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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
学校の怪談編
15/82

15. 学校の怪談 1


 暗く静まり返った校内で、足音を消して歩く人物が二人。



「ここの道は真っ直ぐでいいんじゃないですか?」



 ユニは少し眠たそうにしながらも周囲を警戒して、小声で話しかける。

 話しかけられたナルミシアは得意気に応えた。



「暗いって言っても、障害物がなかったら見つかるよ。

 私が聞いただけでも、5人はそれで先生に捕まったらしいからね。

 慎重にいくなら校舎裏を通るのが一番!!」



 いつも私に助けられてばかりのためか、ナルミシアは頼られるのがかなり嬉しいみたいだった。

 最初、暗がりを一番怖がっていたのはナルミシアだったが、今では先頭で意気揚々としている。


 明かりの乏しい校内を歩くのはとても大変だ。

 暗いからといって光を出せば目立ってしまうため、目を凝らして進むしかないからだ。

 しかし、この日は運の良いことに満月、空は晴れ気味。

 月明かりが進むべき道をかすかに照らしている。


 ネズミのように細い道を選んで進み、たどりついたのは学生寮から離れた大きな校舎だ。

 図書館や魔法の実験室、音楽室から調理室まで様々な教室のある場所。


 夜中にこの場所を通れば、風で落ちた木の葉やガラスに写った自分の顔も幽霊に見えてしまう。

 怖い噂が立つのも納得できます。


 ナルミシアが扉を開けようとするが、開かない。

 戸締まりはしっかりされているようだ。


 扉が閉まっていることを確かめたのち、閉まっている扉の上のほうをナルミシアが手で探る。

 疑問符を浮かべる私に、扉から垂れる糸を掴んだナルミシアが微笑んだ。


 糸を引くと音もなく、扉が奥に開いた。

 私は呆れてため息をついた。



「どこでそんなことを習ったんですか?」


「えへへ、独学だよ」



 石とレンガの廊下を勢いよく進む。

 足音が響きにくいので、これまでと比べて歩くのが楽だ。



「最初の怪談は……………空飛ぶ本‼」



 ユニはつまらない冗談を聞いたような表情で、またもや呆れていた。



「本を飛ばすくらい誰でもできますよ。それを見た人の近くに誰かいたんじゃないですか?」


「そんなことないッ……と思うよ」



 自信なさげなナルミシアの後ろを、本が飛んでいった。

 目線の先で、人の手が窓を開けると、本はそのまま中に入っていった。



「なんだかあんまり怖くないですね」


「そんなことないよ?ほ、ほら、手があんなに白い人はそういないよ」


「…………………………」


「わかったから無言で帰ろうとしないでよ。

 次、次のところにいこ!!」



 私の手を引っ張って、ナルミシアは階段を上がる。

 さすがに暗いので、小さな光を生み出して、足元を照らした。

 暗闇の中をぼんやりとした光が動く光景は、誰かの怪談に出てきそうだ。


 こうやって、怪談を確かめようとした人が連鎖的に怪談を生み出しているんでしょうね。


 屋上の扉を音もなく開けると綺麗な満月が目に入った。

 しかし、ナルミシアは感動している私を引きずって、背後の塔に近づく。



「ちょっと止まって……」


「うん?どうしたのユニちゃん?」



 授業の始まりと終わりを告げる鐘が塔の中にある。

 その近くの柱に何か…。



「ここの怪談の内容は何ですか?」


「ええっ、えっと…、夜に鐘をくぐると未来の自分に出会うって話が……」


「戻りましょう」


「何でッ…!?」


「いいから」



 名残惜しそうにしているナルミシアを、今度は私が引きずって、来た道を戻る。



「鐘の近くの柱に誰か居ましたよ」


「えっ、本当?全然見えなかった。

 あっ、未来のユニちゃんが?」


「多分違うと思いますよ。

 こっちに気づいていた様子ですけど、何もしてこなかったところから見ると、あれは先生ではなく警備員ですね」


「警備員?そんな人いるの?見たことない」


「いるみたいですよ。

 ここの怪談はおそらく、あの人に気づかず近づいた人が変な勘違いをしたのでしょう」



 以前、サリナがこの学校に侵入出来なかったのは、あの人が見張っているからですね。

 暗くてよく見えませんでしたが、職員の制服を着ていましたし、学校の関係者と見て間違いなし。

 私が近づいたら突然気配が現れたので焦りましたが、帰れって意味だったんでしょうね。


 しょんぼりしているナルミシアを先頭に、次の場所を目指す。

 ナルミシアはとぼとぼと階段を下りて中庭に出た。


 短い草花の中にレンガの道があり、教会に続いている。

 月に照らされた教会は幻想的な雰囲気をまとっている。

 教会は木々に囲まれていて、周囲の建物から見えにくくなっていた。

 学校に資金提供している数少ない団体の中に教会があるため、学校内にも教会が建てられたとか。


 教会。

 異世界の神を崇めてる人達って聞いた気がしますが、結局よくわからなかった覚えが……。

 家庭教師の先生も「知らなくて良い」って言ってあまり教えてくれなかったですし。


 教会の中はステンドガラスを通して、うっすらと月明かりが差していた。

 たくさん並んでいる長椅子を背に、床に座って隠れる。



「次の怪談は何ですか?」


「勝手に動く石像……」



 すっかり元気のなくなったナルミシアが呟いた。



「あのさ、もう帰ろうぜ。もう満足だろ?」



 背後から声がした。



「………そういえばいましたね、ツラック。

 いつからいたんですか?

 離れて歩いていたので、気づきませんでした」


「離れて歩いてたのわかってんじゃねえかッ‼

 って、お前らが強引に連れてきたんだろッ‼」


「叫ばないで下さい。先生に見つかったらどうするんですか?」



 私とナルミシアがお風呂場を出て、しばらくしてから外に出ようとしたとき、ばったりツラックに出会ったのだ。


 夜遊びを目撃されたからには放っておくわけにはいかず、途中まで強引に連れてきた。

 しかし、途中からは諦めて大人しくなったため、すっかり忘れていた。

 今帰れば自分だけ見つかる可能性があるので、帰れないのだろう。



「それで、石像はいつ動くんだ?」


「………………………………そのうち?」


「適当だな、おい」



 あれ?まぶたが………重い……。

 うぅぅぅ、なんだか眠たい。

 


「ん?ユニちゃん?」



 ナルミシアが問い掛ける頃にはもう、ユニは眠っていた。



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