第六話 もう一人
「勉強はダメだけどな」
ふっとため息が漏れるように言葉が出ていた。
「それを言うなよ!」
光はそれにすぐに反応をする。
そっと視線を後ろの松岡さんに移すと、少し下を向きながら笑っているのが見えた。
――良かった。
僕はホッとする。変なヤツだと思われたくないから。なぜかは分からないけど、そう思った。
「ねぇねぇ私も一緒に案内するよ。いいでしょ!?」
その声は光の後ろの席で、松岡さんの隣の席でもある僕のもう一人の幼馴染、斎藤果桜。僕にとって唯一今でもまともに話せて下の名前で呼べる女の子だ。
「な、何で果桜まで?」
声がした方に顔を向け果桜を見た。
「いいでしょ別に!! ね!? 松岡さん」
肩まで伸びた黒髪を後ろで束ねたいわゆるポニーテールを上下に揺らし、身体も机に前のめりになりながら隣の松岡さんをジィっと見つめる果桜。
「え、ええ。もちろんいいけど……」
その勢いに少し戸惑っている感じで松岡さんが返事をする。
「ごめんね松岡さん。こいつは斎藤果桜。僕のもう一人の幼馴染なんだ。一緒に……良いかな?」
「そう……幼馴染なんだ……」
松岡さんも果桜の顔を見ながら微笑んだ。
「良かった!! 私の事は果桜とか、カオとか好きに呼んでね」
果桜もニコニコと笑顔を向けている。
何か二人の間に漂う空気が変わったような気がして僕は話を変えようとした。
「あ、あの……松岡さん。案内って放課後でいいんだよね?」
「う~ん……」
左手を右腕の肘に添え、右手を右ほほに添えて考え込む松岡さん。
「休み時間でもいいんだけど……」
視線を上げて僕の方を見ると小さな声でつぶやいた。
僕にはその声が何を言っているのか聞こえなかったけど、隣にいた果桜はしっかりと聞こえていたみたいで、目をキラキラさせて松岡さんの右手をガっと握る。
「じゃぁ、お昼休みにこの階を見て回って、残ったところは放課後にしようよ!!」
果桜はそのまま「ね?」って言いながら僕と光に同意を求めてきた。光はオッケーとか言いながら頷いてるけど、僕は悩みながら松岡さんの方に視線を送る。
松岡さんは僕たちの三人のやり取りをすごく楽しそうに見ていた。
本当に眩しいものを見つめるように凄く優しい笑顔で。
お読み頂いている皆様に感謝をm(__)m
少しずつですが物語は進んでいきます。匠も柚葉もまだまだ気持ちは分かっていません。
これから先どうなって行くのか……
匠には少し変化の兆しがありますけどね(笑)
楽しんで頂けると嬉しいです(≧◇≦)
by 藤谷K介
※文章を若干改稿しましたm(__)m