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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
海洋都市編
24/82

24. 変質者注意



「あら、この子可愛い‼」



 灯りのない暗い部屋で、人の胴体ほどの大きさのある水晶を覗きこむ女性が言った。


 元帥であることを示す、金の刺繍が入ったローブを羽織り、フードを目深に被る姿はどうみても怪しい人だ。

 この様子を見て関わりたいと思う人は少ないだろう。


 そんな怪しい人に「可愛いっ‼」と言われたのは、バベルの塔内で道に迷うユニだった。


 迷うと言ったが、正確な言い方ではない。

 ユニとナルミシアは現在、来たことのない場所にいる……わけではない。

 その逆、来たことのある場所にいた。


「さっきと同じ場所にいる」と最初に気づいたのはユニだった。


 同じ景色が続いていたためすぐにはわからなかったが、ほんの少し開いた扉の様子から、数分前にいた部屋の前に戻されたと勘づいたのだ。



「ねぇ、これ、どうする?抜け出せないよ」



 部屋の中で椅子に腰かけたナルミシアは気だるそうに言った。



「諦めても何も変わりませんよ。とにかく動きましょう」


「そうは言ってもねぇ。

 全力で走ってみたり、部屋の中を調べたりしたけど何もなかったよ」


「シャキッとしてください。

 疲れたのはわかりますが、このままだと死ぬまでこの部屋と廊下で過ごすことになりますよ」


「うへぇ、そんなぁ。まさかバベルから帰って来られないってのが本当だったなんて」



 同じ場所にいる、と言っても移動距離はかなりあった。

 身体強化系の魔法を使えないナルミシアは疲れが溜まっているのかもしれない。

 ユニはナルミシアを一旦休ませることにした。



「ちょっとだけ休憩時間を取りましょうか」


「『ちょっと』ってところ以外は賛成~」



 部屋の中は椅子やベッドなど生活に使うものは一通り揃っている。

 しかし、お菓子や飲み物は置いていないので、ナルミシアが満足をするような休憩をとることはできない。



「ユニちゃん、ベッドがふかふかだよー、いっしょに寝ない?」


「休憩は終わりです、移動しますよ」


「えぇー、まだ早いよー、今はお昼寝して体力を温三するのがいいんじゃない?」


「ダメです」


「ほら、怖くないよー、おいでおいでー‼」



 困った人ですね。

 本当にお昼寝を始めそうです。

 ここは厳しくいきましょうか。



「おいでおいでー」

「行きますよ」


「「おいでおいでー」」

「だから行き………?……今……もう一人……声が……」



 「ゆ、ユニちゃん‼」と慌てたナルミシアの指差す方向を見ると、扉を少し開けて、こちらを覗きこむ女性がいた。



 こわッ‼ややッ、ヤバイ人ですッ‼

 絶対関わらないほうがいい人ですッ‼



「ユニちゃんッ‼ヤバイ人だよッ‼変態ってやつだよッ‼

 『おいでおいで』って言ってるよッ‼」



 あなたも言ってましたよ?



「ユニちゃんは私が守る‼」



 ガシッ、と抱きつかれたユニは邪魔そうにナルミシアを押し退けた。



「ふざけないでください‼危険な相手だったらどうするんですかッ‼」


「で、でも、ほらっ」



 扉は完全に開いていて、いつでも入れる状態だ。

 しかし、怪しい女性は「あれ?あれ?」と言って、大きな水晶球が入り口に引っ掛かって入れないでいた。


 何やってるんですか、あの人。

 それにしても、あの人が着ているローブ。

 金の刺繍が入ってるってことは……、もしかして元帥だったり…します?



 女性は諦めたらしく、水晶球を地面にぽいっと投げ捨てて部屋に入ってきた。



「えぇ‼高価なものじゃないんですかッ!?」


「うん?あぁ、大丈夫大丈夫。

 あれは頑丈だから、そう簡単には壊れたりしないよ。

 それよりも‼」



 怪しい女性はナルミシアがやったように、ガシッとユニに抱きつき、頭を撫で始めた。


 フードを目深に被っていたので気づかなかったが、両目を覆うように、模様の描かれた目隠しをしている。



「あの、もしかした元帥……様ですか?」


「元帥なんて堅苦しい呼び方はしなくていいよ。私のことは『ヒメカ』って呼んでね、特別だよ」


「ヒメカ……さん、ですか」


「変わった名前だね」



 ナルミシアが横から言う。



「ちょ、ちょっと、失礼ですよ」


「フッ、お姉さんは寛容だから許してあげよう」


「お姉さん?お姉さんというよりはおば……やっぱ無しで」


「……よろしい」


 ヒメカと名乗った元帥は、目隠しをした状態で大人げなくナルミシアを睨んでいた。


 あんまり寛容ではないような……。



「さて、私がここに来たのは君たちを広間まで連れていくためだよ。ついてきて」



 扉の外には、ナティ先生が吸い込まれたものと同じに見える黒いモヤモヤがあり、それに入った。


 ゴロゴロと後ろから重たい物が転がる音がして振り返る。

 ヒメカがぽいっと廊下に放り投げた大きな水晶球が、後ろを転がって来ていた。


 モヤモヤした空間に入ると、中は洞窟のようになっていた。 

 所々、壁から生えるうねうね動く黒い手が、所在なげに空を掴んでいる。



「ごめんなさいね、今日来るってことをすっかり忘れていたわ。

 だから特別に今回はワープゲートを使っているの。

 普段は使ったらダメなんだけど」



 ユニはこの時、ヒメカが「この子が……そうなのね、フフ」と小さく呟くのを聞いた。


 ワープゲートを通り抜けると、色とりどりの松明でお祭りのようになっている広間に着いた。

 部屋の真ん中には複数人で使う長方形の机がある。


 その上には、出来立てで湯気の立っているパンや鳥を丸ごと焼いた料理、甘ったるそうなお菓子に果汁の飲み物が置いてあった。


 長い机の一方には、着ているローブから元帥と思われる二人の人物が座っていて、もう一方にはナティ先生とツラックが座っている。



「ツラック‼生きてたんですね‼」


「途中でナティ先生に会ったから何とかなったよ。

 石像を壊してもらえなかったらヤバかった」



 ツラックは真面目に返答しながらも、その視線は時々、丸焼きの鳥肉に注がれていた。

 いつも通り緊張感のないツラックに安心しつつも、ツラックの様子を見ているとユニも空腹を感じた。



「さあさあ、そちらのお嬢さん方も席についてお昼の食事にしましょう」



 元帥の一人、クロノが言う。

 ユニとナルミシアはツラックの横の席に座り、元帥との食事が始まった。



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