21. 朝食は欲望の味
勢いよく地面を踏みしめる。
同時、靴の底に摩擦増加の魔法を発動し、地面を蹴る全ての力を推進力に替える。
最後に、魔法の使用を止めて靴が地面を離れると、ユニの体は砲弾のような速度で前に飛び出した。
今まで何回もしてきた基本動作は、滑りやすい砂の地面でも自由に動き回ることを可能にする。
風を受けながら手の中にある練習用の剣を握りしめた。
敵は黄金の鎧に身を包んだナティ先生。
体がまるごと隠れるほど大きく分厚い金の盾を前面に構え、私の攻撃を待っている。
今回の戦闘はハンデとしてナティ先生は剣を持っていない。
胴体部分の鎧に一撃加えれば、私の勝利。
「ていやーッ‼」
戦闘開始の合図をナティ先生がした二秒後、離れた位置にいた私の剣がナティ先生の盾に降り下ろされた。
ガキーンッ、という大きな音とともに剣と盾がぶつかる。
魔法で地面に引っ付いて剣に力を込め続ける私を、輝く兜の奥からナティ先生が見つめる。
「私に力押しは無理があるんじゃないか?」
「やってみないとッ……わからないですよッ‼」
私は全力の力押しで声を震わせているのに、ナティ先生は全く力を使っていない。
「生徒に全力を出すつもりはない。
わかっているのか?これは手を抜いているんだ。
魔王の攻撃を受け止めてきた私相手に、それは通用しない。
出直してこいッ‼」
盾が突然凄まじい力で押され始める。
ナティ先生は離れようとした私ごと盾を振り払った。
<シールドスマッシュ>
ユニの体がまたもや砲弾のような速度で飛び出んでいった。
ただの基本技だが、ナティがすると途端に即死級の攻撃になる。
もちろんナティは手を抜いている。
その上で人間砲弾になってしまうほど、ナティの怪力は想像を絶していた。
ユニはそのまま勢いを止められずに壁に衝突した。
ミシミシと体が軋むが、体を強化しているためケガはない。
「やっぱり力押しは無理みたいですね。だったらッ」
もう一度、魔法を使い、高速で接近する。
立ちはだかる盾で視線が途切れた瞬間、盾の外側に横移動、ナティ先生の背後を目指す。
ナティ先生は強いです。
この動きも読まれているから対処してくるでしょう。
そこが狙い目です。
振り返って対処する瞬間にスピードを上げれば……
……あれ?
なんでいつまでたっても後ろを取れないんですか‼
というか、それ以前に盾の横に回り込めない‼
周囲の景色がぐるぐると移り変わる中、ナティの盾はユニを捉え続けている。
筋力でナティ先生に勝てないにしても、速さなら勝てると思っていたんですが……。
そんなことはなかったみたいですね…。
でも、ナティ先生が持っている分厚い盾は重たい。
だったら突然の切り返しには反応できないはず‼
右回りし続けていたユニは、足元に摩擦増加の魔法を使い左回りに移動、体を回転させて剣を全力で叩き込む。
…………ッ‼見えた‼ナティ先生が違う方向を向いてる‼今だッ‼
ゴスッッッ‼
鈍い音がしてお腹に激痛が走る。
盾の後ろから表れたナティ先生の右拳が私のお腹に突き刺さり、私の体がくの字に曲がる。
「くはッッ‼」
スピードが仇となり、私のスピードとナティ先生のスピードで加速された拳が、私のお腹をメリメリとえぐる。
一瞬動きが止まった後、ナティ先生が拳をそのままの力で振り抜く。
私は地面を跳ねるように転がった。
「スピードはユニの専売特許ではない。
対処される可能性を考慮すべきだ」
「うぅ、はいぃ、…………………おええぇ」
「「「あっ」」」
「少し強すぎたか………いや、これぐらいは受けられるようにしないとだしな」
「や、ヤバイ、ユニが殺される‼」
「ユニちゃんが死んじゃうッ‼」
観戦していたツラックとナルミシアが悲鳴を上げた。
「別に殺したりしない。
それよりもツラック、お前は来ないのか?
私は二体一で良いと言ったはずだが」
「あー、ちょっとお腹が痛くなってきたんで帰ります」
「嘘をつくな、指輪で嘘をついているのはまるわかりだ。
ユニのように殴られた後ならまだしも、殴られていないお前を腹痛で返すわけないだろ。
せめて一発受けてからいけ」
「いやいやッ‼一発で死ぬッ‼余裕であの世に逝っちゃう‼」
「情けないやつだな、それにナルミシア‼
サボってないで想念伝達をしろ‼」
「やってますよー、繋げては切ってまた繋げて、ってこれ、けっこう疲れるんですよ‼」
「それしかしてないんだから、もうちょっと頑張ったらどうだ?」
「無理ですー。これが私の限界ですー」
「全く、どいつもこいつも……」
ナティの指輪が鎧の下で光り、鎧と盾が指輪に吸い込まれるようにして消えた。
その後、別の指輪が光り始めユニの治療を始めたが、オロロロロと吐き続けるユニを見かねて、今日の練習は中止となった。
「ユニ、大丈夫かな」
「ユニちゃんの柔肌が仇になるなんて……」
「………それにしても今だに信じられないな、あの話」
「悪魔の死骸が埋まってるってやつだね。
私達三人にだけ特別に教えてくれたみたいだけど、練習に参加しないといけなくなったという。
………トイレ掃除も嫌だけど想念伝達をたくさん使うのもねぇ」
「たくさん使うとなんかあるのか?」
「疲れる」
「………それだけ?」
ツラックが呆れたように呟いた。
翌日、ユニは昨日のことなど何もなかったかのように回復していた。
三人はいつものように朝食を食べるために食堂に集まった。
「ユニちゃん、昨日の大丈夫だった?」
「見ての通りバッチリです。回復の指輪も使ってもらいましたし、一日寝れば大したことないですよ」
「いや、あのパンチは大したことあるだろ。めりこんでたじゃん」
「私はちゃんと強化してましたし、ナティ先生も手加減してました」
「手加減の意味知ってるか?」
「私は大丈夫ですって。それよりも話があります」
ツラックがウィンナーをつつくのを止めて、肉だらけの朝食から顔を上げた。
「話?」
「昨日あの後、ナティ先生に、バベルにいっしょに行かないかって誘われたんです」
「ええ‼バベルってあの元帥様が住んでるっていうあれ!?」
ナルミシアがデザートの山をスプーンですくって、口に運びながら、驚きの声を上げた。
「王宮の後ろにあるやつか。一度入れば出れなくなるとかって噂の」
「入った人がいないから、出た人もいないってオチだったような」
「そんな話は知りませんけど、たぶんそれです。
いっしょに来てほしいってナティ先生に言われたんです。
もちろん二人がいっしょでも良いとのことです」
「おまけみたいな言われ方だな」
「ええっ‼でも凄いよ‼
普通は入りたくても入れないのに……これは行くしかないね」
「ツラックはどうします?」
「じゃあ、俺も行くよ」
「三人全員で行くって伝えときますね」
ユニはバランスの良い朝食を頬張りながら、二人の皿の上を見た。
「二人とも野菜はどうしたんですか?」
ツラックとナルミシアは顔を見合わせた後、首を横に振って拒否をした。




