14. 学生寮
実戦演習とツラックの一件を終えて学生寮に帰る頃には、日が傾き、辺りが暗くなっていた。
学生寮は一部屋に二人が暮らしていて、ユニの部屋は二階の奥にある。
キシキシと鳴る廊下を通り、奥の扉を開けて中に入った。
部屋の中には左右に机とベッドが1つずつ置いてあり、左側がユニの物だ。
そのはずなのだが、左のベッドに同室のナルミシアが寝ていた。
トントンと肩を叩いても起きないので強く揺さぶると、やっと目を覚ました。
「んー、ユニちゃんお帰りー」
寝ぼけた様子で私の枕を抱き抱えている。
目を離したらすぐにまた寝てしまいそうだ。
「なんで私のベッドで寝てるんですか?」
「ふぇ?ユニちゃんのベッド?」
「そうです。そこは私のベッドです」
「あー、思い出した。
ユニちゃんの良い匂いを嗅いでたら眠っちゃたんだ。
ユニちゃんが帰ってきたから本物の匂いを嗅げるぞー」
言い終わる前に私に抱きつき、目を閉じて寝ようとする。
「何やってるんですか……私、汗をかいてるので、引っ付かないでください」
「ふふっ、ユニちゃんに汚されるなら本望だよ」
ナルミシアは私の数少ない女友達で、初めて会ったときから「ユニちゃんかわいいー」と言って引っ付いてくる。
王都第一魔法学校は、行き場のない貴族の三男が多く、女子はかなり少ない。
女の子なら花嫁修業をさせて、どこかしらに嫁がせるからだ。
そのためここにいる女の子はそれなりに特別な事情のある人が多い。
ナルミシアも一族に伝わる特殊な魔法を発現したことで、学校に通うようになったらしい。
「私はこれからお風呂に行きますけど、どうします?」
「もちろんいっしょに行くよー」
「なら私に引っ付くのを止めて準備をしてください」
「はーい‼」
最初こそナルミシアに圧倒されて戸惑っていた。
しかし、1ヶ月、2ヶ月と一緒にいるうちに、ナルミシアは寂しがり屋なんだと気づいた。
それからは過剰なスキンシップも気にならない……こともないか。
今ではナルミシアの扱い方も分かり、仲の良いルールメイトになっている。
私にとってもナルミシアは心を許した大切な友達だ。
部屋を出ると階段を降り、一階に着くと玄関横の大きな階段を更に降りる。
以前、他の目的で穴を掘っていたところ、偶然温泉を発見し、現在はこの学校のお風呂として使われているそうだ。
ちなみに、地中にある温泉は魔法で換気と有害な成分の除去を行っている。
そのためお風呂に続く廊下にいても湿気を感じることはない。
廊下には魔法でオレンジ色の光球が浮かんでいて、ぼんやりとした明るさがお風呂の雰囲気を醸し出していた。
左右男女に分かれ、私は女子風呂の更衣室に入った。
いつも通り私とナルミシアの他に人影は無く、貸し切り状態でお風呂を満喫できる。
「さぁさぁ、ユニちゃん。お風呂が私たちを待ってるよ‼」
「走ったら転びますよー」
恥ずかしがる様子もなく裸になったナルミシアに手を引かれて、お風呂場に入った。
入って左側に歩き、壁についている鏡の前に立つ。
鏡の横にはガラスでできた箱とそこから伸びる管、そしてその先端にガラス細工の持ち手がある。
ガラスの持ち手を握り、軽く魔力を込めた。
水の属性魔法と火の属性魔法の応用である熱の魔法を使う。
すると、持ち手からほどよい量のお湯が出てくる。
ナルミシアの持ち手からは凄まじい勢いで、冷水が吹き出した。
「ユニちゃん、やっぱりダメだよー。寒いよー」
「いい加減何とかならないんですか?
シャワーを使いこなせなかったら、この先ずっと困りますよ」
自身の作った冷水を浴びて寒そうなナルミシアが、私のお湯を求めて、いつものように引っ付いてくる。
魔法学校ということで、学校内では魔法を使いこなせないと満足に暮らせないようになっている。
向上心のない生徒に魔法を練習させるため、ナティ先生が仕組んだものだ。
シャワーはそのためにお風呂に設置された魔道具だ。
ガラスの箱には魔石が入っていて、魔力で生み出された水が触れると、その水に汚れを落とす効果が付与される。
使いこなせばお湯を好きなだけ使えるので、女子生徒や水圧に不満のあった人には大好評だった。
しかし、それと同じくらい使いこなせない人には大不評だった。
といっても、使いこなせないのはナルミシアぐらいですけど。
「仕方のない人ですね、まったく」
寒そうなナルミシアに水量を増やしたお湯をかける。
ぶるぶる震えていたのが、温かいお湯を浴びてすぐに落ち着いた。
「やっぱり、ユニちゃんのシャワーは最高だねぇ」
「はい、それではシャワーの練習をしますよ。
自分のシャワーを持ってください」
「いつもこの練習してるけど、一向に上手くならないよ。
やっぱり私には無理なんだって。
私は固有魔法を持ってる代わりに、普通の魔法はからっきしなんだから許してよー」
「諦めずに練習はちゃんとしてください。
しないならかけてあげませんよ」
「そんなこと言わないでよー。体洗ってあげるからさー」
むぎゅっ、とナルミシアが私を抱き締めて、胸を擦りつけてくる。
ナルミシアいわく、汚れを落としているそうだが、擦らなくても魔法の効果で汚れは自然と落ちる。
つまり、抱きつきたいだけなのだ。
むにゅんむにゅんと背中にナルミシアの胸があたる。
大きい………ッ‼
なんでこんなに大きいんですかッ‼
私は……私の胸はぜんぜん成長しないのに…。
「も、もう、汚れは取れました。離れてください。
あと、そこらへんに水を撒いておいてください。」
「りょうかーい」
ナティ先生と放課後の実践演習をしているため、いつもお風呂は一番最後になる。
結果、お風呂掃除は二人の仕事になっていた。
シャワーの水を撒けば、魔法の効果で汚れは落ちるので、掃除といってもかなり楽だ。
体を洗い終えて、やっと湯船に浸かる。
浴槽は広く大人数でも入れるが、この時間帯にいるのはやはり二人だけだ。
濃い湯煙の中、ナルミシアはぷかーっと浮きながらお風呂の中を漂っている。
大きなおっぱいが水面に浮かんでいた。
注意しようかと思ったが、疲れていたので、無視して休憩することにした。
ナティ先生との授業にツラックさんが……じゃなくてツラックが加わることになりましたね。
どんな魔法を使うのか分からないと、連携が取れないので今度聞かないと。
でも、ちゃんと教えてくれるか不安ですね。
意地っ張りな人ですから。
うとうとしていたユニの頭に、流されてきたナルミシアの頭が衝突。
今こそ注意すべき時だと思い、口を開こうとしたが、ナルミシアが先に話出した。
「ねえ、ユニちゃん。明日の夜、遊ばない?」
「明日ですか?
明後日なら土の日で学校は休みですし、明後日じゃダメなんですか?
それに、夜に遊んでるのが見つかったら怒られますよ」
「明後日の土の日とその次の太陽の日は用事があるから遊べないの。
でも、面白そうな話を聞いたから、いっしょに確かめたいと思ってね」
「その話と言うのは?」
「それがね、この学校に伝わる怪談があるらしいんだよ」
ナルミシアはイタズラっぽい笑みを浮かべて言った。




