロノ元帥の子供への気づかいを利用した甲斐があったようだ」
「そんなに大した情報ですか?」
「これまでは、
『元帥は魔王討伐が恐くなったんじゃないか』
『魔王討伐を諦めたんじゃないのか』
という声が少数だが、確かにあった。
そんなことはない、と言いつつも内心では元帥に不信感を抱く者は多かったと思う。
それが今回の話で否定されたわけだ。
鈍化していた魔王討伐の流れが変わるかもしれない」
「はぁ、そうなんですか……」
「あんまりわかっていないようだな。
仕方ない、それなら……ご褒美に好きな物を奢ってやろう」
「「ッ‼」」
「肉料理の旨いお店で」「疲れたし甘い物が欲しいなぁ‼」
欲望に忠実なツラックとナルミシアを見て、ナティ先生は満足そうに笑った。
「ユニはどこがいい?」
「美味しい料理ならどこでもいいです」




