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元勇者の先生と勇者になりたい少女  作者: 小骨 武
学校の怪談編
12/82

12. 忘れられてた人



 太陽が頭上で存在感を示しているお昼頃、王都の中心部は賑わっていた。

 見るからに高そうな服をした貴族が、目的もなく、あえて言うなら余裕のある暮らしぶりを見せつけるために、通りを占拠している。

 彼らの歩みはかたつむりよりも遅く、出会った知り合いとは必ず会話をすることで時間を浪費していた。


 俺はそんな彼らの間を掻き分けて、せかせかと足早に前へ進む。

 ときどき、店内をチラチラ見ては、目当ての人物がいないかと探していた。


 王都の端に行くにつれて貴族の姿は消え、代わりに仕事を終えた兵士や商売をする人が増えてきた。

 道をそれて、路地裏に入る。

 そこで歩みを止めて、ある店に目をつけた。


 欲求不満な兵士が、露出度の高い女性に手を引かれて店の中に吸い込まれていく。

 店の看板からして、金のかかる酒場のようだ。


 視線の先でまたもや兵士が女性に絡まれている。



「ねぇ、そこの兵士さん、一緒にお酒飲まない?」


「おお、いいねえ!!それじゃ、ちょっとだけお邪魔しようかな?」



 兵士に腕を絡み付かせて、店に戻る女性が一瞬、俺を殺意のこもった目で睨む。

 次の瞬間には何もなかったかのように、魅惑的な笑みで兵士と談笑していた。


 いつものように殺気をまとった彼女を懐かしく思う。

 同時、初めて見る女性らしさが、以前の彼女とあまりにも異なっていたため、俺は混乱した。



「………吹き矢を使っていたあの召し使いも女性ってことなのか?

 …………そんなまさか……」



 ユニの召し使いに話しかける機会を逃したので、仕方なく彼女の仕事が終わるまで待つことにした。

 わざわざこんなことをしているのには理由がある。


 シールとの戦闘の後、俺の独断でユニが学校に行くことになった。

 召し使いは当然、自分も学校の中に入りユニの世話をすると思っていたようだ。

 しかし、ナティは生徒の自立を妨げると言って、召し使いが学校に入ることを許可しなかった。

 召し使いは強引に学校内に侵入しようしたが、思いの外、学校の警備は厳しく、侵入を阻まれたらしい。

 幾度となく挑戦するも、最終的にはユニの命令で召し使いが諦めたことで、事件は解決した。

 表面上は。


 やることのなくなった彼女の今後を聞く前に、召し使いが姿を消して今に至る。


 夜も深まり、俺は寝ぼけながら酒場を監視していた。

 そこに、足音を消して背後に近づいてくる人物。

 眠気は消えて、頭が冴えてきた。



「足音の消し方は少し古めの暗殺者って感じだな。

 ちゃんと足音は消せているが、風の流れの変化や微かに聞こえる衣擦れの音でいるのが丸分かりだ。

 それに頑張って俺に近づいてどうする?

 俺を殺す気か?」



 背後にいる召し使いに向かって話しかけた。

 後ろを振り向くと、武器を持たずに、いつものように殺気を振り撒きながら、召し使いが立っている。

 いつものメイド服ではなく、薄っぺらい寒そうな服を着ていた。



「私を笑いに来たのですか?

 あなたのせいで仕事を……、いえ、使命を失った私を」



 怒りが頂点に達している召し使いに、俺は深々と頭を下げる。



「悪かった。

 ユニのことしか考えてなかったせいで、お前に酷いことをしてしまった」



 この召し使いにとっては、ユニの世話をすることが使命だったらしい。

 ユニから何となく聞いたが、召し使いが怒ってるだろうってことしか分からなかった。

 だから、とりあえず謝っておく。



「わざわざ頭を下げに来たのですか?」


「それだけじゃない。

 ナティに言って、少しの時間なら会えるようにしてもらった。

 …だから、許してほしい」


「許したらどうするつもりですか?」


「許してもらえたなら、まずは……そうだな…、名前を教えてくれないか?」



 そんなことも知らないのかと、召し使いはため息をついたようだった。

 ろくに口を聞いてくれなかったのに、知るわけ無いだろ。

 ユニが名前を言ってたけど、忘れちゃったし。



「………はぁ……私の名前はサリナです」


「サリナ、もう1つお願いがあるんだが……。

 その前に、これからもユニに付いていきたいという気持ちはあるか?」


「えぇ、最悪の場合は、あなたを殺してでもユニ様に付いていきます」


「殺されるのは勘弁だな。

 まあ、それほどの気持ちがあるなら交渉成立だ」



 眉をひそめているサリナに、俺はとあるお願いをした。



「あなたの考えは分かりました。

 ユニ様のためなら言う通りにしましょう。

 ところで、あなたはユニ様の状態を理解しているのですか?」


「状態?なんのことだ?」


「………そうですか。知らないのですか。

 知らないならそのままでいいでしょう。

 あなたと関わるうちに、時間の止まっていたユニ様は変わりました。

 気にしなければ何事もなく、気付くこともなく、問題は解決されるのでしょう」


「んん?何の話だ?全く分からないぞ」


「分からなくていいのです。

 それがユニ様のためになるでしょう」



 何のことを言っているのか気になるが、問題ないと言うなら放っておくとしよう。

 下手に探って、その問題とやらが表面化したら嫌だし。


 話が終わるとサリナはどこかへ去っていった。

 服が風に揺れている。

 やはり寒そうに見える。


 ユニだったらしばらく世話をしてなくても、給料をくれると思うけど。

 働いていないのにユニから給料をもらうのは、生活が貧しくても嫌ってことなのかな。

 ユニへの気持ちは本物のようだな。



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