第二話 桜色
「お~い、静かにしろぉ~」
担任の先生である、男性教師の吉田勉がそんな言葉と共に教室へと入ってきた。
それまで教室のいたるところでがやがやと話をしながら騒いでいた生徒と共に、僕らはガタガタと机や椅子を戻しながら自分の席へと移動する。しばらくするとみんな自分の席について静かに先生の次の言葉を待っていた。
いつもならここから今日一日の注意事項などを一通り説明した後で、その日の日直が前に出て学活とよばれるクラス内による話し合いが始まるのだけど、この日は違った。
「えぇ~と、まずはだなぁ、新しい仲間を紹介する。はい、入って来て」
先生が言い終わると同時位に教室の入り口、先ほど先生が入ってきた場所に「バッ」という見えない音と共にクラス全員の視線が集まる。
少し時間が有ってから――
――その子は入ってきたんだ。
肩まで伸びる黒い髪がさらさらと音を立てるように流れていて、姿勢も良くて色白で顔も小さな女の子。クラスの男子の何人かが息をのんだのが分かる。そのくらいこの時の彼女はこの辺で一緒に過ごしてきた周りの子達とは、体から放たれている雰囲気が違って見えた。僕にはそれが少し鮮やかな桜色をしているように見えた。
――キレイだなぁ……
そして歩いてくる彼女は教壇の横にスッと並び立って静かに止まる。
クルっと教室の中の方へ向きを変えみんなの前に顔を見せた。
――な、なんだ?
瞬間に何かが僕の中に生まれた。でもその感覚が[何か]なんて分からない。
「はい、じゃぁ自己紹介してくれるかな?」
「はい」
少し高いけど耳障りというよりも心地いい感じの声で返事する女の子。
そして一度だけグッと目を瞑ると栗色の大きな瞳でクラス中を見回してから――
「私の名前は松岡柚葉です。よろしくお願いします」
小さな体を丁寧に深く曲げてお辞儀をする。身体を戻した後の顔は凄くキラキラと満面の笑みで輝いて見えた。
――まつおか……ゆずは……か。
僕は独りつぶやいた。誰かに聞かれたかもってすぐに辺りを見回すけど、みんなまだ彼女を見たまま動かないでいた。
「はい。じゃぁ席は……匠の席の後ろが空いていたな? そこに座ってくれ」
「はい。わかりました」
先生の言葉に反応して彼女が返事をする。同時に僕はビクッとした。
「匠……すまんが手を上げてやってくれ」
「あ、は、はい!!」
スッと手を上げると、彼女はそのままこちらの方へと歩いて来て、隣を通り後ろの席へとたどり着く。
「たすく君。よろしくね」
後ろから掛けられた言葉にビクッとしながら振り向くと、そこには先ほど見たよりも満面の笑顔を見せる彼女がいた――
お読み頂いている皆様に感謝をm(__)m
まずは匠sideをお楽しみいただけましたでしょうか?
次回はよっちゃんの柚葉sideです(*^^*)