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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
学校の怪談編
20/82

20. 手紙の後始末


 年期の入った椅子に腰掛けた。

 乱暴に座ったわけでもないのに、椅子はギシギシと音を立てる。

 その席に座ってきた者の中では、最も体重が重く、筋肉質だからだろう。

 ナティは顔をしかめながら天井を見つめた。



 まただ。

 新しく対処すべき案件が出来た。

 椅子を頑丈な物に買い換える必要があるかもしれない。

 しかし、それは無理な話だ。

 今は教会の建設に金がかかる。

 椅子ぐらい我慢しなければ。



 紙束を机に放り投げ休憩することにした。

 目をつむるとあの日が思い出される。



 曇り空の下、第四の魔王を討伐して、恩師に報告をしに来たとき、恩師は土に埋まっていた。


 いや、それは正確ではない。

 魔素体(エレメント)との戦闘で死体すら残らなかったため、そこにあるのは名前の刻まれた石だけだ。


 石に刻まれた「ウルーナ・べグリッド」の文字。

 感謝の言葉を伝えたかった相手はこの世にいない。

 しかし、魔王討伐で多くの仲間を失った直後のナティは、涙を流すことができなかった。



「私の代わりに、空が泣いてくれそうだ」



 最初に仲間が死んだときは涙が止まらなかったのに、今では誰かの死が当たり前になっていた。


 それに加えて、ユーゴだ。

 見事魔王を討伐して見せた勇者に向けられるのは慰めの笑顔。


 悲願の魔王討伐を達成したことで、ナティのライバルだったユーゴは生きる意味を失った。

 同時に勇者としての力も。

 ユーゴが勇ましく先頭を歩く姿は過去のものになった。


 死んだ仲間と恩師。

 そして今にも死にそうなユーゴ。

 一度に多くの感情がナティを襲う。

 墓場の前で倒れそうになっているナティの元に、女子生徒が手紙を渡しにきた。


 手紙を読んで、そのことを後悔した。

 悪魔の死体の処理、及び学長としての学校運営。

 戦場から疲れて帰ってきたナティに、多くの問題と感情が押し寄せた。



「まったく、魔王を討伐したというのに忙しくなるばかりだ……」



 それでも、恩師からの最後の願いを断らなかった。

 ……断れなかった。


 ウルーナは今までナティには優しく厳しく接してきたが、それはいつもナティのためだった。


 しかし、今回は違う。

 生きている間は何も言わなかったのに、死んで初めて、わがままを聞いてほしいと言ってきたのだ。


 恩師からの最初で最後、唯一の頼み事を断るわけにはいかない。


 そんなわけでこの魔法学校に不似合いな、筋肉もりもりの学長が誕生した。

 チラチラと生徒に見られるのは魔王討伐に関わったからだ。

 ……そのはず。


 学長室に籠って資料を漁ることにしたが、学校の資料を見て、もはやため息しか出ない。


 魔素体(エレメント)によって死んだ生徒に関わるかなりの出費、教会建設の圧力、悪魔の死骸探しとそのときに発生する魔素体(エレメント)の対処にかかるお金。


 それを生徒、つまりは収入源、が無くなった学校で集めなければならないのだ。


 魔王討伐の報酬を全てこれに使ったとしても足りない。

 特に悪魔の対処が問題だ。

 どこまでお金がかかるか。


 思わず唸った。

 取りあえず今日は寝ようかと思って目を開けると、そこにリーナがいた。

 悪魔の対処などについて色々と聞くために、魔法の専門家として呼んでいたのだ。


 いつも通り元気そうなリーナは、私から隠れるようにして、机の端から顔を出している。

 私の投げ出した資料を見ているようだ。



 それにしても、部屋に人が入ってきても気づいていなかったのか。

 やはり、疲れているな。

 仕方ない。

 今日は帰ってもらい、私は休もうか。


 リーナに帰ってもらおうと口を開いたとき、リーナが意味ありげにこちらを見た。



「その資料がどうかしたのか?」


「いや、その………やっぱり何でもないよっ」


「気になることがあるなら聞いてくれ」


「そ、そう?じゃあ、ちょっと聞きたいんだけど、悪魔の死骸の処理ってどうするの?」


