13. 実戦演習
「はい、今日はこれまで習った魔法を、実際に使ってみたいと思います。
ケガをしないように気をつけて下さい。
以前言ったように、体を強化する魔法は筋肉痛が………」
いつもは我慢できずに寝てしまうけど、今日は違う。
チュンチュン、とささやいてくる小鳥達の声を聞いても、私の意識は明瞭なまま。
今日は待ちに待った魔法の実践演習。
シールとの戦闘後はひどい筋肉痛に悩まされたけど、ナティ先生の授業のおかげで身体能力向上は完璧。
でも、ナティ先生が相手だと強化魔法以外を使う余裕がない。
今回の授業で初めて、魔法っぽい魔法を使える。
ユニは軽く準備運動をすると周囲の様子を確認した。
他の生徒は自身に強化魔法をかけて一喜一憂している。
そんな中。
私はユーゴ直伝の身体能力向上で障害物を軽々と乗り越え、重たい鉄塊を持ち上げ、鬼ごっこで最後まで生き残った。
私に追い付こうと魔法を多用した生徒は、魔力切れや筋肉の痙攣で次々と授業を退場していく。
強化魔法と一口に言っても、筋肉の強化、心肺機能の強化、神経の強化等の僅かな違いによって、得られる効果は大きく異なる。
人によって最も合っている魔力比率が異なるせいか、自分の魔法にいちいち名前をつける人も少なくない。
体の小さな私は体表の強化を弱めにして、スピードに影響する足の筋肉を強化している。
敵の攻撃が当たればダメージは大きいが、小さく速い私に攻撃を当てるのは至難の技。
ユーゴとナティ先生の授業を受けたことで、私は学校の授業のみを受けている他の生徒に圧倒的な差をつけた。
他の生徒がついにはいなくなり、演習場は私の貸しきりとなった。
カサミナ先生も私の勝手な練習を黙認している。
息を整える。
右手に意識を集中。
力を込めると魔力が集まり、手がボールに包まれているような感覚になる。
右手を前方に突き出す。
熱く燃えたぎる炎のイメージ。
魔力の塊が右手からすぽっと抜け、3メートル離れたところで爆発した。
「ふぅ、なんとか成功です‼
これならナティ先生に試せるかもですね。
ちょっと手が痺れるので、練習がまだまだ必要ですけど」
その後、私は授業の時間が終わるまで炎の魔法を撃ち続けた。
終業の鐘が鳴り、演習場の外に出ようとすると、ナティ先生と見知らぬ生徒が待っていた。
「ユニ、言いたいことがあるそうだ」
事情を知っている様子のナティ先生が、次の展開を察して微笑んでいる。
何やら怒っている様子の横の生徒が話し出した。
「ユニッ……、お前は生意気なんだよッ!!
いきなり入ってきたと思ったらナティから――ゥグ―――ナティ先生から直接授業を受けやがって、調子に乗るなよ‼」
ナティ先生を呼び捨てにしようとして、途中で頭を殴られていた。
「俺の名はツラック=イース、勝負だッ!!
俺が勝ったら、ナティ…先生の授業はこれからなしだ‼」
「そうゆうことだ、ユニ」
「えっ‼どうゆうことですか?」
「ユニがこいつを倒せば何の問題もない」
ナティ先生から練習用の剣を手渡された。
よくわからないが倒せばいいらしい。
ツラックは私と同じくらいの背丈、体格。
魔法が勝敗を分ける。
ツラックを凝視して、攻撃にあわせるべく剣を構えた。
とりあえずは様子見をして、実力を測るのがいいかな?
「それでは…………初めッッ‼」
ナティ先生の合図の直後、ツラックは自信満々に前へ出た。
左右に揺れながら距離を詰めてくる。
「何ですか!?この動き‼」
ツラックは不規則に揺れつつ剣を振りかぶったかと思うと、自分で自分の足に引っ掛かった。
私の目の前で、ツラックがずてっと頭から倒れこんだ。
「えっ………あの…………」
これは……どうゆうこと?もしかして罠?
なかなか起き上がらないツラックにそろりそろりと近づく。
頭を剣先でつつくと、うめき声が聞こえる。
そのとき、不満げにナティ先生が口を開いた。
「この勝負、ユニの勝利ッ」
「えっ?」
「ほら、立て、ツラック」
ナティ先生に肩を支えられて、ツラックが立った。
転んだ拍子に足を擦りむいたようで血が滲んでいる。
うぅぅぅっと呻きながら、ツラックは泣きそうな顔をしていた。
またもや状況がよく分からず、オロオロしていたが、思いきって聞いてみる。
「あのー……、今のって、何だったんですか?」
恨めしそうな顔でツラックが睨んでくる。
「俺の……敗けだよ……。
ナティ先生、もういいよ、自分で歩けるから」
「こいつは弱いわけじゃないんだ。ちょっと頭が悪いだけで」
ナティ先生が庇っているようで全く庇えていないことを言う。
ツラックはばつが悪そうに下を向いた。
「ツラックはユニの前に、私の個人授業を受けていたんだ。
授業についてこられず、途中で音を上げてしまったがな」
この人もナティ先生の授業を受けていたんですね。
その割には…。
「今回ユニに挑んだのは、自分の逃げ出した授業を受けている人物がいると聞いて実力を見たくなったんだろう。
魔力が切れているであろう授業終わりなら有利になると考えていた。
そうだろう?ツラック」
「………そうだよ」
「私が魔力切れなのは分かるんですが、……なんでツラックさんも魔力切れしてるんですか?」
「お、お前のせいだよッ‼
お前が鬼ごっこでめちゃめちゃ速かったからだよッ‼
追いかけてたら魔力が無くなったんだよッ‼
っていうか、同じ教室だろッ!!さん付け止めろッ‼」
鬼ごっこで粘ってたんですね。
この人、ちょっと馬鹿なのかな?
ん?……そう言えば、
「もしかして、さっきの左右に揺れる攻撃って……」
「疲れてふらふらしてただけだよッ‼」
それで倒れたツラックの頭を、私は剣先でつついていたんですね。
「あの……、その、なんかごめんなさい」
「謝るなよッ‼恥ずかしくなるから謝るなよッ‼」
ユニの気づかいでツラックは逆に泣きそうだった。
目がうるうるしてた。
ナティ先生は呆れて、はぁ…っとため息をつく。
ちょっと気まずい雰囲気。
何か、この雰囲気を変える案は……?
「そ、そうだ‼いっしょにナティ先生の授業を受ければいいんですよ‼」
「えっ」
「ユニ、それはいい考えだ‼」
ナティ先生はウンウンと頷く。
「いや、ちょっと待て、俺はやりたいなんて」
「なんだユニに敗けたままでいいのか?」
「そうゆうわけじゃないけど……」
「じゃあ、次の授業からは二人で来い。
私なら二人同時に相手をするぐらい余裕だ。
だから遠慮せず積極的にかかってくるんだ、いいな?」
「はい‼頑張りますッ‼」
「なんでそうなるんだよー」
練習場の中にツラックの情けない声が響く。
ユニとナティは満足そうに笑っていた。




