第三話 無色からの出発
「5年生の途中だが柚葉、転校しても良いか?」
地元で医師をしている父が突然、転校の話を持ち出してきた。転校に関しては異論はない。
――次の学校……少し不安だからパパに聞いてみようかな……
「編入試験があるの?」
「いや、無いよ」
「どんなところでどんな学校?」
柚葉は更に父に確認する。
「関東の北部で都会でもなくかといって田舎でもない一般的な住宅街で、学校は学区内の公立の小学校だよ」
穏やかに話す父の笑顔を見ながら柚葉は新しいところでの不安はあったが公立と聞いて、今の環境じゃない学校への期待が大きかった。
父と母に連れられ新しい小学校の門をくぐった。職員室を探していると男性が声をかけてきた。
「松岡柚葉さんですか?」
「はい」
「はじめまして、柚葉ちゃんの担任の吉田勉です。よろしくお願いします」
職員室に案内され教科書やドリル等をもらい今日使わない分は父が持ち帰ってくれる。
ごそごそと父とやり取りしていたその時、吉田先生が
「松岡、行くぞ~」
そう言われ父に「よろしくね」って小さな声でお願いする。 両親とは職員室の入り口で別れた。帰る二人の後姿を心細く見送った。
先生の後を静かにをついていく。
教室へ行く道のりで先生が「私が合図したら入ってきなさい」と教室に入るときの約束事も決めてある。
教室につき吉田先生が教室に入っていき、ドキドキしながら先生の合図を待つ。
「えぇ~と、まずはだなぁ、新しい仲間を紹介する。はい、入って来て」
いよいよだ。
緊張感がピークを迎え教室に足を踏み入れた。教壇の横まで歩いていき前を向いた。
「はい、じゃぁ自己紹介してくれるかな?」
吉田先生が私に声をかけた。
「はい」
そして一度グッと目を瞑りクラス中を見回してから――
「私の名前は松岡柚葉です。よろしくお願いします」
挨拶が終わると吉田先生が
「はい。じゃぁ席は……匠の席の後ろが空いていたな? そこに座ってくれ」
「はい。わかりました」
席の場所を探そうと教室中を見回すけどなかなか見つからない。先生に助けを求めるように視線を投げかけた。
私からの視線を感じたのか、吉田先生が窓際に顔を向けてある男の子に声をかけてくれた。
「匠……すまんが手を上げてやってくれ」
「あ、は、はい!!」
スッと手が上がり、それを目指し歩いた。席に座るとき
「たすく君。よろしくね」
私は無意識にそう挨拶をしていた。
柚葉sideを楽しみにしてくださっていた皆様、ありがとうございます。これからは匠とのやり取りが増えていきますので楽しんでもらえるように、あんちゃんと頑張ります。
By 菜須よつ葉