「まだ何も決まっていない。

 中庭に埋まっていることが分かっただけだ。

 しかし、土を掘れば魔素体(エレメント)が発生するかもしれない。

 発生すればその度に大事になる。

 かといって、土を掘らなければ悪魔の死骸が残り続ける。

 ………どうしたものか」


「ねぇ、その……提案なんだけどさ、悪魔の死骸を探すの止めない?」


「まあ、学校の再建を優先するなら、それもありだ。

 というか、そのほうが現実的だろう。

 普通は国のお金で対処するのに、今回、国はこの件に非協力的だからな。

 面倒事を完全に押し付けられた現状では、学校の運営すら難しい」



 私の話を聞き、リーナが微笑を浮かべた。



「いいこと思い付いた‼」


「なんだか嫌な予感がするが……」


「中庭に教会を立てればいいんだよ‼」


「正気か?よりによって問題を一ヶ所に集めるなんて。

 それにそんなことをすれば、建設工事で魔素体(エレメント)が発生するかもしれない。

 それにもし建設出来たとして、虫や動物が教会に住み着いたときに魔獣化する……かも……………?

 まさか、リーナッそれが狙いかッ‼」


「そうゆうこと。

 魔素体(エレメント)は魔素があるから発生する。

 魔素とは生物に所属しない魔力。

 だったら魔素の拠り所になる生物を与えればいい。

 それも積極的に。

 魔素がなければ魔素体(エレメント)は発生しない。

 こうすれば時間はかかるけど、安全に対処出来るよ。

 教会に来る生徒なんて、そんなにいないと思うし」


「確かに良い案なんだが、建設と建設中に発生した魔獣の処理には相当な金がかかる。

 一部を教会に負担させるとしても、残りの金額を払う余裕はこの学校にないし、私とリーナの魔王討伐の報酬を合わせても足りるかどうか」


「大丈夫だよ。国からお金どころか、色々と協力してもらえるから」


「なぜそうなる?嫌がっていた国がそう簡単に金を出すとは思えない」


「なぜって、それはね?私が発生した魔獣を使って研究をするからだよ」


「………ッ‼なるほど、そうゆうことかッ‼」



 今まで人類は魔獣を数多く倒してきたが、魔獣の研究は進んで来なかった。

 魔獣は魔界にいて、最先端の研究施設は王都にある。

 この遠すぎる距離によって、研究は進みづらかった。

 わざわざ危険な最前線で魔獣の研究をしたがる人間もいない。

 更に、魔王が来るかもしれないのに、最前線近くに施設を作る度胸のある者もいない。


 そのため、王都で研究する人が大半だったが、距離が遠すぎて、魔獣を使って最先端の研究をすることは今までできなかった。

 だが、この計画がうまくいけば、いくらでも魔獣を研究することが出来る。



「今までわからなかった魔獣の秘密を解き明かすっていう目的のためなら、国といえども協力してくれるでしょ」



 リーナが得意気に言う。



「だが、貴族の官僚連中はそれでも渋って来るだろうからな……妥協点が必要か……」


「あくまで死骸発掘をする気があるように見せて、国の兵士を借りればいいんじゃない?

 死骸の存在がバレないようにしたいのは、国もいっしょだと思うし、そこまでならいけると思うよ」


「そうだな、なるほど。こうなったら今すぐにこの話をしてこよう」



 がさごそと資料をかき集め、ナティは外出の準備をした。



「リーナ、ありがとう。活路が見いだせた。

 珍しくしっかり考えてくれたんだな。

 これならやれる気がする」


「えへへ、どういたしまして。

 ………………まぁ、魔獣の研究が進めば、ユーゴの刻印についても何かわかるかもしれないし……」


「今、何か言ったか?」


「何でもないよ~」



 リーナも魔王討伐を経て成長したのかもしれないな。

 私も負けてはいられない。

 これからは忙しくなる。

 それと、しばらくこの学校の生徒には不自由を強いることになるだろう。

 この学校は貴族の三男しかいない、なんて言われないようにしなければ。

 あー、それとユーゴにも何かしてやらないと。

 人間関係で悩んでるみたいだから、人のいない山奥での生活を勧めてみるか。



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